トナカイたちの劇
「みんなに集まってもらったのは、理由があるのよ!」
「そりゃあ、何もないのに呼ばれたら驚くわよ」
「トナカイなら、ありえるけど」
「……」
「とりあえず、回想スタートなのよ!」
「ふんふふーん。この街も活気があってよいのよーん」
「んー、人だかりができてるのよ?」
「おー、あれは演劇ってやつなのよ!」
「演劇をやってる人も、見てる人も、楽しそうなのよー!」
「はい、回想終わりーなのよ!」
「なるほど、深い理由があったんだね」
「どこが深いのよ。リリー、貴女トナカイと長く居すぎて判断がおかしくなっているんじゃないの?」
「じょ、冗談だもん」
「リリーはノリが良いのよ! それじゃ、どんな劇をするのか、みんなで考えるのよ!」
「そこからなんだ」
「うーん、ここにいるメンバーが、トナカイ、リリー、黒トナカイと私の四人でしょ。人数的にたいした劇は、できそうにないわよ?」
「別に良いのよー。最初は簡単な劇をするのよ!」
「それがいいでしょうね」
「色々検討した結果、赤ずきんをやることになったのよ!」
「次は、配役ね」
「そんじゃ、主人公の赤ずきん役をしたい人は、手を挙げるのよーっ」
「はいっ!」
「……」
「主人公ポジションは譲れないわっ!」
「なんとなくトナカイも手を挙げておくのよ!」
「「……」」
「これは、主人公をかけた勝負をする必要があるのよ!」
「トナカイ、貴方は赤ずきんって感じじゃないわよ!」
「アクアには、もっといい配役があるよ」
「リリー、それ以上言うと容赦しないわ「お婆さん役が」誰が年寄りよ! 後で覚えてなさいよ!」
「……ぼく、そこまで赤ずきんに拘ってない」
「黒トナカイも、もっと自己主張するのよ!」
「第一回、赤ずきん争奪戦なのよーっ!」
「「おーっ!」」
「……おー」
「今回の戦いはーっ! こちらなのよ!」
『演技バトル』
「すごくそれっぽい!」
「面白いわね。私の演技力を見せる時が来たようね!」
「そんじゃ、なんとなくリリーからやるのよ! スタートなのよ!」
「……今日はお婆さんのお家に行かないとっ」
「っ! この気配は……オオカミ!」
「がるるーなのよ!」
「私が大人しく食べられるなんて思わないでね……せいっ!」
「きゃうーんなのよ! ひとまず撤退なのよーっ」
「日頃の修業が役に立った……」
「はい終了なのよー!」
「どこが赤ずきんよ!? オオカミを撃退する赤ずきんなんて、聞いたことが無いわ!」
「えっ……違うの?」
「知らなかったの!?」
「気になる点数はこちらなのよ!」
「……五点」
「この、リリーの点数が基準になるのよー。次はアクア、出番なのよ!」
「本当の赤ずきんを見せてあげるわ」
「そんじゃ、スタートなのよー!」
「お婆さんの家に行きましょうか」
「がるるーなのよ!」
「あら、オオカミさん「油断大敵なのよー、がぶー」っきゃー!?」
「哀れ赤ずきんはオオカミに食べられてしまいましたとさ。バッドエンド……」
「はい終了なのよーっ!」
「警戒心が足りなかった。近づかれる前に対処すべきだったね」
「いや、おかしいわよ! 最初はもっと、フレンドリーなオオカミのはずでしょう!?」
「アクア、オオカミがそんな小賢しい真似するわけ、ないのよ?」
「いや、これ劇でしょう!?」
「気になる点数はー?」
「……二点」
「今のところリリーが一位なのよー! 次は黒トナカイなのよ!」
「……頑張る」
「はい、スタートなのよーっ!」
「……お婆さんのところに行かないと」
「がるるーなのよー」
「……オオカミ。私はお婆さんの安否を確かめる使命がある。それが終わったら好きにすればいい。……だから、この場は見逃して」
「がるるー、わかったのよー! 赤ずきんが使命を終えたとき、またオオカミが現れるのよー」
「……お婆さんのところに急がねば」
「はい終了なのよー!」
「感動した」
「リリーよりは赤ずきんっぽいわね……やっぱりおかしいけど」
「気になる点数はー?」
「「七点」」
「高得点なのよーっ!」
「……やった」
「最後はトナカイなのよー! そんじゃ、スタートなのよ!」
「お婆さんのところに行くのよー」
「がるるー、食べちゃうぞーっ!」
「なんとっ! オオカミ少女リリーなのよ!」
「ひとまず逃げるのよーっ!」
「が、がるるー……食べてしまうわよ……?」
「こ、こっちにもオオカミ女アクアがいるのよっ! 絶体絶命のピンチなのよーっ!」
「つ、か、ま、え、たっ」
「むひょーっ!? 捕まってしまったのよー!」
「いただきまーす!」
「あっ、ずるいわよ! 私にも分けなさいよ!」
「……こうして、赤ずきんはオオカミに食べられてしまいましたとさ。バッドエンド」
「はい、終わりなのよー。ちょっと難易度が高かったのよぉ」
「オオカミ役、案外楽しいわね」
「トナカイをおいしくいただく役……いいかも」
「そんで、トナカイの点数はいくらなのよー?」
「……十点」
「「いや、その点数はおかしい(よ)(わよ!)」」
今回の赤ずきんバトルを制したのは、黒トナカイであった。
しかし赤ずきんバトルで満足した四人は、肝心の劇を、後日に見送るのであった。




