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108.「あの日の思い出は上書き不可能」

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「小鳥遊君、ちょっといいかな?」

「どうしたの? 御崎さん深刻な顔をしているけど……」

「夏休みの予定なんだけど、実家から帰省しないのって言われているんだけど、どうしたらいいかな」

「御崎さんの実家って確か──」

「御崎君の家は白鳳堂って言ってたかな? 名前くらいなら私も聞いたことがある」

 玲さんはふむんと顎に手を当てて応える、寮に来たみんなの顔色を伺いながら御崎さんは自分のことを話してくれた。

「正直実家の経営は上手くいっているわけじゃないの……高級ブランドから庶民派ブランドへの方向転換、ブランディングを再度展開するためにお母さんも毎日仕事に追われているの」

「御崎さんは将来的に実家を継ぐの?」

「まだわからない……あたしが家業を継ぐにしてもまだまだ先のことで今はぼんやりとしか見えないの」

「御崎さんのやりたいことは自分で見つけるべきだと僕は思うよ。ただ、その手助けがちょっとでもできたらいいね」


 僕は自分が感じたことを正直に彼女に伝えてみた。僕ができる範囲で御崎さんを助けてあげたいし、なにより彼女たちとの未来を展望した際にいつかは向き合わないといけない問題だから。


「それよりも私は小鳥遊君の事がもっと知りたいね」

 さっと僕の隣に座る玲さんは僕のほっぺをさすりながら言うと彼女のまっすぐな視線が向けられる。


「僕自身の事かあ、ちゃんと教えておく必要があるのかな? せっかくこれから寮で一緒に生活をする中でお互いの相互理解を深めるために」

「私たちはあなたを知れるのがすごくうれしいの、だからもっと小鳥遊君を教えてよ」

 相倉さんがそう言うとみんなが頷く──どこか期待に満ちた目、キラキラとした表情に僕はたまらないくらいに彼女らが愛おしく感じた。


「いい思い出ばかりではないけど──昔話をするのってあまり得意じゃないんだ。それでも知りたいと言ってくれたみんなに応えようかな。聞いてもらいたいんだみんなには」

 楽しい過去ばかりじゃなかった、だけど、その生き方は僕自身が選択したのだから仕方ないと割り切っていた。

 誰かに話して聞かせるほどに充実した内容でもない。それでもいいんだ。僕の居場所はここなんだから。


 脚色なんてせずにありのままを彼女たちに伝えよう──苦しかったこと、辛かったことを聞いてほしい。エントランスに集まった女の子たちの前でゆっくりと口を開いて過去の話を始めた。



 **


 あの頃の僕は楽しいと言える生活を送っていたんだろうか? 中学生時代までの思い出なんて記憶するほどじゃない。

 授業を受けて放課後はすぐに帰宅して──その後は家で自分だけの時間を過ごす。

 友達もいない、目的も持たずに学生生活が進行していく日々、それは自分で臨んだことなんだろうけど、他の人から見たら寂しい中学生時代なのだろう。


 周りのクラスメイトが放課後に遊びに出かけたり部活をして学生生活を謳歌している中で僕はいつも一人。

 中学に入学した頃は話しかけてくる相手もいたんだけど、特に仲良くなることもなく端的な会話を続けていくうちにいつの間にか忘れられてそれが当たり前の日常になる。


 人間関係なんて所詮はそんなものだ、ましてや学生時代の友達なんて一生付き合う相手なんて一握りだし、ほとんどの人は卒業したら顔すら合わせず存在も忘れる。

 思い返すたびに大したこともない人生なんだって感じる。今聞いてくれている子たちがどういう風に思うのかはわからないけれど僕は偽ることのない真実を語って聞かせる。


 そんな退屈な話よりもみんなは僕のプライベートな話題に興味を持ってくれた。

 学校から帰って来たあとどんな風に過ごしていたのか? 面白い話題はないのだけど、それでも教えておいてもいいかもしれない。



「小鳥遊君、あなたはもう少しクラスメイトと仲良くしたらどうなんですか? どうしてそんなに協調性がないんですか」


 当時の担当教師の言葉を思い出す──母さんには言ってなかったけれど、いや、むしろあの人には言う必要がなかったんだ。


 僕は中学生のころ何度か教師と面談させられたことがある。クラスメイトと協力して何かをやり遂げるのは普通の子には意識をしなくても学校という狭い空間の中では自分の居場所を守るために集団でいるのを選択する。

 誰だって孤独は避けたい──子どものころなんて気が付けばあっという間にクラスから孤立して学校で居場所を失うことだってある。


 入学した頃からそういう教室の雰囲気に付き合わずに一人でいることを選んでいたから。最初のうちは気をかけて声をかけてくる子もいたのだけど、数日立つと何事もないように、まるで僕に声をかけたのをリセットするかのように別のクラスメイトと仲良くしているのを見ると学生の頃の人間関係なんていうものは所詮は事務的なものだというのがわかる。



 他人に話せるほどの思い出じゃないのだけど、それを伝えるのは僕がちょっとでも成長できたって言う事なんだろうな。


 寮での生活は穏やかでゆったりとした時間が流れていく──毎日を彼女たちと過ごすようになってから変わっていく自分に出会うのを楽しみにしながら僕はらしくないくらいのあの日のことをありのままに話した。

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