リリーの料理レッスン
冒険者となって世界を旅するドラゴン娘リリーと、森の精霊トナカイ。
面白いものや新たな発見を求めて、今日も旅を続けるのであった。
「トナカイにお願いがあるの」
「どしたんリリー? お腹すいたん?」
「トナカイは私をどれだけ食いしん坊だと思っているの……そうじゃなくて、私に料理を教えてほしいの」
「そうなん? ええよー、何を作りたいん?」
「まずは簡単な料理から教えてほしい」
「んー、簡単なお料理ねぇ……あ、じゃあアレにするのよ! ちょっと準備するから地面の蟻さんでも数えて待ってるのよー!」
「なぜに蟻? ……行っちゃった。おとなしく待っていよう」
「蟻が六百五十二匹……トナカイ、まだかなぁ」
「ただいまー! 遅くなってすまなかったのよ!」
「いいの、私も今来たとこだから気にしないで」
「えっ……どっか行ってたん?」
「どこにも行ってないけど、以前に師匠の『意中の彼の落とし方講座』で、待ち合わせをするときはこう言うものだって習ったから、試してみたの」
「そうなん? なんか使い方が違う気がするけど、まぁいいのよ! 準備ができたから早速いくのよ!」
「うん」
「トナカイ? あの建物は一体……」
「リリーのお料理訓練場なのよ! さっき作ったのよ!」
「思った以上に壮大な準備だった!」
「ささ、中に入るのよー」
「う、うん……おぉー、すごい! 料理に使いそうなものがたくさん置いてある!」
「むふー! これだけあれば、大抵のものが作れるのよー!」
「……で、私が挑戦する料理は何?」
「リリーが挑戦するお料理はー……これなのよ!」
「……えっ?」
「どしたん? お腹すいたん?」
「いや、そのくだりはさっきやったでしょ。そうじゃなくて、トナカイが指し示している先に、なにかの卵が置いてあるだけのように見えるんだけど……」
「リリーのおめめは正常なのよ。そう、卵、なのよ!」
「卵を……作るの? トナカイ、確かに私は卵から生まれたドラゴンだけど、卵を作るのは……その……色んな手続きが……」
「リリーがなんで赤くなってるのかよく分からないけど、多分違うのよ! 卵を割る訓練からスタートなのよ!」
「そ、そうだよね! うん、何の勘違いもありませんでしたとも! 何の問題もないでございます!」
「リリー、心配しなくても、トナカイが付いてるから大丈夫なのよ! そんなに口調が変わるほど慌てなくても、落ち着いてやればちゃんとできるのよー」
「うん、頑張る」
「「……」」
「リ、リリー? 一回落ち着くのよ!」
「トナカイ……私、挫けそう」
「卵を握りつぶすこと百数十回、手を滑らせて落とすこと十数回、やっと割れたと思ったら中からまさかのヒヨコが出てくること一回、まだ挫けるには早いのよ!」
「う、うん。私、頑張る!」
「リリーは人間の姿をしているけど、元々ドラゴンだから、卵を割るっていう繊細な力加減をするのが難しいのねぇ」
「そうみたい。でも、何となくコツがつかめて来た気がする!」
「うむ、それじゃ、やってみるのよ!」
「すぅ……はぁ……行きます! えいやっ!」
「「……」」
「「やったー!」」
「トナカイ! 私、やったよ! ついに、やり遂げたよ!」
「うむ、リリーはよく頑張ったのよ!」
「これで、私も料理が出来るように……あれ?」
「どしたんリリー?」
「これ、料理なの?」
「これは、卵を割るという、お料理のひと作業なのよー。ほんとはここから色々あるけど、今日はこのくらいにしておくのよ!」
「う、うん。料理への道は、険しいのね」
「そうねぇ。でも、少しずつ覚えたら、いつかお料理が作れるようになるのよー」
「私、頑張る!」
ちなみにリリーが砕いたり落とした卵は、トナカイがうまく殻と中身を分離して調理し、おいしい卵料理になった。




