26.「もう一度アナタに会えたのなら」
*Someone's point of view*
子どもの頃の私は引っ込み思案で周りの子と仲良くできずに友達もいなかった。
あれは丁度小学五年生の頃の話かな、クラスの学級会の時のこと──
私たちのクラスはいつも賑やかでかなり苦手だった……。その日、私はやりたくない仕事を押し付けられて何も言えずにただ、ずっと立ち尽くしていた。自分の言いたいことを上手く言えずに悩んでてもう本当に辛かった
先生は私の味方はしてくれず無理やりに出来もしないことをやらせようとしていた。
泣きそうなくらい辛くて逃げだしたくなった時に一人の男の子が発言する。
「その子の考えも聞かないでやりたくもないことを無理やりにやらせるのはどうかと思います」
一人の男の子の発言にクラス中の皆が驚いた、もちろん私だってそうだった。
その男の子の名前は【小鳥遊勇人】君。周りが騒がしい男子ばかりが多い中、ひとりだけ落ち着いた子で彼が周りの人と話しているところは見たことがなかった。
何ていうんだろう? 常にひとりぼっちで自分から他の人に関わっていかない消極的なひと。
だから、私も発言するまで彼の存在を完全に失念していた。
私が押しつけられそうになっている仕事っていうのは簡単に説明すると自分のクラス紹介のページを作ってそれを学校全体の発表するっていうもの。
人前で発表するのはすごく緊張することなのにましてそれをひとりでやらなくちゃいけないなんてなおさら気が滅入る……。
私が自分の意思を上手く伝えられずにグズグズしていると小鳥遊君は言いたいことをはっきりと言ってそれ以降は何も喋らなくなった。
結局、皆で話し合って発表者が決まり。クラスの子たちも極力して紹介ページを作ることに落ち着いた。
「あのっ……さっきはありがと」
私は小鳥遊君の席まで行って彼にお礼を言うと──
「嫌なことははっきりと伝えた方がいいよ」
とだけ言うとあっという間に教室から出て行ってしまう。
その日以来、私はちょっと変わっているクラスメイトの事が気になり始めた。
小鳥遊君に言われたとおりできないことや、やな事ははっきりと伝えるようになってからは周りの子達とも仲良くやれて友達もできた。
放課後、友達と話しながら帰ったりお互いの家に遊びに行ったりして今までの自分が嘘なくらいに楽しい日々が続いていた。
そんな中でも彼はいつだって一人きり。小学校を卒業するまで友達を作らず下校時間になるとすぐに帰ってしまい私も小鳥遊君と話す機会はほとんどなかったの。
教室で顔を合わせても会話するほど仲がいいわけでもないし、私自身も友達と過ごす事が増えて小鳥遊君を気にすることもなくなってきた。
ある日、私たちのクラスで問題が起こったの──それはクラスの子の大切にしている物が無くなると言った事件で本人が気づいて担任の先生に報告してその日、放課後にクラス全員で集まって犯人探しが始まった。
皆がそれぞれに責任を擦り付けクラスの絆は崩壊しようとしていた。私も仲の良かった子にやってもいないことに対して疑いの目を向けられた。
今までみたいに自分がやってもいないことを伝えてそれでお終いの筈だったのにその日を境に仲の良い女の子のグループから仲間外れにされて、遊びにいく約束や予定などに私が呼ばれなくなった。
それだけじゃなくて、私の下駄箱に嫌がらせで蛙や虫とかが入れられていて、体育の時は教室に置いてた体操服がなくなるっていう出来事も起きたの。
もちろん、先生に相談しようとも思ったのだけどしばらくすれば収まるだろうと私自身も考えていてそんなに深い問題にしなかった。
あの出来事が無ければ──
その日、いつものように女子が教室で着替えているとひとりのクラスメートが私の傍によってきた。
次の瞬間、彼女はカッターナイフで私の服を切りつける。
「きゃっ!」
服の上から切りつけられたけどその刃は皮膚を切り取り私は腕から流れる血を抑えながら切りつけてきた相手を睨む。
「いきなりどうしてこんなことをするの!」
らしくなく大きな声で彼女に怒鳴るけど返事はしない、沈黙の間にクスクスと誰かの笑い声が聞こえた。
その声の主は今まで私が仲良くしていた子で彼女はにやけ顔で私の方へ近づいてくる。
