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12.「Irregular situation」

「おはよう」

 いつものように朝の挨拶をしてから教室に入る。

 だけど、今日はなんだか雰囲気が普段とは違う感じがした。

 クラスメイトの女子達の僕を見る目は転入初日と比べたら優しくなったんじゃないかなって思う。

 だけど、一部の人はまだ男子が女子高に通う事に納得できない様子で刺さるような視線を向けられる事もある。


 この間は酷い目にあったな……。

 顔も知らない女子生徒に空き教室まで連れていかれてリーダー格の子に無理やり恋人宣言をさせられるところでなんとか逃げ出す事が出来た。

 “ハーレム・プロジェクト”は僕が考えていた以上に周りに影響を与えている。

 そして何事も無くホームルームは終わる。僕が一時間目の授業の準備を始めていると校内放送が流れる。

「今から緊急の全校集会をやります。生徒のみなさんは速やかに集まってください」

 ——神崎さんの声だ。急な放送に教室の中はざわつく、先生の点呼でクラスの皆は出席番号順に並んで集会場所へ。

 僕もすぐに用意をして教室の外に出ると──

「待って下さい。小鳥遊君は私と一緒に行く事になっていますよ」

 担任の香月先生に呼び止められた。どうやら僕は先に理事長室へと行かなくちゃいけないみたいだ。

 香月先生は僕が理事長室の前に立つのを確認してから集会場所に向かって。

 ふーっと深呼吸をしてドアをノックすると中から「どうぞ」と神崎さんの声がした。

「失礼します」

 扉を閉めて理事長の方を向くと作業中のパソコンから僕に視線を移した。

「わざわざごめんなさいね」

「いえ、これから全校集会ですよね? 何かあったんですか?」

「あったと言えばあったわね。さあ、行きましょうか」

 手元の資料をまとめてファイルを棚にしまい椅子から立ち上がる、神崎さんは本当に綺麗な人で何をやっても様になる人だ。

 集会場所を知らない僕は理事長の後ろをついて歩く、ちょっとだけど目の前にいる大人の女性にドキドキした。


「小鳥遊君はここで待ってなさい」

 そういうと神崎さんは目の前にある大きなモニターの一つに電源を入れた。

「ここは一体何なんですか?」

「貴方の為に学園側が用意した場所よ。そこのモニターで集会の様子を見ることができるの。他にも小鳥遊君が望むならこの場所を専用で使うことだって可能よ」

 言ってる事を理解するのに時間がかかりそうだけど、要するに僕の為に特別に用意された部屋らしい。一体なんの目的でこの場所を? なんて言う疑問が浮かんできたけど今はとりあえず神崎さんの言う通りにしよう。後で理由を聞けばいいからね。

 僕は備え付けられているいかにも高級そうなソファーに腰を下ろした。

 座って十分も経たないうちにモニターに映像が映る——どうやらさっき言っていたように全校集会の様子が確認できるみたいだ。

 それにしても広い会場だなあ。全生徒が集まっても会場にはまだ余裕がある。

 横のツマミを回して音量の調整をする、この広い部屋に自分しかいないのに違和感を覚える。

 教壇に立つ神崎さんは生徒たちにある事実を話し始めた。



 *Ayumi point of view*


「今日みなさんに集まってもらったのはとあるイレギュラーの報告をするためです」

 私は一部の生徒がやってしまったイレギュラーを全校生徒へと伝える為に手元の映像データを再生。


「ねぇ、何? あの映像…………」

 そこに映っていたのは小鳥遊勇人君が何人かの女子生徒に教室へ連れられて彼女達から無理やり何かを要求されているところ。

 おそらく携帯のカメラで撮影していると思われる映像は撮影者の手元がブレていかにも素人が取っているとわかる。

 カメラは小鳥遊君の姿を映しているけど彼は誰かに両腕を押さえつけられていて振り解こうと体を左右に振っている。

 真ん中にいる一人の女子生徒が何かを言うとカメラはズームで彼の顔を映し出す。

 小鳥遊君が唇を動かして言葉を発しようとした瞬間——彼の携帯が鳴ると腕を掴んでいた子がポケットに手を伸ばした。

 その隙を見逃さずに掴まれた腕を引き離して教室を出ていく。

 それから映像は切れて画面は真っ暗になる。


「ここに映っている映像が事実なら撮影者を含めた生徒たちの厳重な処分を検討しなくてはいけません」

 そういって生徒たちを見回すと何人かも女生徒の顔が真っ青になるのがわかった。おそらく心当たりがあるのね。

 プロジェクトを遂行するのに小鳥遊勇人君は必要不可欠な存在。

 この学園の生徒は誰にもチャンスある、それにも関わらず彼の意思を尊重せずに無理矢理関係を迫るような真似は許されたことじゃないわ。

 小鳥遊君自身がしっかりと考えて選んだ相手と恋愛をしなくてはいけない。

 私はプロジェクトを美鈴さんに任されている立場、絶対に成功をさせないと。


「心あたりがある生徒は集会が終わった後に理事長室まで来て下さい。もしも正直に名乗り出ない場合には学園側もそれなりの対応をしなくてはいけません」

 神崎さんのその一言で全校集会は終わり生徒たちはそれぞれ教室へと戻っていく。

 モニターの電源を切ろうと立ち上がると集会場に何人かの生徒が残っていた。

「あの子たちは……」

 そうだ僕は彼女たちを知っている。あの時のグループの中にいた子達だ。

 リーダー格の女の子は真っ青な表情をしていて周りにいる子達も不安げに何かを話している。

 この間の事を思い出したら怖くなってきた。この学園に通う女子生徒みんながああいう風になったら僕はどうするんだろう? 

 結局この日は授業にも集中できないで放課後になると逃げるように男子寮で残りの時間を過ごした。

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