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17.「御崎さんのお見舞いに行こう」

 *Tomoka point of view*


 今日は何だか体が重い…………。ベッドから起きるのさえもダルくなっちゃう。

「……着替えないと」

 制服に着替えようと思って衣装ケースに手を伸ばす。

 学園の生徒の部屋には服を仕舞える衣装ケースが備え付けられている。

 一応申請すれば取り外しも可能みたいなんだけど結構便利で今まで衣装ケースを撤去したなんていう話は聞いた方がない。

「もしかして風邪引いたのかな?」

 ここ最近はあまり眠れてなかったし、まだ学園での生活に不安を感じてるのかも……。

 体温計で熱を測っている間、枕元に置いてあるスマホに目がいく。

「小鳥遊君」

 あたしは初めて連絡先を教えてもらったクラスメイトの事が気になっていた。

 LIMEなんて今まで使って来なかったからメッセージを送るのにも苦戦しちゃう。

 彼への返信を数分悩んで送信する前におかしなところがないか確認する。

 家族以外の人とやり取りするなんて絶対にあり得ない事だと思ってた。


「三十七度六分か〜結構あるなぁ」

 熱を計り終えると一気にだる気が襲ってくる。

 ヤバイ……。今日は本当にキツイ。

 流石にこの体調で登校するのはやめておこう。

 あたしはスマホから学園へ電話してお休みする事を伝えた。

「熱冷ましあったかな?」

 何かあった時の為にお薬は準備しているんだけど、たまたま熱冷ましがなかったから市販の風邪薬を飲んで休むことにした。

 今日はゆっくり休もう。

 もう一度ベッドに入って静かに目を閉じた。


「………………」

「…………」

「……」

「ん、今何時?」

 スマホで時間を確認——十五時過ぎ、もう帰りのホームルームが終わる頃かな。

 結局今日は夕方まで寝てたみたい。

 早く良くならなくちゃ、勉強みんなに遅れをとるわけにはいかないし。

 ベッドから体を起こしてクッションに座る。

 休んだ人には後でクラスの子が連絡の為に尋ねて来る事になってる。

 あたしは眠気を覚ますために頭をプルプルと横に振る。

 ていうか今の自分はかなりだらしない格好をしている。

 こんなところを誰かに見られると恥ずかしい…………。

 なんていう事を考えているとドアのノックされた音に気がつく。

「はーい、今開けます」

 軽く服装を整えてドアの前へ——ふーっと深呼吸してから鍵を開けた。


「女子寮に来るなんて緊張するなあ」

 僕は誰にも見つからない事を祈りながら廊下を歩いている。

 今日は御崎さんが休んでいたから放課後彼女の様子を見に行こうと思っていた。

 香月先生に事情を話して御崎さんの部屋の場所を教えてもらった。

 流石は学園の全生徒が使っているだけあって女子寮はものすごく広い。

 コソコソと辺りを伺いながら御崎さんの部屋の前まで移動する。

 手に持っている紙袋にはお見舞いの為に用意したフルーツがいくつか入ってる。

 もちろん果物ナイフも忘れてない。

 あとはゼリーとか簡単に食べられそうなお菓子を持ってきた。

「三三二号室、ここだな」

 教えてもらった部屋番号のメモと見比べてみる。

 僕は趣のあるドアの扉を軽くノックした。


「あれ? 小鳥遊君? なんであたしの部屋に?」

「いや、今日御崎さん休んでたから気になってきてみたんだ。迷惑だったかな?」

「そんな事ないわよ。ここじゃなんだしとりあえず入って」

 僕は彼女の部屋に招き入れられる、そういえばこうやって女の子の部屋に入るなんて今まで一度も経験したことないや。

「座っていいよ」

「お邪魔します」

 御崎さんはさっとクッションを準備してくれた、僕はその上に座る。

「それで、具合はどう?」

「朝よりは楽になったかな、明日はちゃんと学校へ行けるわ」

「そう、それなら良かったよ。あーこれ無駄になっちゃったかなあ」

「何か持ってきてくれたの?」

「うん、フルーツとお菓子をちょっとね。いらないなら持って帰るよ」

「小鳥遊君がせっかく持ってきてくれたんだからちゃんといただきます」

 御崎さんは僕から紙袋を受け取ると一旦テーブルの横に置く。

 彼女の部屋は綺麗に整頓されていて無駄なものは少ない。

「朝LIMEにメッセージ送ったんだけど返事なくてちょっと気になってたんだ」

「えっ…………嘘」

 彼女は慌てて自分のスマホを取ってLIMEのメッセージを確認する。

「ごめん。メッセージ送ってくれたのに今まで気づかなかった…………」

「体調悪かったんだから仕方ないよ。僕も返信はできる時にしてくれたらいいって言ったしね」

 御崎さんの顔がちょっと赤い、熱がまだ下がってないのかな? 

 あまり長居しちゃ彼女に迷惑かけるだろうからそろそろお暇させてもらおう。

 顔を見れただけでも良かったからね。

「それじゃあ僕は帰るね」

「もう帰っちゃうの? もう少しいてくれてもいいよ?」

「御崎さん顔赤いよ? まだ熱があるんじゃないかな。それなら無理はしちゃダメだよ」

「えっ! こ、これはー。顔が赤いのはその……」

 そこまで言うと彼女は俯いてしまう。熱が上がっちゃったら大変だから。

「本当に今はそんなに辛くないんだってば!」

「駄目だよ。まだ顔が赤い。もしかしたら熱が上がってるかもしれないから」

 我ながらかなり大胆な事をしてるんじゃないかと思う? 

「わかった、ちゃんと休むから。ねえ、もう少しだけお話ししよ?」

 熱が出てるせいか御崎さんは子どもみたいに甘えてくる。

 普段見せない態度に驚いたけれど、彼女が僕を必要としてくれるのならそれに応えたい。

 僕は「少しだけなら」と返事をして彼女の脇に座った。

 御崎さんは頭を横にして僕の肩に乗せてきた。

 彼女のその仕草にドキりとしたけど何とか心を平静に保たないと。


「ちょっと熱いねーあはは、なんでだろう」

 耳まで真っ赤にして僕に優しい笑顔を向けてくれた。

「まだ熱が下がってないのかもね」

 なんていう細やかな会話をしていると御崎さんはいつの間か眠っていた。

 そのままにはしておけず僕は抱き抱えてベッドに寝かせる。

 このまま寝顔をずっと眺めていたいなんて邪な考えが思い浮かぶ。

 御崎さんの静かな寝息が聞こえる、僕は彼女を起こさないようにメモを残してそっと部屋を出る。

「……早く元気になってね」

 そう呟いてみたけど多分聞こえてないだろう。

 用が終わった僕は他の人に見つからないように男子寮へ戻った。

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