16.「静かに過ぎていく学園生活」
スマホに登録された二人の女の子の名前。
それだけで僕の携帯は華やかになったんじゃないかと思う。
彼女達からLIMEメッセージが届く度に嬉しく感じる。
今朝は相倉さんからお昼を一緒に食べようとっていうチャットが飛んで来たから僕はすぐに返事をする。
そんな細やかなやりとりを楽しみになるようになった。
そう言えば御崎さんはお昼はどうするんだろう?
僕はついこの間知り合いになったクラスメイトの事が気になっていた。
彼女が嫌じゃないのなら一緒にお昼ご飯を食べたいと思うんだ。
スマホを操作して御崎さんにメッセージを送ってみた。
返事は出来る時にしてくれればいいとは言ったけれど、いつ返信が来るのかな? って考えるとどうにも落ち着かない。
ささっと制服に着替えを済ませてスポーツバッグを手に持って部屋を出た。
結局、朝のうちは御崎さんからの返事は無かった。
自分の席に着いて隣を見ると御崎さんの席は空いていた、彼女が僕よりも遅い事があるんだなあ。
チャイムが鳴って香月先生がホームルームを始める。
「それでは出席を取ります」
クラスメイト達は出席番号順に名前を呼ばれていく。僕は自分の番が来るまで窓の外をぼんやりと眺めていた。
「御崎さんは体調が優れないため今日はお休みしますと連絡がありました」
香月先生に御崎さんが今日は休みだということを知らされる。
そうか、体調が悪かったから今朝LIMEに返信が無かったのか。
大丈夫かな? ちょっと心配だなあ。
あれ? 僕は彼女の事を心配してる?
他人の事を気にかけるなんて前までの僕なら絶対にあり得ない。
隣の席が空いているだけなのに今日はやけに寂しい気持ちになるなあ。
昼休みになると相倉さんから待ち合わせ場所についてメッセージが届く。
どこか静かな場所でお昼が食べたいとの事だった。
どこか良い場所があるといいんだけど…………。
思いつかないや。
メッセージのやり取りを続けながら御崎さんの事が気になった。
昼休みの間、彼女の様子を見に行きたいと思っていた。
だけど、相倉さんにお昼を誘われた訳だしその約束を破る無碍にはできない。
場所は決まらずに相倉さんと校内で落ち合う。
「お待たせ! 時間かかっちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だよ」
二人分のお弁当を手に僕らはどこが良い場所はないものかと校内をウロウロする。
「なかなか落ち着ける場所ないねー」
「そうだね」
せっかく彼女が話しかけてくれたのに事務的な反応しか返せない…………。
「小鳥遊君、どうかしたの?」
「ああいや、何でも無いよ。早く食べないと昼休み終わっちゃうね」
「何か気になることでもあるの? 小鳥遊君さっきかどこか上の空だし」
相倉さんはいつもと違う僕の様子にすぐに気がついた。
「クラスの子が体調悪くて休んでるんだけどその子の事が気になってるんだ」
僕は正直に自分の考えを伝えてみる、こういう時は下手に嘘をつくと相手に余計に不審に思われてしまうから。
「そうだったんだ、その子とは仲良いの?」
「まだあんまりかな。最近友達になったばかりだし」
「そうなんだ。気になるなら放課後お見舞いに行ってみたら良いんじゃない?」
「そうだね、そうしてみるよ」
「とりあえず今はお弁当食べれる場所見つけないとね!」
「それならあそこなんてどうかな?」
朝早く学校に向かう前に見つけた場所に相倉さんを案内する。
男子寮の近くにある綺麗に整備された庭——手入れは行き届いていて鮮やかな緑が眩しいくらい。
「すっごーい! こんな場所あったんだ」
相倉さんは目を輝かせて広い庭に喜ぶ。
そんな様子に僕もすごく嬉しい気持ちになる。
僕らのお昼ご飯はこの場所に決まった。
相倉さんはスカーフを広げてその上に座る、僕はと言うとそのまま地面に直に腰を下ろした。
「それじゃあ食べよっか?」
二人で同じお弁当を広げて楽しいランチタイムは始まった。
相倉さんの料理はどれも美味しくて僕は食べる度に絶賛してしまう。
僕が褒めすぎたせいか彼女ちょっと恥ずかしいそうにしていた。
僕らの静かなお昼休みはいつもよりゆっくりと過ぎていった。
よっぽどあの場所を気に入ったのか次にお昼を食べる時は絶対あそこで食べようと約束した。
午後からの授業をしっかりとこなして放課後にみんなそれぞれの時間があるんだろうけど僕は用事があるんだ。
ホームルームも終わって帰り仕度を整えてから教室を飛び出した。
女子寮に行くのはなんだか緊張するなあ。
いきなり行ったら御崎さんが驚くかもしれないからLIMEを送った方が良いのかな?
お見舞いには何か持って行った方が良さそうだ。
一旦男子寮の自分部屋に戻ってまだ新しいフルーツを紙袋に詰め込んで女子寮に向かった。




