リリーと魔剣
冒険者となって世界を旅するドラゴン娘リリーと、森の精霊トナカイ。
面白いものや新たな発見を求めて、今日も旅を続けるのであった。
「……トナカイ、ちょっといい?」
「どしたんリリー? 何だか暗い表情をしてるのよ? オヤツたべる?」
「……勢いでつい、これを抜いちゃった」
「その剣、とってもいっぱい魔力がこもってるのねぇ」
「この近くの岩に刺さっていて、今まで誰にも抜けなかったらしいの。これを抜いたら願いが叶うとか、莫大な富が手に入るとか、世界が終わるとか、なんせ色んな噂があるらしいの」
「そうなんねぇ。そんで、抜いたん?」
「うん、簡単に抜けた。ちょっと引っ張ったら、ぽろって」
「そうなんねぇ」
「……この剣ね、魔剣らしくて、私を乗っ取ろうとしているみたい」
「そうなんねぇ……えっ」
「今もね、世界を手に入れたくないか、我を受け入れろ、とか直接頭の中に語り掛けてきてる」
「ふむー、リリー大丈夫なん?」
「うーん……そろそろ限界かも」
「あかんやつやん! えーっと、どうしよかな……リリーが乗っ取られるということは、けっこう強そうな魔剣なのよ!」
「トナカイなら、大丈夫ダと思うケド……キヲ、ツケ……テ」
「リリーー!?」
「……ククッ」
「リリー? ……あぶないのよ!?」
「コノ攻撃ヲ避ケルトハ……妙ナ見タ目ノ割ニ、ヤルデハナイカ」
「Oh……リリーがなんかアカン感じになってるのよぉ」
「コノ体ハ、スバラシイ……我ノ力ヲ完全ニ引キ出セル」
「嬉しそうなところ悪いけど、リリーはトナカイのんだから、あげないのよ?」
「コノ体ト我ガアワサレバ、世界ヲ手ニ入レルコトナドタヤスイ……フハハハ!」
「……全然トナカイの話を聞いてくれないのよ。いや、もしかして聞こえてないのん?」
「手始メニ貴様ヲ食ライ、魔力ヲ更ニ高メルトシヨウ。死ネ!」
「困ったのよー、話が通じないと説得できないのよー……」
「貴様、我ノ話ヲ聞イテイナイノカ? 恐レオノノキナガラ、死ヌガヨイ!」
「ちょっとトナカイ、考えてるから待ってね」
「!? ソノヨウナ貧弱ナ棒デ我ヲ防グトハ……ククッ、少シダケ相手ヲシテヤロウ!」
「何か創造して意志疎通をはかる? うーん、魔道具渡しても、素直に受け取ってくれる気がしないのよぉ」
「ハッ! ヌウン! コノ、チョコマカトスバシッコイ……ナラバ、コレナラドウダ!」
「足元がお留守なのよ」
「!? 我ノ足元ヲスクウトハ、ヤルデハナイカ!」
「うーん、もう面倒だから魔剣をへし折るしかないのよ」
「貴様ニハ特別ニ、我ノ本気ヲミセテヤロウ!」
「あっ! この魔剣、明らかにリリーと融合しようとしてるのよ! ……トナカイ、さっき言ったよね? リリーはトナカイのんだから、あげないって」
「ナンダ!? 急ニ動キガ変ワッタダト?」
「足元がお留守なのよ」
「グッ、ナンノ!」
「おててがお留守なのよ」
「!? 速イ!」
「頭が、胴が、全てがお留守なのよ!」
「捌キ切レヌ! グオォォッ!」
「……やっと魔剣がリリーから離れたのよ。よいしょっと、意外とこの魔剣、軽いのねぇ」
「馬鹿メ、不用意ニ我ヲ手ニスルトハ。ソノ慢心ガ貴様ノ敗因ダ! 次ハ貴様ヲ乗ッ取ッテヤロウ!」
「トナカイねー、めったに怒らないのよー」
「我ヲ抗ウコトナドデキヌゾ! サァ我ノ力ヲ受ケ入レロ!」
「あとねー、あんまり殺すとか壊すとか、好きじゃないのよねぇ……」
「マダ抗ウトハ……」
「でもねー、大切なものを盗られそうになったら、さすがのトナカイも怒るのよ?」
「グッ!? 魔力ガ大量ニ流レテクル! ナンダコレハ……」
「この魔剣は、危ないから」
「ヌウオオォォ! 我ノ体ガ魔力ニ耐エキレヌ……」
「この世から消しておこうねぇ」
「ギャァァァ……」
「跡形もなく消し飛んだのよ。さて、リリーは大丈夫かな?」
「……すぅ……すやぁ」
「眠ってるだけみたいなのよ。よかったのよぉ……」
「んー、トナカイ、もふもふ……」
「リリーは、夢の中でもトナカイをもふもふしてるのねぇ。よしよし」
「んふふ……」
「幸せそうな顔をしているのよ。リリーは、トナカイの大切なパートナーだから、誰にもあげないのよ」
「……っていう夢を見たの」
「そうなん? なんだか凄そうな夢なのよー」
「やっぱり、夢だったのかなぁ? すごく現実味のある夢だったんだけど……」
「リリーは想像力が豊富なのねぇ。そんなことより、ご飯できてるのよー!」
「あ、私の大好きなお肉料理だ!」
「むふー、今日はなんとなくリリーの好きなものを作りたい気分だったのよー」
「えへへ、トナカイありがとう!」
「もふっ!? ……リリーは本当に甘えん坊さんなのよー」
ある土地で長年、誰にも抜かれることのなかった剣が、いつの間にか消えていたと一時期話題になった。
世界を救う勇者が剣を抜き持ち去ったとも、魔王が剣を抜き更なる力を手に入れたとも噂されたが、真相を知るものは一人もいなかった。




