25.「近況報告と優しい風が運んでくる出会う前の彼と彼女」
「報告は以上となります」
「ご苦労様、もう自分の仕事に戻ってもいいわよ」
「はい、それでは失礼します」
私はデスクの上に整理された書類に目を通しながらプロジェクトの進捗状況を確認する。
あの子が学園に通い始めてからまだそんなに日は経ってないのだけれど今がどんな状態なのか気にはなる。
このプロジェクトを成功させる事は私の使命でもありし、何よりもこれから先の未来にとってとても重要な事だと思うわ。まぁ、勇人がどう考えているかはわからないんだけど。
ここ数年の間に男女比率は大きく変化して男性は極端に数が少なくなってしまった。
何故だか女の子が生まれる機会が増えてそれに伴い男子の出生率が大きく低下。
女性たちがアクティブに活躍する一方で優秀な遺伝子を残せる男性は少ない。
人口受精の数は圧倒的に増加しているのだけど、それには大きなリスクも生じる。
学園に通っているたくさんの女子生徒のデータがPCのモニターに映し出される。
名家の出身の子が多くいるのだけど、中にはごく普通の家庭の子も通っている。
私も仕事上有名な家柄の人と会う機会があるから大体の事はわかる。
女性達の見栄のはりあいやプライドの高さは生まれながらのものなのかしら?
歩美からの報告だとあの子はまだ恋人になる相手は選んでいないらしい。
早めに決めてもらってプロジェクトを次のシーケンスへ移行しなくちゃいけないの。
三年間という期限を決めている限り私があの子に過干渉するのは余り良くない。
親子らしい会話なんて交わしたこともない、いつも家を空けてばかりいる私が今更親らしいことをしてあげようなんて思わない。
ただ、勇人は本当にそれでいいのかしら? 昔からあの子は私が決めたことに嫌と言わずに素直に従ってきた、中学の頃は仲の良い友達すらいないことはメイドから聞いている。
私は勇人には悔いのない人生を送らせてあげたい──あの人が亡くなってからの自分は今まで以上に家に帰らなくなった。
勇人の父親は本当に優しい人だった。まだ小さい頃体調を崩したあの子を主人と二人で看病した。笑顔が眩しくてどんな時も前向きに生きているひとだった。
彼の忘れ形見、たった一人しかいない私たちの子ども、主人との思い出を勇人に話したことはない。
それを話しちゃうと楽しかった日々を思い出すから。何とか忘れようと仕事に打ち込む毎日、いつの日か私自身も子どもの事よりも自分のことを優先するようになっていた。
何もかも母親に決められた人生を勇人はどう思っているのかしら?
PCのモニターに映し出されたあの人にそっくりな息子の顔を見て仕事を進めるのだった。
*
僕のスマホに登録された三人の女の子の名前。
一人は同じクラスの子、もう一人はクラスは別だけど家族以外で初めて僕が連絡先を登録した相手。
そして、最後の一人はほんの最近知り合ったどこかミステリアスな雰囲気の漂う女の子。
学園に入学してからまだそんなに日にちが経っているわけじゃないんだけど、中学の頃ひとりも友達のいなかった僕にもう三人も友人ができたことは本当にうれしく思う。
彼女たちとの関係はこれからの僕の接し方で変わってくる。卒業するまでに恋人を決めるという僕の使命を果たす為に
たまに廊下を歩いていると刺さるような視線を向ける女の子もいる、相倉さんに聞いたんだけど、どうやらまだ僕が学園にいるのをよしとしない女子の派閥もあるみたいなんだ。
彼女たちの反応は当然なことをだと思うし女子高に男子生徒が通っていることに違和感を覚えても仕方がない。
ただし、問題を起こしそうな生徒は学園の厳しい管理のもと活動を制限クラスされている。
Fクラスから下のクラスの子には会ったことがないのだけど彼女たちは同じ校舎にいながら半ば隔離されたような感じだと聞いた。
特別な家柄で由緒正しい教育を受けてきた筋金入りのお嬢様達が所属するGクラス、進学を目標に他のクラスは違うカリキュラムを専攻するHクラスは学園のイメージアップに一役買っているという話だ。
特にGクラスの女子たちはプライドも一流で常にお互い腹の探り合いをしているらしくて自分の家の事を持ち出して他のクラスの子を見下している態度を取っていることが多いみたい。
両クラスとも“ハーレム・プロジェクト”には懐疑的な見方をしているらしい。
女子生徒が大半を占めるこの学園での僕の立場をしっかりと理解する必要がある。
たまに他のクラスの女の子が僕を訪ねて来る。そんな子達と会話を交わすことがあるのだけど彼女たちが何を考えているのかは分からない。
建前で僕と仲良くしているのかもしれないし、自分はいい加減な気持ちで接しちゃまずいと思うんだ。
入学した頃と変化していく学園の雰囲気を毎日感じながら中学の頃ではあり得ないほど慌ただしい日々を過ごしている。
そんな中、勇人の周りではちょっとずつだけど変わっていくできごとが起こり始めていた。
*Someone's point of view*
「まさか小鳥遊君と同じ学校に通うことになるなんてなぁ」
私は内気な性格だからか、なかなか彼に話しかけることができずにいた。
……彼が私のことを憶えているなんて言う保証なんてないのに。
もしも、私を忘れていないのだったらあなたに言いたいことがあるの。
もう会うことは無いと思っていたけど……。何の因果か神様は私に彼ともう一度出会うきっかけをくれた。
あの時に言えなかった想いを伝えたい。そして私は──
綺麗な髪がふわふわと風に揺れる、新しい出会いを待ち焦がれながら少女が見上げる瞳には夕暮れの校舎がオレンジ色に映し出されていた。