「ごっめーん。でも、アナタ最近調子にのってたからいい薬になったんじゃない?」
「どういうこと?」
「気づいてなかったんだー和美がアンタと仲良くしてた理由を」
取り巻きの子達は和美ちゃんの顔を見て言いながら私を嗤っている。
「アンタみたいな地味な子と友達やるのも疲れるってことよ!」
和美ちゃんはカッターナイフを持ってた子からカッターを取り上げると刃を少し出して私の方へ向ける。
「あの時私が大事な物を亡くしたって言ったじゃない? あれは嘘だよ」
そう、和美ちゃんの大事にしているものがなくなってクラスが疑心暗鬼になったあのできごと、私は結末を詳しくは知らないけどあの後彼女自身が見つけ出して解決したって聞いたけど。
「うちらのクラスにアンタみたいな陰気な子がいるとイメージが悪くなるのよ」
そして、彼女は今で思っていた事を全部話し始めた。
彼女はずっと前から私のことをよく思っていなかったらしくて、どうやって私をクラスから孤立させようかと考えていた時にあの事件を思いついた。
もちろん、最初から犯人なんかいなくて私を女子グループから孤立させるために仕組まれたことだった。
事の顛末を知ったその場に崩れて地面にお尻をついた。
今まで友達だと思っていたクラスメイト達はみんなで私を仲間外れにしようとしている。もう誰も信じられなくなった私は放課後になった校舎を一人ふらふらと歩いていると私の目にひとりの人物が映る。
それはクラスで常に一人でいることの多い男の子──確か小鳥遊君っていう名前。
小学校から同じクラスにいたのに最近まで私は彼のことなんて忘れてしまっていた。
部活動に賑わうグランドを見下ろすその表情はどこか別次元を見ているようだった。
少し離れた場所で彼の様子を観察していると周りの人すれ違っても全く気にも留めずに真っすぐとした視線は前だけを向いていた。
あの出来事以来、私のクラスでの扱いは酷くなって特に女子グループからは仲間外れにされたりするのは日常茶飯事で昼休みの時は私の作ったお弁当に嫌がらせをするようになる。
私もお昼ご飯の時間になると教室の外に出るようになったんだけど、それでも何も変わらなかった。
学校に自分の居場所なんて無い……。このままどこか遠くの世界へ旅立ってしまいたい。
毎日そんなことを考えながら通うのが精神的に辛くて朝なんて来なければいいと思うようになる。
友達もいなくて一人ぼっちになった私は周りに相談することもできずにひとりで抱え込んで目一杯悩んだ……。
「あの、これ落としたよ」
「えっ……?」
声がした方に振り替えるといつも一人きりで過ごしているクラスメイトの男の子がそこにいた。
どうやら私が落としたストラップを拾ってくれたらしい。そのストラップは酷い悪戯でボロボロになって何度付け直しても落ちちゃうようになっちゃった。
だけど、意外──彼がこんな行為をするなんて思いもしなかった。だってクラスの誰とも関わらずに小鳥遊君がだよ?
「……ありがとう」
私がお礼を言うと彼は今までに見せたことが無い優しい笑顔で応えてくれた。彼の意外な一面に私は驚きを隠せなくてその仕草にドキリとした。
「辛そうな顔してるけど大丈夫?」
「えっ……?」
本当に意外だった。他人に興味が無いと思っていた彼がこうして私に話しかけてくるなんてー。
「うん、大丈夫だよ」
嘘……私は笑顔を作ってみたけどそのぎこちなさは全然大丈夫だとは思われないかもしれない。
「ちょっと、付いてきてくれるかな?」
小鳥遊君はそう言うと私の手を引いて放課後の廊下を駆け出した。
「私をどこに連れて行くの?」
「ちょっとね、今日は遅く帰ってもいい日なんだ。だからいつもとは違う場所に行くつもり」
学校を出てからも私たちの手は繋がれたままで彼は前だけを見て走り続けている。夕方を過ぎて夜に差し掛かった街を振り向きざまに確認しながら戸惑いを隠せない表情を彼に見せることはなかった。
「さあ、着いたよ」
そう言うと小鳥遊君は手を放して土手を降りて夜の空を見上げる。川の上に掛かった橋の下には電車が通る音だけが響いている。
「ねえ、ここってどこなの?」
辺りが暗くてよくわからない……。彼は一体私をどこに連れてきたんだろう?
