44.「予期せぬ訪問」
今日もいつもよりも校内が騒がしい気がする──そんな様子を疑問を感じながら僕は教室に入った。
「あ、おはよう小鳥遊君」
「おはよう。何だか今日はざわついてるけれど何かあったの?」
「あーそれはね、ていうか小鳥遊君は聞いてないんだ」
頭に? マークを浮かべるクラスメイトの子に彼女達がそわそわとして落ち着かない理由を尋ねてみた。
「実はね、明日理事長の元に学園外からお客様が見えるらしいの。その話題で持ちきりなんだー」
「外部から学園を訪ねて来る人なんて珍しくはないと思うけれど……? そんなにすごいひとが来るの?」
「その反応だと本当に何も聞かされていないみたいね」
誰か有名人でも来るんだろうか? 女子はそういう話題が好きだろうし仮に事実だとしても僕には関係ないことか。
「あのね、明日理事長を訪ねてひとっていうのは【小鳥遊美鈴】さん。確か小鳥遊君のお母さんだよね?」
「えっ……? それって本当なの? なんで急に母さんがー」
プロジェクトに関する報告書は提出しているはずだからわざわざ来る必要性を感じない。第一にあの人が息子の通う学園に興味を持つとも思えない。
プロジェクトの為に僕をここに通わせうように手続きしたのは母さん。あの人はいつだって仕事を一番に考えている、だから僕の事なんて気に留めてもいないだろう。
神崎さんを訪ねて来るらしいから何か重要な用件があるに違いない。
子どもの頃参観日にすら来たことがないあの人が──仕事ばかりですっかり僕らの親子関係は冷め切ってしまっている。
僕だって今更母さんに何かをしてもらおうとなんて考えていないし、学園を卒業したら一日でも早く自立するつもりだ。
もちろんプロジェクトに関わっている間は結果を残す為に真剣に取り組むけれど。
「小鳥遊君のお母様って確か政府とかにも顔が効くでしょ? 女性の社会進出の基礎を作ったとも言える人じゃない。そんな有名な人に会えるなんてここに通って良かったわー」
「雑誌とかに特集ページ持ってたりするし女性からの支持はすごく高いんだよね。うちなんて親子揃ってファンだもん」
嬉々として母親の話をするクラスメイトに僕はどんな反応を返したらいいのかわからなかった。彼女達が憧れている【小鳥遊美鈴】の姿は家庭を犠牲にして築き上げたものだ。
それは僕が一番理解している、親の仕事のことに口を出すつもりないけれど、母さんが人気のある人物だというのは知らなかった。
僕は周りに家庭の事を話すような親しい相手はいなかったし、第一に僕が彼女の息子だというのも知られていない事の方が多い。
どうやらこの学園に通う子が僕が母さんの子供だと言うのを知らされているようだ。ある程度は覚悟してはいたけれど、正直昔のことを聞かれるのは気分が良いことじゃない。
いつも一人で自分の部屋で遊んでいた。退屈はせずにゲームにインターネットに意外とひとりでできる遊びはあるんだ、たまに体を動かすくらいで、それ以外はあまり外に出ていない。
*
勇人のそんな様子にいち早く気づく生徒がいた──御崎智佳だ。
彼の母が学園にやって来るという話題をクラスメイトに聞いてもピンとこなかった、けれども小鳥遊美鈴の名前は聞いたことがあった。
自分の母が気にかけていた人物でなんとか彼女の力を借りたいと色々と交渉などもしてたらしい。
勇人自身が自分のプライベートな話題を口に出さないのは言いたくないからだというのは分かる。
智佳も実家のことを話すのは好きじゃない。小鳥遊家の家庭事情に口を出せるほどまだ彼と親しいわけじゃない。
きゃあきゃあ言いながら美鈴の話をするクラスメイトの輪の中で無理して笑顔を見せる勇人の様子を見ながら自分と彼との接点を考える。
仮に小鳥遊君と恋人同士になれたとしたら、彼の母親と会う機会だってやってくる、その時にあたしはどうするんだろう?
先生が教室に入ってきても騒ついた雰囲気はなかなか治らなかった、自分の席に戻る途中で小鳥遊君はあたしと目が合う──逸らしはしなかったけれど、すぐに顔を前に向けて香月先生の話を聞き始めた。
この間街に出かけてからあたしは相倉さん達と親しくなる、藤森さんは相変わらずだけど彼女なりに何か考えていることなんだろうから少なくとも口を出すほどじゃない、LIMEで色んなやりとりをするうちに友達っていいなぁと思えるようになる。
まだ知り合ってから日は浅いけど、あの子達と仲良くやっていきたい、相倉さんとお料理の話をしたり、女子トークは広がりを見せていた。
その居心地の良さに今は満足してる──あたしがこの学園に通っている意味、それはわすれないようにしなくちゃね。
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明日母さんが学園にやってくるというのは他のクラスにも知られているようだ。いつもと違った雰囲気の校舎で僕はより一層目立ってしまう。廊下で会った他クラスの子の中にはメイクをしている子もいた、元々は女子校だからそれがごく当たり前の光景なんだろうけど、男の僕にはイマイチ慣れない。
廊下で母さんについて話す子たちの会話は意識しないのに耳に入ってくる。
自分の親が割と有名人なんだなって改めて実感させられた、それでも彼女たちはうちの家庭事情なんか知るはずも無いだろうし、理想を抱いているのはテレビや雑誌とかで見る【小鳥遊美鈴】という女性なのだから。
思いつきで行動するような人じゃ無いけど、何の理由があって学園に来るのだろうか? まあ、少なくとも僕を気にかけているわけじゃないというのは分かる。
神崎さんに大事な用があるんだろう。騒ぎにならないように生徒が授業を受けている間に来るらしいけど……。
僕は何となく母さんに会いたく無い気がして、放課後はすぐに寮の自分の部屋に戻ろうかと考えていた。
相倉さんからLIMEにメッセージが届く──この間彼女たちと街に出かけてから積極的に仲を深めようとしてくれている、正直ありがたいことだなって思う。僕自身では絶対にそんなことはできないだろうし。
いつのまにか小鳥遊班とかいう名前が付けられた僕らのグループは午後の時間を共有することになる。玲さんは仕事があるらしくて付き合えないみたいだけど「後ほど時間を取ってもらえるとありがたい」という返信をもらった。
僕らは待ち合わせの時間を確認してからそれぞれの教室に戻る──今日はどんな楽しいことが待っているんだろうか? 今から楽しみだ。




