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43.「初めての体験は幸福感を覚える出来事でした」

 心地よい春の風が部屋の中に吹き込んでくる。僕は伸びをしながら朝の日光を浴びて「今日も一日頑張ろう」とやる気にスイッチを入れた。

 ここ最近は学園での生活が充実している、親しい女の子も増えたし何よりも学校に通っていて楽しいと感じるようになってきたんだ。彼女達からいい影響を受けてる。


「さて、今日はどうしようかな?」

 放課後の予定を考えながら制服に着替える。周りに積極的に関わっていこうと決めたけれど、自分から行動を起こすのは結構難しい……。

 いつだって自分からそう言った行動を取った事がないからきっかけづくりをどうするべきなのかと考える。

 今はまだ、特定の誰かと仲の良い関係ってわけじゃ無い。彼女たちだって選ぶ権利はあるのだから。

 今僕によくしてくれてる子達との仲を深めたいしこれから出逢うだろう女の子たちを思って行動したい。

 あれこれ悩んでいても始まらない、僕はLIMEでグループのみんなにメッセージを送る。


 放課後予定のない子は僕の用事に付き合ってほしいと。もちろんそんな大層な用なんてないのだけど、彼女たちと過ごす為のきっかけづくりくらいにはなるだろう。


 トークルームにメッセージを送るとすぐに返信が届く。

 相倉さんと御崎さん、それに牧野さんから返事が来た。玲さんは少し忙しいみたいで、自分の仕事が終わったら付き合ってくれるみたいだ。

 僕は再度メッセージに返信してからスマホをポケットにしまいこんで男子寮を出る。


 女子だけの学園は朝から賑やかでその様子を遠くから眺めていると何人かの女の子が僕の方へ手を振ってくれた。

 顔も名前も知らない相手──だけど僕は同じように彼女たちに手を振り返す、もちろん笑顔もそっと付け加えてね。


 廊下を歩く度に注目される、たくさんのひとからじっと見られるのは緊張してまう……。


 ゆっくりと歩いて教室の前まで来る、多分ちょうどいい頃合いだろう。


「おはよう」

「あ、小鳥遊君! おはよう」


 クラスにはもう何人かの生徒が登校して僕が挨拶をするとすぐに返事をしてくれた。流石に僕の名前を知らない子はいないらしい。真っ直ぐに自分の席へと向かってから隣の席に見る。


(御崎さんはまだ来てないのか……)


 それから椅子に座ってホームルームが始まるのを待つことに、周りでは近頃流行し出したファッションの話題で盛り上がってる。

 何人かの子は僕に話を振ってくれたけれど、そういった話題に詳しくない僕は自分の好みも交えつつクラスメイトとの話に花を咲かせつつ朝の退屈な時間が過ぎていくのを感じた。



 昼休みになってから教室を出て少しだけあの場所に向かう。今のところ僕らしか知らないとっておきの場所であそこで陽だまりを感じながら昼寝でもしてよう。

 窮屈な校舎から出ると強い日差しが中庭に降り注ぐ、その眩しさに目を細めて太陽を睨む。


「流石はお嬢様学校だな。昼休みでも人が多い」

 中庭には女の子達が集まっていてお昼ご飯を食べているグループとかもある。あの辺りはとびっきり裕福な家庭のお嬢様方が陣取っている。


 聞いた話によると一部の生徒は従者の方と同伴で寮暮らしをしているらしい。学園側に許可はもらっているらしくてクラスによっては一緒の授業に参加することもあるようだ。

 自分が支えている主人が立派な女性に成長するために最大限のサポートが約束されている、言えば彼女らは他の子らとは違い特別な位置にいる。


 上品な笑い声と気品のあふれる雰囲気何よりも美人が多くいる、たいせつにそだてられたんだろうなと感じられるほど優雅で可憐なお嬢様達のグループを眺めていると彼女達の視線が僕に向けられる。


