104.「フリー・チャット・トーク」
「小鳥遊勇人の医療機関での定期検査を推奨します」
AIが弾き出した答えをモニターに表示させる。無機質な機械音声は与えられたプログラムを実行し、現在のデータを参照して未来の傾向を導き出していた。
「対象の血液検査を実施、遺伝子レベルまで解析する事が望ましい。また、現在進行形で進んでいる人口比率の逆転現象に対する対抗策を模索する段階にあります。プロジェクトは次のフェーズに移行後、監察対象の経過監察を怠らないように。また、正確なデータの整理と情報収集の必要性を打ち出すべきでしょう」
モニター越しの機械音声は人から与えられたプログラムを消化していく、記憶装置の容量はアップデートされ毎にバージョンアップ。
始めに実装された頃と比べると随分優秀になった。
時代はAIによる機械化とテクノロジーの進化と発展を推進していて企業やごく普通の家庭にまで普及。
パソコンが高級な電化製品ではなくて、馴染み深い機器に変化したのはここ数十年の取り組みの世界だとも言えるわね。
スマートフォンやタブレット端末も格安で高性能なものがニーズに応ええる形で世間に広がっていく。
先を見据えた政策は生活を豊かにしてくれたし、現に何不自由がなく暮らせていることに感謝するしかないのだけど、その豊かさが人を変化させて小さな変化がやがて大きなものに。
私はずっとこの仕事に携わってきたからこそ分かるの──私達は転換期を迎えているの。
AIとの共生は最初のうちは様々な議論が交わされて批判的な意見も多くみられた。機械はあくまでもそれを動かす人間の感性で趣旨も目的も違人間とは全く別物の存在──感情も理性も持たず、与えられた課題を的確に処理して応えを導き出す。冷たい感じもするのだけれど、それが“彼”らの仕事でもあるし、不平不満を訴えたことはない。
私の仕事をサポートしてくれる大事なパートナーと言っても差し支えがないかしら? これから先の未来はまだはっきりと認識できるわけではないのだけど、プロジェクトを成功させていつかあの子とも向き合わなくちゃならないわね……。
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“小鳥遊班”のLIMEグループは賑やかなメンバーばかりだ──彼女達は僕がチャットに参加していない時も女子トークで盛り上がっている。
僕を中心に集まってきた女の子。可愛いスタンプで会話を続けるのを眺めていると自然と笑顔になる。
ネットサーフィンで僕が使っているスマホの新機種がこの間発売されたのを公式ホームページやSNSで知る事ができた。今のも気に入っているけど、新しいやつも興味あるなあ。
端末の代金は親が払っているから無駄遣いしない様に日頃から通信には気を遣ってるんだけど、幸いにもフリーWi-Fiの電波が飛んでいる場所はたくさんあるんだよね。
父さんが帰って来てから携帯代は払ってくれると約束してくれた。まあ、僕が働き出して自分で払えるようになるまでの間だけって言う話。
多分だけれど、この学園に通っていなければLIMEを積極的に使う事なんて無かった……。
友達もいない僕が他人に自分の連絡先を教える機会なんてない……。
そんな風に考えていたのだけど、今になると僕の日常を楽しくしてくれる女の子達に感謝の気持ちを持っている。
LIMEのグループチャットはかわいいスタンプがいっぱい使われていてとても楽しい気分になる。
僕は父さんともやり取りをしているのだけど、そっちではスタンプを押す機会はほとんどない。
父さんはいつも僕の事を気にかけてくれている──同じ親でもやっぱりあの人とは違うんだ……。
母親なんていう存在だけのあの人は仕事が最優先で息子の事なんて無関心。僕がどれだけ頑張っていても彼女は興味を持たないだろう。
子供を研究対象にしか見ていない冷たい人だから。
僕にとって母親に抱いている感情なんてそんなものだ──これから先は父さんと一緒に暮らして行こう。海外で働いていたのに僕のことを常に気遣ってくれる父さんの存在が僕の中でも重要なものに変わっていった。
グループチャットで日常にはりを与える会話を楽しみつつ部屋で暖かいココアを飲みながらホット一息つくのだった。




