36.「小さな幸せを見つけてみようか」
(緊張したなぁ)
教室に戻って来てからの私はさっきの出来事を思い出していた。まさかあんなとこで小鳥遊君に会えるなんて思いもよらなかったから。
内気な私は他の子たちみたいに積極的に彼に関わっていけるような性格じゃないのはわかってる……。
だけど、せっかく同じ学園に通えているのんだから今この瞬間を無駄にはしたくないってそう思うの。
もしもだけど、小鳥遊君と恋人同士になれたとしたらすごく幸せな事じゃないかな。それはずっと私が望んでいたことでもあるの。
中学を卒業してもう二度と逢えないと思っていたんだけど、運命の悪戯なのか私はもう一度彼に巡り合うことができた。
このチャンスを逃したくない!
今の自分を変えなくちゃ! 期間はたったの三年間しかないんだし……。
*
僕は牧野さんと一緒に廊下を歩いている。彼女の予定に付き合うとはいったけれど、どこで何をするのかはまだ聞かされていない。
顔を上げると彼女と目が逢う、僕が笑いかけると牧野さんは頬を染めて照れ臭そうに顔を俯かせる。
中学時代の同級生とああいった形で再会するなんてね、しかも彼女は僕の事とを忘れていなかった。
数えるほども話したことがない相手だったのに。
ふと廊下の窓の外を見ると運動部に所属する生徒たちがグラウンドで体を動かしている、彼女たちは放課後の時間を部活動に取り組む、学生なら当たり前の光景だけど、僕にはどこか縁のない事に思えた。
スポーツは嫌いじゃないけれど、自分から積極的に体を動かすなんていうのはあまり似合わない気がする。
僕はどちらかと言えばインドア派だし、普段から自分の部屋にいることが多いから。
静かな放課後の時間はいつもよりもゆっくりと流れている気がする──僕は牧野さんとの会話の話題を頭の中で考えながら前を歩いている彼女の後をついていく。
「着いたよ」
「ここって女子寮だよね? ここで何をするの」
僕が連れてこられたのは意外な場所だった。女子寮へは何度か来たことがあるけれど、彼女はここで何をするんだろうか?
「まずは入って」
牧野さんの言葉のままに僕は彼女の部屋に入る事にした。女の子部屋に入るのはまだ慣れていないから緊張するなあ。
僕が中に入ると牧野さんはドアに鍵をかける。前に御崎さんの様子を見に彼女の部屋に入ったことがあるけれど、女の子の部屋って本当にいい匂いがするんだな。
なんていう事を考えていると牧野さんは頭に? マークを浮かべていた。
「座って、立ちっぱなしだと疲れると思うよ?」
お言葉に甘えさせてもらおう。僕はすぐにカーペットの敷いてある床に腰を下ろしてスポーツバッグを脇に置く。
牧野さんはというと僕と近い距離に座り僕らは向き合う姿勢になる。
彼女の真っすぐな瞳が僕の姿を捉える瞬きすると綺麗な睫毛が上下に揺れる。
──数秒感、僕たちは見つめ合う、それは短いようで長く感じられる時間だった。僕は牧野さんが何か言うまで黙って様子を見ていると彼女はその体を僕の方に近づけると二人は吐息がかかるような近い距離まで接近する。
こうしてじっくりと牧野さんの顔を見ると彼女はとても魅力的だと感じた。可愛いと言う言葉が似合うほどに整った顔つきはこうやって近くで見て初めてわかることができた。
「ちょっと顔が近いね」
僕がそういうと牧野さんは照れたように頬を緩める。それから数秒の間、また沈黙を迎えたかと思えば彼女はゆっくりと口を開く。
「今日小鳥遊君に私の部屋に来てもらったのはどうしても伝えたいことがあったんです」
急に敬語で話し出す牧野さんはやっぱり緊張してるみたいだ、僕は口を挟まずに彼女が次の言葉を発するのを待った。
「ずっと、伝えたいと思ってたの。だけど、中学生の頃は結局言えなかったから……。またこうやってあなたに逢えた事を嬉しく感じます」
僕に逢えた事をこんなにも喜んでくれるなんて聞いたらこっちも嬉しい気持ちになる。
「私は、私は小鳥遊君の事が──」
意を決して次の言葉を出そうとした瞬間、ポケットの中に入れているスマホのバイブレーションがブルブルと鳴った。
「ごめん。一応マナーモードにはしてたんだけど……」
すぐさまポケットからスマホを取り出して確認するとLINEのグループチャットにメッセージが届いていた。
牧野さんはそれを覗き込むとハッとした表情になる。
「そうだ、良かったら小鳥遊君の連絡先教えてもらえませんか?」
「えっ? 僕の連絡先知りたいの?」
意外な言葉に驚いた。牧野さんは「うん」と頷くと自分のスマホを持ってくる、僕がLIMEのアカウントを教えると目をキラキラと輝かせていた。
「実は一応グループも作ってあるんだ」
僕は牧野さんをLIMEグループに招待してあげた。僕たちのトーク欄に新しいメンバーが増えた。
相倉さんや御崎さんはすぐに反応してくる──僕は彼女たちに新しく加わった牧野さんの事を説明すると各々にスタンプで返信をしたりして彼女を歓迎した。
玲さんもLIMEを使いこなしているみたいだし、僕らはお互いに自己紹介をする。
相倉さんの声かけでまた今度みんなで集まろうって事になった。
「牧野さん、改めてよろしくね」
「うん! よろしくね小鳥遊君」
久しぶりに“再会”した同級生との思い出話に会話を弾ませるなんていうのは僕にはできないけど、今日こうやって彼女とまた逢えた事が僕にとって細やかな幸せの一つになるんだろうなと思った。




