トナカイとリリーの異世界転移
トナカイたちと別の世界で、邪神と勇者一行が戦っていたそうな。
邪神の力は強大で、勇者一行は全滅の危機を迎えていたそうな。
「ククッ、もう終わりか? 生き残っているのは勇者と魔法を使う女の二人か。多少歯ごたえはあったが、やはり所詮は人間ということだな。さぁ、少しだけ時間をやろう。最後の時を有意義に使うが良い」
「くっ邪神め……もはやこれまでか」
「勇者様、私が最後の力を振り絞って一か八かの勝負に出ます」
「魔法使い!? ま、まさか自分の命と引き換えに邪神を封印する、あの魔法を使うつもりかっ!」
「違います。あの邪神に封印は最早無意味でしょう」
「な、何だ違うのか。一体何をするんだ?」
「異世界の者を強制的に此方へと召喚します。強力な力を持つ者、という曖昧な選定基準しか設定できませんが、上手くいけば現状を打破できる、かもしれません」
「し、しかし此方の都合に他人を巻き込むのは……それに必ずしも友好的とは限らないだろう?」
「だから一か八かの勝負なのですよ。ほら、勇者様が大きな街に行くたびこっそりやっている博打と同じですよ」
「ぐっ……バレていたのか」
「ふふっ、そんなどこか抜けている勇者様も、好きでしたよ?」
「なっ!? 何を急に「貴方が無事に生き延びられるよう、向こうで祈っておきますね」待て魔法使いっ! まさか召喚も命を……!?」
「リリー、今日のご飯はトナカイ特製のステーキなのよっ!」
「おーっ、おいしそう!」
「ささ、おかわりもあるからいっぱい食べてよいのよー」
「わーい! いただきまー……」
「およっ? なんか見たことない魔法陣がリリーの足元に出たの……!? リリーが消えたのよ!」
「……ちょいと色々調べるのよ」
「……すっ、あれ?」
「魔法使い! 頼む、目を開けてくれっ」
「そろそろ時間だ。何か召喚したようだが、今更一人増えたところで状況は変わらんぞ?」
「何この状況。そして私のトナカイとステーキは一体どこに……」
「俺の気持ちもまだ伝えてないのに、先に逝っちまうなんて!」
「取り込み中申し訳ないけど、ここは一体どこ?」
「……魔法使いが命を代償に、異世界から君を召喚したんだ」
「えっ、異世界? ということは、トナカイが、いない!?」
「すまない、異世界から召喚する魔法を使えるのは、恐らくこの魔法使い以外いないだろう。だから送り返すことはもう」
「なんでそれを早く言わないのっ! くらえトナカイ特製ポーションっ!」
「っ! 急に何を……「うっ、ここは。天国にしては残念な風景ですね」魔法使いが息を吹き返した!?」
「間に合ったみたいだね。こんなこともあろうかと、トナポーションを服の中に仕込んでおいてよかった。さぁ、私を元の世界に帰して」
「時間切れだ。仲良くあの世に送ってやろう!」
「今忙しいから後にしてほしい……っ、こいつ、強い!」
「その邪神を倒さなければ、落ち着いて送り返してあげられません!」
「俺たちと一緒に戦ってほしい!」
「やむを得ない……というか既に戦ってる」
「なかなか活きが良いな! もうしばらく楽しめそうだ!」
「この邪神ってやつ、今までになく強い……」
「お前、面白いな。人の身でありながらドラゴンブレスを使うとは。殺さずに飼うのも面白そうだ」
「私にそんな趣味はない」
「お前の意見など知らんよ」
「「……」」
「あの子は一体何者なんだ」
「私にも分かりませんよ……邪神とやり合ってまだ生きているなんて」
「これは、とんでもない助っ人を呼んでしまったのかもしれないな。これなら勝て「そろそろ本気を出すか」何だとっ!?」
「くっ、魔法も腕力も半端じゃない。これはちょっと厳しいかも」
「ほれ右、次は上からだ!」
「こうなったら……ギャウッ!」
「何っ!? まさかドラゴン化するとは……ますます気に入ったぞ!」
「「!?」」
「ど、ドラゴンじゃないか。しかもでかいぞ! どういう事だ?」
「もしや彼女は、ドラゴンの血を継いでいるのではないでしょうか。それならあの強さにも納得がいきますね」
「これなら邪神にも勝て……「ガフッ!?」何だと!?」
「なかなか良かったが、まだ一歩足りないな。それではしばらく眠らせてやろう……でぇい!」
「……ギャウゥ」
「次元の壁を超えてトナカイ参じょ……おふうっ!?」
「むっ? 急に虚空から何か飛び出してきたが……我の攻撃に当たって飛んでいきおったわ」
「ギャウッ!? っトナカイ!」
「トナカイなんも悪いことしてないのに、急に攻撃されたのよ……物騒な世界なのよぉ」
「トナカイ気をつけて、そいつ強いよ!」
「あっ、リリー発見なのよ! 良かったのよぉ……急にいなくなるからトナカイ心配したのよー」
「どうやってここに?」
