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113.「素敵な一日から始めてみよう」

寮内での生活に慣れてきて毎朝当番制で料理を担当している女の子たちの手伝いをやりながらのんびりとした休日を過ごす。

 休日の朝はいつも皆で食事をするという<取り決め>をしているから僕も普段よりも早い時間に起きて朝食の準備の手伝いをする。

「やあ、おはよう。相変わらず早いんだね、小鳥遊君は」

 玲さんがふわーってあくびをしながらダイニングに入ってきた。冷蔵庫に入れてあるグレープジュースをコップに注いでゆっくりと飲み干す。


「おはよう。玲さん、今日は君が食事当番なんだ?」

「ああ、そうだ、みんなが起きてくるまでの間に作り終えたのだけど、良ければ手伝ってくれるかい?」

 眠そうな表情で冷蔵庫の中の食材をじっと眺めながら料理のレシピを考えている。

 彼女は基本的なメニューをネットで検索していて材料揃えばちゃんとした物が作れるらしい。

 家事のスキルというものは生活していくうえで必要になってくるから自然と身に着けていたみたい。


「何を作るの? 僕はそこまで本格的なものは作れないけど……」

「私は基本レシピさえあればどんなものでも作ることはできるのだけど、メニューに創意工夫してアレンジ料理をするというのは無理だよ」

「鳥肉と野菜が少しある……あとはパスタか、うむ、パスタサラダとコンソメスープを作ろう、材料はそろっているようだし、飲み物は水がいいだろうか? 冷蔵庫にはジュースやお茶のペットボトルもあるわけだが」

 ──スマホに表示されたメニューを確認しながら、玲さんは食材を取り出すと手早く調理の準備を進めていく。

「僕に手伝える事はない?」

「今のところは大丈夫かな。何かあれば声をかけさせてもらうよ」


 普段からインドアなイメージがある玲さんが料理をしている姿は意外だなって感じた──正直彼女が家事をできる実感がわかないんだ。


「家事は嫌いではないさ。生活に必要なことだからやるべきだしね、掃除や洗濯もちゃんと要領を掴めば難しいことじゃない、洗濯は洗剤の選び方や洗濯表示に合わせて洗うものを選別しないといけないのだけどね、掃除はみんなで分担してやっているから自分が奇麗にするべき場所をしっかりとやらなくちゃね」


 食材を刻みながら玲さんはそんなことを話してくれる。彼女自身を寮に来てから積極的に人間関係を築いていこうと努力しているんだ。


 寮での共同生活に楽しさを感じているようでいつもと少し違う表情でリラックスしているのが分かる。


(僕も彼女たちを少しでも支えることができるといいのだけど……)


 そんなことを考えつつ玲さんが朝ごはんの準備をしている間、みんなの分のコップや飲み物を用意していく──何もやらなくていいとは言われたけれど、そういうわけにもいかないからね。


 バターロールを軽く焼いて切り込みを入れてからレタスとハム、スライストマトにウインナーを挟んでマヨネーズをかけていく──粉チーズも振りかけて手際よく人数分の朝ごはんを作っていく玲さんに感心しているとダイニングが少し賑やかになる。


「おはよう! 小鳥遊君。お休みなのにもう起きてるなんて早いんだね」


「……おはよう。今日は藤森さんが料理当番だったね、小鳥遊君はお手伝いしてたの?」


 相倉さんと御崎さんがほぼ同時にダイニングに入ってくると準備された朝食を見て目を輝かせた──キラキラとした視線で玲さんが作った朝ご飯を何回も見直す。


「すごーい、お休みの朝からこんな素敵な朝ごはんが食べられるなんてね」


「なーに、ネットで調べたレシピ通りに作っただけさ。だけど、そういう風に喜んでもらえるならとてもうれしいね、さ、今コーンスープも出来上がったから食べるのはもう少し待っていてくれるかい?」


「うん! でも、お腹空いたよ~」


「相倉さん、まだ皆揃っていないのだから、先に食べるのはダメよ……」


 御崎さんは相倉さん隣に座って彼女を宥めている──休みの日は必ず全員でご飯を食べるという寮の決まりごとをちゃんと守ってくれている。


「あら、わたしが一番乗りではなかったようね」


「姫様は昨日、少し夜更かしをしてしまいましたから……普段よりも起きる時間が遅くなっても仕方ないことです。ですが、この寮で生活する上で他の人達とのコミュニケーションを取るというのはとても大事なことですね」


 メルとアイリスさんが会話をしながらやってくる──アイリスさんは初めのうちは自分は女子寮に住むという言っていたのだけど、メルの傍にいてくれたほうが彼女も安心できるだろうし、何より本人の希望もあってメルとは別の部屋になるけれど今は聖蘭寮で一緒に生活している。


「皆さんおはようございます。ダイニングに来るのは私で最後でしょうか?」


「牧野さん、おはよう。ううん、まだ姫城さんが来てないから最後じゃないよ。さあ、座ってもうすぐ朝ごはんの時間だよ。僕は玲さんのお手伝いをしていたんだ」


「そうなのですね、てっきり私が最後かと思っていました。あら? 今日のメニュー藤森さんが作ったんですね? お料理当番とは聞いていましたけど、とっても美味しそうです。食べるのが楽しみ」


 朝食を見ると笑顔になる牧野さん──僕は彼女とはクラスメイトだったことがあるけど、こんな風に喜んでいるところを見るのは初めてだなあ。


(と言っても中学生時代の僕は積極的にクラスメイトと関わっていくようなタイプじゃなかったし、牧野さんと会話した記憶もない)


 彼女自身内気な性格をしているようけど、クラスでは友達は多い方で僕が名前も知らない女子生徒と仲良く話しているところは見たことはある。


「ねむ……今日はお休みだよね? みんな起きるの早くない?」


 洗顔を済ませて目をこすりながら眠そうな顔でダイニングに入ってくる姫城さん。僕は彼女に「おはよう」と挨拶してから玲さんが準備した朝食を姫城さんの前に運ぶ。


「わー! すごく美味しそう! これ小鳥遊君が作ったの?」


「ううん、僕じゃなくて玲さんだよ。今日の料理当番は彼女だからね、僕は手伝いをしただけ」


 全員が揃ってからの休日は穏やかな朝食からスタート──ゆったりと食事を楽しみながらそれぞれが料理の感想を言い合いながら笑いあうそんな素敵な一日が続くことが嬉しくなって僕も自然と笑顔になっていた。

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