かっこいいシーン
「ねぇトナカイ」
「どしたんリリー?」
「トナカイのかっこいいところが見たいよ!」
「……えっ?」
「だから、トナカイのかっこいいところが見たいの」
「……リリー、何か変なものでも食べたん?」
「食べてないよ! なんで急にそんな話を……」
「それはむしろ、トナカイが言いたいのよ」
「むー、それじゃ、なんでトナカイのかっこいいところが見たくなったのか、回想スタート!」
「あのお店の串焼きは絶品だなぁ、トナカイの料理には勝てないけど……はむっもぐもぐ」
「……でね、そのとき彼が私の前に立って『僕が君を守る!』って」
「きゃーっ! いいなぁ私も彼氏にそんなこと言ってもらいたいなぁ……」
「もぐもぐ、ごくり。さっき私の後ろを通り過ぎた二人、彼氏のかっこいいところについて話してたね」
「……トナカイって、どちらかというとかわいい系だよね。いや、残念系?」
「でも、ごく稀にかっこいいところを見せてくれる……気がする」
「よし、早速トナカイにかっこいいところを見せてもらおう!」
「……はい、回想おわりー。ねっ?」
「リリー、また街で買い食いしてたんねぇ。ところでトナカイって、残念な子扱いなん?」
「うん、割とね」
「そうなんねぇ。んー、かっこいいところと言われても、よくわかんないのよ?」
「えぇ……何かないの?」
「ふむー。あっ、トナカイかっこいい角があるのよ!」
「いや、見た目のかっこよさじゃなくて……あとトナカイの角って、かっこいいというより優しい感じだからね?」
「えっ」
「だってその角、実は柔らかいじゃん。むしろ癒し系じゃん」
「トナカイの角って、柔らかかったんねぇ」
「えっ、知らなかったの?」
「よく考えたらあんまり気にしたことなかったのよ!」
「えぇ……」
「ふむふむ、確かに柔軟性に富んだ触り心地なのよ」
「ね? 私としてはその方が乗りやすくていいね」
「リリーはよくトナカイの頭に乗っかってるもんねぇ」
「私の特別席だからねっ!」
「トナカイ的には動きづらいから、さすがに料理中は降りてほしかったりするのよ」
「えっ……前向きに検討します」
「うむ、よろしく頼むのよー」
「……で、トナカイのかっこいいところを」
「忘れてなかったんねぇ」
「そんな簡単に話をすり替えられないよ! トナカイじゃないんだから」
「割と失礼なことを言われてる気がするのよ」
「そ、そんなことはないよっ、トナカイは単じゅ……ちょろ……ごほんっ、素直ってだけだよ!」
「そうなんねぇ。トナカイ素直なんねぇ」
「うん、素直が一番だよね!」
「うむ」
「それじゃ、トナカイのかっこいい場面を演出するよ!」
「ふむ? よくわかんないけど、わかったのよー」
「というわけで、用意しました」
「久しぶりに呼ばれたと思ったら、よく分からないことをしているのね?」
「今回はラスボスのアクアとの激戦によって全滅しそうな、トナカイとリリーの二人パーティという設定だよ!」
「そうなんねぇ」
「それじゃ私は満身創痍で倒れてるから、トナカイかっこよく守ってね!」
「善処するのよ」
「よく分からないけれど、リリーに向かって行けばいいのね?」
「うん。ラスボス感を出しながら向かってきてね」
「難しいことを言うわね……」
「ちょっとそこを通しなさい」
「どうぞなのよー」
「ありがとう。リリー覚悟、ていっ!」
「あいたっ!? ストーップ、違うじゃん!」
「「えっ」」
「えっ、じゃないよ! トナカイ何で立ちはだかってくれないの!」
「通りたいって言われたから道を譲ったのよー」
「普通ならいいけど、今はだめなの! あとアクア、もっと敵感出して!」
「えぇ……ちょっと偉そうな感じで喋ったじゃないの」
「もっと、『まずはそこに転がっている美少女から仕留めてやろう!』的な感じで」
「「うわぁ」」
「……ギャウゥゥ!」
「リリーが照れ隠しにリリゴン化したのよ」
「今の台詞は自分でも恥ずかしかったのね」
「スウッ……」
「ちょっ!? ブレスはやりすぎじゃないの?」
「トナカイが守ってあげるから安心するのよ」
「と、トナカイ……」
「ーーッ! ギャウッ!」
「ブレス逸らしなのよっ!」
「ありがとうトナカイ、助かったわ!」
「ギャウ……ちょっとアクア、これじゃ役割が逆じゃん! あとトナカイ、それを私の時にやってよ!」
「リリー、無闇にブレスを吐いたら危ないのよ?」
「うっ……ごめんなさい」
「うむ、次から気をつけるのよー」
「……私はもう帰ってもいいのかしら?」
結局思ったようなトナカイのかっこいいところを見ることが出来なかった、リリーであった。