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20.「興味の対象」

「おはよう」

 クラスメイトに挨拶をして自分の席に座る。隣を見るとまだ御崎さんは来てないみたいだった。

 今朝LIMEのやり取りをしたから彼女の事は心配にならない、学園で過ごす一日一日を無駄にはできない。

 前を向くとまだ名前も知らない女の子と目があった、その子は僕と目が合うとウィンクをしてくれた。

 転入初日と比較すると随分と周りの人の僕に対する態度が変わったなと感じる。

 御崎さんは香月先生が教室に入って来るほんの少し前に登校してきた。

 らしくなくそわそわとしてる彼女の様子にくすりと笑って今日の学園での一日の始まりを知らせるチャイムの音を聞いた。


 国語の授業では難しい漢字の並ぶ小説の内容を勉強した、御崎さんは必死に授業についていこうとノートと格闘していた。

 こうやって椅子に座って一時間近い時間じっとしている事には慣れたけど授業が終わってからの休憩時間には立ち上がって体を動かす。

 僕はデスクワークには向いていない気がする。

 軽く伸びをして椅子にすとんと腰を下ろした。


「ねえ、今話せる?」

「え、何かな?」

 御崎さんに話しかけられた僕は椅子を引いて体を彼女の方へと向けた。


「あのさ……。昨日の事なんだけど」

「……うん」

 御崎さんが次に何かを言うまでの沈黙が続く——教室は騒がしくて僕らの会話の内容なんて掻き消されてしまいそうだ。


「LIMEでもメッセージ送ったけど、昨日はありがとう」

「良いよ、僕も御崎さんの事心配だったから」

 昨日学園を休んだ彼女のお見舞いに行った事のお礼を言われた。

 眠ってしまった御崎さんをベッドに運んでからは部屋を出たからずっと看病していたわけじゃない。

 だけど、ああいう事は今まで一度も経験無かった。ましてや女子の部屋に入るのにはすごく緊張した。


「元気になって良かったよ」

 せっかくの会話なのに事務的な対応しか出来ない。コミュケーション能力をもっと高めないといけないな。

 話している最中の御崎さんの顔がちょっと赤い事が気になるけれど……。

 今日は彼女と細やかな会話を楽しめた。


「相倉さんはもう来てるだろうか?」

 昼休みになる前にLIMEにメッセージが届く、今日のお昼はこの間、僕が見つけた特別な場所——男子寮の近くにある綺麗に整備されたあの庭。

 相倉さんが気に入ってくれたスポットでもある。

 財布だけを持ち出して教室を出る準備をする——その前に御崎さんに声をかけた。


「御崎さん、良かったらこれから一緒にお昼どうかな?」

「……えっ?」

 彼女は僕が何を言っているのかわからないみたいな顔をした。


「もしかしてもう誰かと約束しちゃったかな?」

「ううん! そうじゃないんだけどー」

 御崎さんは数秒考えてから「良いよ」と返事をしてくれた。僕たちは一緒に教室を出て相倉さんとの待ち合わせ場所に向かった。


「…………」

「……」

 廊下を歩く僕らに会話はない、御崎さんは何か言いたそうにしてたけど無理に聞き出す気はない。


「こっちって通って大丈夫なの?」

「平気だよ。もう少ししたら着くから」

 御崎さんら僕の後を不安げに着いてくる。あの場所をこの子も気に入ってくれたらいいな。


「わー! すごい! こんな所があったんだ」

 子どもみたいにはしゃいでいる御崎さんを他所に僕は辺りをキョロキョロと見回して相倉さんの姿を探した。


「あ! 小鳥遊君こっちだよ〜」

 ちょっと大きめな風呂敷を手に持っている相倉さんがこっちに手を振る。

 僕はその方向に歩いていく——御崎さんは少し遅れてついてくる。


「うふふ、やっぱりここは素敵だよね」

 はにかむ彼女に僕も微笑みを返してもう敷かれているレジャーシートの上に座った。

 暖かな春風が心地よい、この前昼寝しちゃいそうだ。


「今日は力入れて作ってきたから期待してね〜」