「どうやら見つかってしまったようだ」

 グループの中のお嬢様方は興味深そうに僕を見ると隣にいる従者の人に何か口添えしている。

 するとその従者の方がこっちまでやってくる。


「失礼します。貴公は小鳥遊殿でいらっしゃいますか?」

「はい、そうですけど」

「実はですね、お嬢様があなたとお話がしたいと申しておりましてよければあちらまで一緒に来ていただけますか?」

「ごめんなさい。今はちょっと……。これから行かないといけない場所があるんです。申し訳ないですがまたの機会に」

「そうでしたか、そちらの都合も考慮せずに無責任な頼みをしてしまいましたね。どうかお許しください」

「頭を上げてください。別に謝られるようなことじゃないですし、僕がただ中庭をフラつていただけならそのお誘いを謹んでお受けしたところです。今回はタイミングが悪かっただけです」

「僕みたいな庶民が名家のお嬢様とお話をさせてもらえるきっかけを頂いただけでも身に余る光栄です」

 まさか自分が声をかけられるなんて思いもしなかったリアクションに困った。けれど、嘘のない自分の言葉で誠意を伝えればきっと相手の心にも届く気がするんだ。

 お付きの人は僕の言葉を聞くと主人の元へ戻っていった。その後再度機会を見てからお嬢様方との食事会に誘われる事になった。

 神崎さんがプロジェクトの意味を生徒達に伝えてから学園内の雰囲気は変わっていった。

 その渦中にいるのが自分だと言うことを再度確認してからお気に入りの場所へ向かった。

 ちょっとだけ昼寝をするつもりがついつい寝過ごしてしまい結局昼休みが終わるギリギリの時間に教室に戻った。


「さてと、この後の予定っと」

 スマホでLIMEを立ち上げてメッセージを確認する、御崎さんに声をかけて僕らは教室を後にする、すぐに牧野さんと相倉さんと合流してから廊下を歩き始める。

 玲さんからも「もう少しで終わる」との返信を受け取って午後の時間を共有する為に校舎を出る。


「うーん。風が気持ちいいわね!」

「そうだね。この時間帯に出かけるって言うのもたまにはいいかもしれないね」

 女子生徒が学園の外に出るには特に許可を取る必要はない──だけど僕は念のため理事長へ外出の許可を貰い学園外へ遊びに行くための準備を整えた。

 全寮制の学園で窮屈に感じている生徒も一部ではいるらしくて門限さえ破らなければ生徒のプライベートな事には干渉しないスタイルを取っているらしい。


「待たせたね、これからどこへ行くんだい?」

「ショッピングモールまで行きましょう。色々と眺めているだけでも十分リフレッシュになるよ」

 相倉さんを先頭に歩き始める。誰かとこうやって出かけるなんて言うのは今まで経験して来なかったからなんだか新鮮だなあ。


 暑くもなく寒くもないちょうどいい気温が僕らの好奇心を刺激する。後ろでは御崎さんと牧野さんが話をしている。

 二人とも活発的な子じゃないけれど、どこか波長が合うらしくて仲が良さそうだ、玲さんはその様子に好奇心の眼差しを向けるとちょくちょく二人の会話に混じる。

 独特な雰囲気の女の子だけど玲さんは他の子とも上手く関係を築けているみたいだ。


「流石に広いわね。あ、そうだ、皆は喉乾いてない? ちょっと距離もあったし歩き疲れてるんじゃない?」


「あたしは……大丈夫」

「私も平気です」

「私は結構疲れたぞ。けれど、たまにはこうやって運動するのも悪くないが、体が水分を求めている」

「じゃあ、少しだけ休憩しましょうか。ほら、あそこにちょうどいい感じのお店もあるし」


 僕らは冷たいドリンクを定休してくれるお店に入って休むことに、店内は女性客ばかりで一人だけいる男の僕はなんだかすごく場違いな感じがした……。

 時々向けられる視線を何とか気にしないように振る舞ってメニューに書かれているドリンクを注文した。


