トナカイにお小遣いをあげたら その三
「リリー、さっきこんなのを買ったのよー!」
「早速トナカイのお財布に仕込んだ、火柱を上げる機能が役に立つね」
「ストーーップ! 待つのよリリー! 今回はちゃんと買えたから、お財布はここにぁっちゃーー!?」
「あ、ごめんね。 もう発動させちゃってた……」
「酷い目にあったのよぉ……まぁいいのよ! 今回は筆談という高等なテクニックでなんとか無事に買えたのよ!」
「そうなんだ。トナカイ、賢くなったのね」
「うむ! で、これを買ったのよー!」
『幸せを呼ぶ壷』
「……えっ? 壷?」
「うむ! なんかねー、通りを歩いてたら、急に怪しい格好のおっちゃんに呼び止められてー、色々な話を一方的にされて、気づいたら買ってたのよ!」
「それ、詐欺! 詐欺られてるよトナカイ!」
「えっ……そうなん? 壷を買ってから今までを振り返ると、割と幸せな日々だったと思うんけど……」
「そ、それは私との冒険生活が幸せっていうことかな? なんだか照れる……いや、違うよトナカイ! それ、壷買う前のことじゃない!」
「……そう言われると、そうねぇ。トナカイ、うっかりしてたのよー」
「トナカイは、うっかりさんなんだから……ところで、その壷を売りつけてきた人が、どこにいるのか分かる?」
「んー、そこのお店だったと思うのよー」
「ちょっと、お金を取り返してくるね?」
「ん? リリー、トナカイがいくらで買ったのか、聞かないん?」
「うん。お小遣い全部でしょ?」
「!? リリー、もしかして……トナカイの心を読む力がついたん?」
「違うけど、なんとなくわかった。それじゃ、行ってくるね!」
「うむ、トナカイ、おとなしく待ってるのよー!」
「んー、この壷、ほのかに魔力を感じるのよー。気になることは、調べるのがトナカイなのよ! どれどれー……」
「くっ……トナカイごめん。トナカイが言っていた店に殴りこんでみたけど、もぬけの殻でお金取り返せなかった」
「リリーおかえりなのよ! さっき買った壷、よく調べたら凄いことが分かったのよ!」
「そうなの?」
「うむ、この壷はねー……雨を呼ぶ壷だったのよ!」
「えっ、雨?」
「うむ! この壷にお水を少し入れてー、魔力を込めるとー?」
「……ん? ほんとだ、何だか空が曇って……」
「むふーっ! ほらねー、やっぱりそうだったのよー!」
「トナカイのお小遣い全部が、妥当な金額なのかわからないけど、今回は本物だったね」
「うむ! この壷は、いいもの、なのよぉ」
「……ところで、その壷に込めた魔力によって、雨の量がかわったりとか、するの?」
「お、さすがリリー、鋭いのよ!」
「やっぱり、そうだよね。何だか雨がどんどん強くなってるもんね」
「そういえば、そうねぇ。ちょーっと、魔力込めすぎちゃった、かなぁー?」
「うん、雨が滝のようになってきたもんね」
「「……」」
「逃げるのよリリー!」
「うん!」
ある日、深刻な水不足に悩まされていた街を突然、豪雨が襲った。
若干の被害が出たものの、その後土地が潤い、水不足が解消したという。