ボール遊び
「今日は何をしようねぇ?」
「巷ではボールを使って戦う遊びが流行ってるらしいよトナカイ」
「ふむふむ、そうなんねぇ。そんじゃ早速やってみるのよ!」
「うん」
「と、いうわけで用意したのよ!」
「……トナカイ?」
「どしたんリリー?」
「なんだかこのボール、動いてない?」
「むふー、トナカイ特製のボールは自ら動くのよ!」
「何でそんな……トナカイだからしょうがないよね」
「ちなみにとっても頑丈なのよ」
「それはいつものことでしょ。それで、この変なボールで何を……あぶなっ!? 急にボールが飛んできた!」
「変なボールって言われて怒ってるのよ」
「えぇ……言葉を理解するんだ、このボール」
「そんじゃ、頑張るのよー。ゲーム、スタートなのよ!」
「これでどうやって遊ぶの?」
「めっちゃ早く逃げるから、頑張って捕まえるのよー」
「なるほど。それじゃ早速捕まえ……はやっ!?」
「早く捕まえないとどっかに行っちゃうのよー」
「えぇ……ま、まてーっ!」
「リリー選手がボールに向かって全力ダッシュなのよーっ」
「なんでトナカイ解説者ポジションなの。それよりあのボール早すぎない?」
「ボールはまだ本気を出してないのよー?」
「むぅぅ……ただのボールなんかに負けていられない!」
「あっ、リリーの言葉を聞いて怒ったボールが速度を上げたのよー」
「余計なこと言ったぁぁ!」
「おーっと、ボールが森の中に入っちゃったのよー」
「くっ、でも障害物がたくさんある森の中ではさすがに速度が落ちるはず……」
「その考えは甘いのよー。例えるなら、今日のお昼ご飯の後に食べる予定のデザートくらい甘いのよー」
「例えが未来に食べるデザートじゃ、いまいち甘さが伝わらないよトナカイ!」
「忘れてるかもしれないけど、リリーが追いかけてるのはボールなのよ?」
「!? 木に当たって跳ね返っ……へぶっ!?」
「リリーの顔に思いっきり当たったのよ!ちゃんと避けないとダメなのよー」
「いたた……あれっ?びっくりしたけど、特に痛くはないんだね」
「トナカイ特製のボールは安全面にも配慮してるのよー」
「なるほど。変なところで優しい仕様だね」
「なかなか追いつけない……」
「リリー、なにもまっすぐ追いかけないとダメっていうルールはないのよ?」
「なるほど……そうだ!」
「お腹すいたことに気付いたん?」
「違うもん、そんなことじゃないもん! それよりトナカイ、ちょっとこっちに来て」
「どしたん? おもむろにトナカイを抱きしめて、リリーは甘えん坊さんなのよー」
「んー、今日もナイスもふもふ……方角及び角度よし、全力で、いっけぇぇ!」
「まさかのトナカイ投げなのよぉぉ……」
「あっ、外した」
「リリー、後で反省のポーズなのよ」
「ごめんなさい」
「でも作戦的には悪くなかったのよ。もっと色々工夫するのよー」
「わかった。じゃあ次の作戦ね」
「よし、あとはここに誘い込むだけだね」
「頑張るのよー」
「すうっ……やーい変なボールー!」
「リリー、さすがにそんなんじゃボールは来ないと「来たっ!」……意外と単純だったのよ」
「顔に来ることが分かっていたら、もう食らわないっ! 必殺リリーカウンター!」
「リリーが顔に向かってくるボールにカウンターの右フックを……「ぐえっ!?」まさかのボールがフェイントで軌道を変えてボディブローを食らわせたのよ!?」
「仮にも年端もいかない乙女の顔とお腹に攻撃するとか、どうかと思う……」
「ちなみに衝撃はあるけどダメージはないのよ」
「そういう問題じゃないの」
「あとリリーの年齢はトナカイとおんなじくらいなのよ」
「だからそういう問題じゃないのっ!」
「まさか二度も攻撃をもらうとは思ってなかったけど、なんとか捕まえられたね」
「うむ、トナカイ特製の大きな檻を使った、素晴らしい罠だったのよー」
「ボールがこの範囲に入った時点で勝負は決まってたね」
「うむ! 絶妙なタイミングでロープを離して、上から被せたのよ!」
「ところでトナカイ」
「どしたんリリー?」
「この檻、出口はどこなの?」
「檻に出口なんて、ないのよ?」
「そっかぁ……」
ボールで戦う遊びをしようと思っていたのに、、ボールと戦う遊びに変わっていたとリリーが気づくのは、トナカイ特製の頑丈な檻から何とか抜け出した数秒後のことであった。
ちなみにお昼のデザートは餡蜜だったそうな。