「うむ、リリーが消える前に見た魔法陣と魔力の残滓を解析して、転移の魔法を組んだのよ。あとはリリーにあげた腕輪とトナカイの腕輪の繋がりを頼りに、なんとかこの世界に来れたのよー」
「さすがトナカイ、よく分からないけど凄いね!」
「むふー、まさかいろんな世界が存在してるとは思ってなかったの……「いつまで喋っているつもりだ」ぉふう!?」
「トナカイーっ!?」
「我の前で楽しく歓談とは、ずいぶんと舐めた真似をしてくれるではないか。その妙な格好の者は嬲り殺してやろう」
「「……」」
「魔法使い、もう一人追加で呼んだのか?」
「私の力をもってしても、一人呼ぶのが限界ですよ……あの着ぐるみ? の方は、自らこちらの世界に来たようですね。もし生きてこの場を切り抜けられたら、じっくりと研究……いえ、お話ししてみたいですね」
「お前なぁ……だが、ドラゴンでも勝てない邪神相手に着ぐるみが増えても「よいっしょーっ」な、何だとっ!?」
「たかが棒で我の攻撃を捌くとは」
「トナカイ、戦うたびにそれ言われてる気がするのよっとーっ!」
「くくっ、楽しませてくれるではないか!」
「トナカイは何で今戦ってるのか、いまいちよくわかってないのよ!」
「トナカイー、そいつは邪神らしいよ! あとトナカイ負けたら私がペットにされちゃうから、頑張って倒して!」
「なんとっ!? リリーはトナカイのんだから、あげるわけにはいかないのよーっ!」
「「……」」
「あの着ぐるみは一体……」
「本気を出した邪神と戦って、まだ生きているなんて……」
「ふふん、トナカイは私より強いからねっ」
「それは凄いな」
「そして優しくて料理上手でもふもふで……」
「べた褒めですね。よっぽど彼? のことが好きなんですね」
「うん、トナカイがいれば何もいらないと言っても過言ではないね」
「ちょっと羨ましいですね。私もそんな相手が欲しいものです」
「!? な、なぁ魔法使い……この戦いが終わったら伝えたいことが「あっ、避けるのよー」ごふっ!?」
「邪神の流れ弾にピンポイントで当たったね」
「勇者様……このシチュエーションでのその言葉、巷ではよくないことが起こるフラグと呼ばれているらしいですよ」
「あいたた……酷い目にあった」
「油断は良くない」
「そうですよ勇者様。仮にも邪神との決戦なんですから、もっと気を引き締めてくださいね?」
「す、すまなかった……」
「そう思うなら少しは戦おうとして欲しいのよーっ!? さっきからトナカイしか戦ってないのよ!」
「「「あっ……」」」
「束になったところで変わりはないわ!」
「トナカイが攻撃を引き付けるからみんな頑張って攻撃するのよいしょーっ!」
「わかった……ギャウーッ! スウッ……--!!」
「近づいたら巻き添え食らいそうだな……魔法使い、俺たちは魔法で援護するぞ!」
「わかりました!」
「ぐうっ……チマチマと遠くから鬱陶しいわ! 消し飛べい!」
「トナカイ必殺邪神逸らしなのよっ!」
「我の攻撃を逸らしただとっ!?」
「更にトナカイ変身、トナゴン! リリー、一緒にブレスをお見舞いするのよーっ」
「! ギャウッ」
「「スウッ……ーー!!」」
「ぐっ、闇の障壁! うおぉぉ」
「好機! 聖剣よ、邪神の障壁を打ち抜けっ……おらぁぁ!」
「勇者様!? 間に合えマジックシールドっ!」
「何だとっ!? ギャァァァ……」
「「……」」
「ついに、邪神を倒したな……」
「そうですね」
「平和な世界が、訪れるんだな……」
「そう、ですね……っ!」
「ゴホッ……ちょいと無理をし過ぎだが、それに見合うものを手に入れることが出来た」
「無茶するんですから……」
「出来れば平和になった世界をもう少し見ていたかったが、ここまでの、ようだ」
「勇者様っ!!」
「トナカイ、なんとか勝てたね」
「うむ」
「あの勇者? って人、死にかけてるね」
「最後の障壁を破る姿は、まさに勇者だったのよ……」
「トナポーションでなんとかならないの?」
「んー、見た感じトナポーションでは、無理なのよー」
「そっか……」
「だからこれで治してあげるのよー」
「!? そ、それはっ」
「魔法使い……俺の分まで、幸せに、なってくれよ……」
「貴方が私を幸せにしてくれるんじゃなかったんですかっ! 勇者様っ!」
「取り込み中申し訳ないけど、ちょいとそこをどくのよー」
「!? そ、その大きく禍々しいものは「治療用ハルバード改なのよーっとっとー……あっ」キャァァ勇者様ーーっ!?」
「トナカイが小石に蹴つまずいて勇者の顔の横にハルバードを落としたね。客観的に見ても恐ろしい……」
その後勇者をちゃんと治療し、魔法使いと勇者に感謝されながら、元の世界に帰っていったトナカイとリリーであった。
邪神
勇者と魔法使い
トナカイとリリー
の五名でお送りしました。