 広めの座席に座って寛ぐ自分でもわかるくらいには歩き疲れているみたいだった。

 注文したドリンクが来たから乾杯する。

 相倉さんはサイダー、御崎さんカフェオレを牧野さんは抹茶オーレを玲さんの果汁百パーセントのジュースがテーブルに並ぶ。

 僕が頼んだコーラは最後に届く「ごゆっくり」と声をかけて店員さんは別のお客の接客に向かう。

 相倉さんは御崎さんたちとドリンクの感想を言い合いながら楽しそうに話す。僕はひたすらコーラを飲みながらそんな彼女たちの様子を眺めていた。


 休憩も終わってショッピングモールをブラつくことになった。それぞれに行きたい場所があればそこに向かうというけど、女の子たちは特に何もなかった為、結局お店を見て回ることに。


 僕は一つだけ気になるお店があってそこへ行くことにした。


「ごめん。ちょっと僕は今から単独行動を取ってもいいかな? 気になるお店があったから見ておきたくてね」

「そうなんだ。だったらみんなで行こうよ! ねえ? 別に構わないよね」


 相倉さんがそういうと他の子たちは頷いて反応する、僕は最初来たときに目に入ったアクセサリーショップに彼女らと向かうことに。


「へえー。こんなお店あったんだ」


 中に入ると女性向けのアクセサリーが並べられている。おしゃれな店の内装、若いお客さんが多いことをみると人気店なのかもしれない。

 メンズものも一応あるみたいで小さくコーナーとしてまとめられていた。

 僕はその中の商品の一つを手に取ってみる──なかなかいいブランドのアクセサリーだ。確かネットとかでも評判が良かったはずだ。

 男性向けのアクセサリーは派手さを感じさせずシックで大人びたデザインが気に入った。

 ネックレスやブレスレット等種類も豊富に揃えられている、見ているだけでも十分な気がしてきた。

 女性陣は店員からおしゃれなアクセサリーの情報を聞き出している。

 そして、学生でも買えるような安いアクセサリーを購入してから店を出る。


「結構いいデザインのがあったけど学生の私たちじゃ買えない代物ばかりだったよねー」

「そうね、もっと安くてお手頃に手に入るといいんだけど……」

「でも、私は見てるだけでも十分に楽しかったですよ」

「君たちを見ていると退屈しないなぁ。うむ、良い経験になりそうだ」

「小鳥遊君は? 何買ったの」

「うん。ほらこれだよ」


 僕はラッピングされた箱を見せてアピールする。


「こうして仲の良いメンバーで買い物とかしたりするのってすごく楽しいよね! 私たち知り合ってそんなに長いわけじゃないけど素直にそう思うもん」


 自分のストレートな感情をそのままに出す相倉さんにつられて僕たちはゆっくりと頷いた、また今度来ようという約束を取り付けてそれぞれ部屋に戻る。


「ただいま」

 迎えてくれる人がいるわけじゃないのについ「ただいま」と言ってしまう、少し汗ばんだシャツを脱いで洗濯かごへ放り込む新しい着替えを出して脱衣所へ。


 ぬるめのシャワーをさっと浴びてから髪をドライヤーで乾かす「ふぅ」と一息ついてさっき買ってきたアクセサリーを手に取る。

 自分でも似合うかわからないけど、デザインが気に入って買ったネックレスを付けてみる。


「意外としっくり来るもんだな、プライベートの時は身につけていよう、せっかく買ったんだし」

 女の子達との買い物は貴重な体験となった。これからはああいう風に誰かと同じ空間や時間を共有するんだろうな。

 以前の僕ならば絶対にあり得なかった事──少しは前向きになれたのかな? 自分の身に起こる“変化“を感じながら今ここにある出逢いとその先に待っている未来へ想いを馳せるのでした。

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