 風呂敷を広げてお弁当箱を並べる——御崎さんのはキャラクターがプリントされた可愛らしいデザインでとてもいい。

 僕用はシンプル形だ。わざわざ用意してもらったのは本当に申し訳ないな。


「あのさ、実は今日はもう一人いるんだけど……」

「んー?」

 相倉さんは僕の後にいる御崎さんに気づいた。


「あたし、やっぱり教室に戻るわ、二人きりのお昼邪魔しちゃ悪いし」

「待って! 良かったらあなたも一緒にどうかな?」

 僕が御崎さんを呼び止める前に相倉さんが先に声を出した。


「こういうのは大勢いた方が楽しいよ?」

 御崎さんは相倉さんの言葉に観念したみたいで靴を脱いでレジャーシートに座った。

 僕らは三角に座ってお弁当箱を広げた。


「自己紹介がまだだったね、私は1-Fの相倉麻奈実よ、よろしくね」

「御崎智佳、クラスは1-A」

「Aクラスって事は小鳥遊君と同じクラスじゃん! 羨ましい」

「……そう?」

「そうだよ! 私なんてFクラスだからすぐに会えないもん!」

 お互いに自分のクラスの話をしている女の子達の会話に入れない僕は一人お弁当を食べていた。


「御崎さんは小鳥遊君とは仲いいの?」

「うっ」

 丁度食べていた卵焼きを喉に詰まらせそうになる御崎さんに相倉さんがお茶を差し出した。


「その反応は怪しいわねー」

「別にそんなんじゃないから!」

 全力で否定する御崎さん、そんなに必死にならなくてもいいと思うけど……。

 一瞬だけ目が合ったけど彼女の方から逸らしてしまう。


「まあ、仲が良くても私は気にしないけどね」

「だから違うってば!」

「私らに残された時間はこの学園にいる間の三年間時間無いんだから」


 “ハーレム・プロジェクト‘に設定されている期間は僕が学園を卒業するまでほ三年間、問題無く過ごせば進級できて卒業もできる。

 だけど、その期間中に僕は恋人を見つけなくちゃいけない。

 この学園に通う女子全員にそのチャンスはある——女子達はそれが嫌なら別の学校へ転入することさえできる。

 彼女たちは三年間という時間で自分の将来まで決められてしまう。

 もちろん相手を選ぶ僕の責任も重大だ、いい加減な気持ちではいられないの。


「最初理事長から聞いた時は私も驚いたわ、この学園には自分で選んで入学したし、その為にやれることは精一杯やってきた」

「でもね、今はそんな事は関係ない。家柄とか今までの生活とかそんなのここじゃ何の意味もないの、小鳥遊君に選んでもらえないならそれで終わりなんだから」

 相倉さんは真剣な眼差しを僕に向けて来る。

「有名企業のお嬢様だろうと普通の家で育った子だろうと同じ立場にいる。三年間でどれだけ自分をアピールできるかだよ」

 僕も御崎さんも聞き入ってしまう。

「小鳥遊君に好きになって貰えるように努力しなくちゃね!」

「あたしはまだよくわからないわ」

「それが正しい反応じゃない? いきなり言われて気持ちの整理つけるのは難しいし、だけど、違う選択肢を選ぶ事だってあると思う」

「近いうちに学園の女子全員に今後の進路のアンケートを取るみたいだからその時に別の道を選ぶ事もできる。まあ、私はこの三年間を悔いのない学園生活にするだけかな」


「なんかごめんね? 空気悪くしちゃって」

「そんな事無いわ。あなたの言う事すごく分かるから」

「ありがとう。それじゃ私も食べよっかな」


 僕たちはのどかなお昼を楽しんだ。御崎さんは相倉さんと仲良くなったみたいでLIMEを交換していた。

 相倉さんはプロジェクトに対して真剣に考えている。

 僕もこれからの事をしっかりと考えていかなくちゃいけない



 **


 私の方から小鳥遊勇人に接触してみるのもありか……。

 何とか手に入れた彼に関する書類を眺めながらコーヒーを啜る。昨日までの重かった思考が嘘にみたいにクリアだ。

 ”ハーレム・プロジェクト“——その中心になる男子生徒に私は惹かれていた。

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