「ねえ―聞いてるの」
私がそう言って彼に詰め寄ると小鳥遊君はそっと指を上に向けた。その動きにつられて私は上を見た。
「……綺麗」
見上げた空にはたくさんの星が輝いていてものすごくロマンチックな雰囲気を漂わせている。
私はその光景に釘付けになっていると隣にいる小鳥遊君が口を開く。
「星空って綺麗だよね。この空を見ているとどんな悩み事も小さいと感じられるよ」
彼は優しい口調でそう言うと私に微笑みかける。
「僕たち一人ひとりは大きな存在だけど宇宙の広さから見たら本当にちっぽけなんだ。小さな出来事で悩んでいるのが馬鹿らしく思えてくるんだよね」
小鳥遊君は時々流星が流れる空をじっと見てゆっくりと私のほうへ体を寄せる。
「色々と辛いこととかあるかもしれないけど、たまには落ち着いてこうやって自然と触れ合うのもいいことだと思うよ」
一瞬だけ見つめ合うような形になる──近くで見ると彼はすごく整った顔つきをしてるなって思う。
その後少しだけ一緒の時間を過ごした後、彼は迎えの車が来て帰ることになったんだけど、その時に私を家まで送ってくれた。
初めて人の車に乗って移動したからかなり緊張した……。車内で私たちは何も会話をしなかった。
「また明日」
私が車の中にいる小鳥遊君にそう言うとドアのウィンドウを開けて「また明日。おやすみなさい」とだけ言うと車はあっという間に走り去った。
その日以来、私は小鳥遊君の事を認識し始めた。彼の様子を注意深く観察したり、でも、自分から話しかける勇気はなかなか出なかった。
結局中学校を卒業するまで一度も小鳥遊君と教室で会話をしなかった。私は周りの子に内緒にしてお嬢様が通う恋麗女子学園に進学することに決めていた。
有名な学校だから勉強が大変だったけれど、なんとか頑張れた。そういえば小鳥遊君は進路どうするんだろう? クラスに男子は数人しかいなくてその人たちは地元から離れた学校に通うと聞いたけど……。
卒業式が終わってクラスメイトの子らはそれぞれ別れを惜しんだり、校舎を背に記念撮影をしたり、最後の中学生生活にピリオドを打つ。
友達がいない私はというと何も残さずに三年間学んだ学び舎を見上げている。
あまりいい思い出はないんだけど、入学した時はすごくワクワクしてこれからの学生生活がどんなふうになるのか楽しくて仕方なかった。
卒業証書を入れた丸筒を握り直すと出入り口に一台の車を見かける。
「あれは確か、小鳥遊君の」
そう、彼が送り迎えされている。黒を基調にした高級外車は今日も同じ場所に停まっていた。
私は車の方へ走り出して周りをキョロキョロと窺った。
そして、今、小鳥遊君は車に乗り込もうとする寸前。
「あのっ!」
私は勇気を振り絞って自分でも驚くくらい大きな声で彼に呼びかける。
「小鳥遊君。卒業おめでとう」
一瞬、ポカンとした顔をするとクスりと笑い「卒業おめでとう」と返事をしてくれた。
三年間私達が交わした会話卒業式の日のたったそれだけ。でも、私は彼の事は忘れないと思う。
だって、初めて見上げた星空がいつまでも私の心の中に思い出として残っているの、悩んだ時は一人で夜空を見上げるようにもなった。前よりはちょっぴりだけど前向きになれた気がする。
そのきっかけをくれた小鳥遊君にもしも──もう一度アナタに会えたのなら。
伝えたいこともあるし、話せなかったこと一杯話したい!
私、変わっていけるかな? これからどんな自分になっていくのかな?
新しい学校でも私、頑張るからね。
一度だけしか話したことがないひとりの同級生の事を想いながら私は眠りについた。




