リリーのお菓子作り その二
「トナカイー、新しい料理を覚えたいよ!」
「ふむー、分かったのよー。どんなんを作りたいのん?」
「んー、甘いお菓子かなぁ?」
「お菓子を作りたいんねぇ。そんなら今日はアレを作るのよ! 準備するからしばらく待つのよー!」
「はーい」
「と、言うわけで準備したのよー」
「まさか準備に一日かかるとは思わなかったよトナカイ」
「ちょっと施設づくりに夢中になりすぎたのよ!」
「後で昨日分のもふもふするからね」
「わかったのよー。ささ、中に入るのよー」
「うん」
「そこらへんの食べ物屋さんにはないくらい、すごい設備だね。毎回思うんだけど、ここまで立派な設備にする必要、あるの?」
「正直全くないのよ」
「……そうなんだ」
「でも、せっかくリリーと一緒に料理するから、毎回頑張っちゃうのよ!」
「そ、それって……私のために毎回頑張りすぎちゃうってことなのかなぁ」
「そうなのよー」
「えへへ……トナカイったら、もうっ」
「ささ、早速お菓子を作るのよー」
「うんっ!」
「まずはー、牛乳を温めるのよー」
「ふむふむ」
「この甘い香りの種もさらっと入れるのよー」
「! すごく甘いにおいになったよ! なんだかこれだけでおいしそう……」
「香りだけで実際そんなに甘くはないのよー。そして飲んじゃダメなのよ」
「うん、我慢する」
「次にー、卵を割るのよー」
「もう卵割りはマスターしたよ!」
「頼もしいのよー」
「せーの、はいっ!」
「「あっ……」」
「あ、あれぇ、おかしいなぁ」
「料理は日々練習なのよー。ささ、落ち着いても一回やるのよー」
「うん。今度は慎重に……えいっ!」
「うむ、上手に出来たのよー」
「今度から定期的に練習しよう」
「次は、卵をかき混ぜるのよー」
「これは簡単だね!」
「お砂糖も入れるのよー」
「ふむふむ」
「しっかり混ぜるのよー」
「卵って何でも作れる万能な材料なんだね」
「うむ、卵はすごいのよー」
「卵を産むニワトリはもっとすごいのかな」
「うむ!きっとすごいのよー」
「じゃあさ、ニワトリが産まれてくる卵はもっともっとすごいのかな?」
「うむ、もっとすごいのよー」
「……トナカイ、適当に返事してない?」
「そんなことないのよーん」
「むぅ……ほんとかなぁ」
「今までの材料を全部混ぜるのよー」
「わかった!」
「よーくまぜまぜするのよー」
「お菓子作りって、混ぜる作業が多いね」
「そうかもしれないのよー。おいしくなるように心を込めて混ぜるのよー」
「トナカイがお菓子を作るときも、毎回心を込めて混ぜてるの?」
「うむ、もちろんなのよー」
「なるほど。おいしくなーれっ……なんちゃって」
「……」
「何か言ってよトナカイぃ! 余計恥ずかしいじゃん!」
「次の作業はねー」
「さらっと進めないで!?」
「この器にさっきの液体を流し込んであっためるのよー」
「ふむふむ」
「リリー」
「どうしたのトナカイ?」
「とりあえず今放とうとしてる炎魔法はしまうのよ」
「大丈夫、ちゃんと加減するから!」
「加減してもあかんのよ!」
「わ、わかったよ……えいっ」
「あっ……リリーの炎魔法が放物線を描いてどっかに飛んでったのよ」
「「……」」
「なんか悲鳴が聞こえたけど、聞かなかったことにするのよ」
「次から気をつける」
「お湯が入ったおなべに入れてー、蓋をしてー、しばらくじーっと待つのよー」
「火にかけないの?」
「茹でると失敗しちゃうのよー。絶妙なあったかさを保つのがいいのよ!」
「なるほどー。繊細なんだね」
「そろそろ取り出して冷やすのよー」
「さっきあっためたばかりなのに、もう冷やすの?」
「うむ、冷やすといい感じになるのよ!」
「それじゃ氷魔法「といっても、凍らせるわけじゃないのよ」そ、そうだよねー。氷魔法とかで一気に冷やすとか、そんなことしないよねー!」
「直に凍らすんじゃなくて、氷で作った箱の中に閉じ込めて間接的に冷やすのはいいと思うのよー」
「なるほど。ていっ……よいしょっと」
「うむ、いい感じなのよ!」
「というわけで完成なのよ!」
「おぉー! なんだかプルンプルンしてるよトナカイ!」
「うむ、甘くてとってもおいしいのよ!」
「ほんとだ!これなら何個でも食べられるね!」
「むふー、そうくると思ってあらかじめいっぱい作っといたのよー。一緒に食べるのよ!」
「わーい! いただきまーす!」
仲良くプリンを食べる、トナカイとリリーであった。
ちなみにリリーが放り投げた炎魔法は、たまたま近くの荷馬車を襲っていた盗賊のリーダーの頭に直撃し、見事撃退していた。
それ以来、近隣の町では、悪さをする者には炎の天罰が下るという噂が立つようになったそうな。




