トナカイと吊り橋
「すんごくながーい吊り橋ねぇ」
「うん、向こう側があんな遠くにあるね」
「そして、ボロボロなのよ!」
「うん、昔に作られたんだろうね」
「私がトナカイを抱えて飛んだ方が早いし安全だと思うけど、本当にこれ、渡るの?」
「うむ、せっかく吊り橋がかかっているのに渡らないのは、吊り橋に失礼なのよ!」
「そっか、意味がよく分からないけど、分かった。じゃぁ私は飛ばないから、万一落ちたらかっこよく助けてね?」
「善処するのよ!」
「「……」」
「まだまだ先は長いのよー」
「ねぇトナカイ、こんな話を知ってる?」
「聞いたことがないのよ!」
「まだ言ってないよ! あのね、人間って吊り橋を渡るとき、胸がドキドキするらしいんだけどね? 男女二人で渡ると、そのドキドキが相手を好きのドキドキと勘違いして、仲良しになるらしいよ?」
「そうなんねぇ」
「うん」
「「……」」
「えっ……リリー、その話、続きはないのん?」
「うん、ないよ?」
「そうなん……人間って、面白いのねぇ」
「そうだねー。トナカイって、ドキドキすることとか、あるの?」
「んー、トナカイ精霊だけど、テンションが上がったりすることがあるのよ!」
「んー? テンションが上がると、ドキドキしてる状態なの?」
「分からないけど、きっとそうなのよ! リリーはどうなん?」
「私もドキドキすることあるよ」
「そうなんねぇ。どんな時なん?」
「例えば……んー、トナカイがかっこよかった時とか……トナカイが死んじゃうんじゃないかって思った時とか……」
「そうなんねぇ。トナカイのことばっかりなのねぇ」
「えへへ……言われてみると、確かにそうだね」
「みんな、ドキドキするものなのねぇ」
「「……」」
「半分くらい渡ったね」
「うむ、かんなり揺れてるのよー」
「これ、嫌な予感しかしないね」
「そうねぇ」
「「あっ……」」
「じゃ、トナカイよろしくねぇぇ……」
「リリーがほんとに飛ぶ気配を見せないのよぉぉ……」
「あーれー、トナカイたすけてー」
「よりによって丁度真ん中で壊れなくてもいいと思うのよ! まずはリリー確保なの、よーいしょーっ!」
「こ、これは噂のお姫様抱っこ……なんだか、いいかも」
「リリーがなんだかうっとりしてるのよ!? なーんて言ってる間にもどんどん落ちてるのよ!」
「リリーを抱きかかえながら谷底へと落ちていくトナカイ、これから一体どうなるのかっ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないのよぉ! えーっと、ここはトナカイ愛用の棒の出番なのよ! 伸びるのよっ!」
「おぉっ、棒がすごい速さで伸びた! でも、なんで横に伸ばしたの?」
「来た側に棒を伸ばしたら、進んでた側にたどり着けるのよ! 多分!」
「なるほど……と、トナカイ? 少し、高さが足りなさそうだけど」
「えっ? おふぅっ!?」
「トナカイー!?」
「いやー、大変だったのよぉ」
「まさか壁というか斜面をえぐりながら昇っていくとは思わなかったね」
「うむ、リリー大丈夫だったん?」
「うん、トナカイが抱きしめて守ってくれたから、怪我ひとつなかったよ」
「それはよかったのよー」
「トナカイに守られるって、いいね……また、助けてね!」
「善処するのよ!」
このとき以来、トナカイたちが吊り橋を渡るたびに、必ず橋の途中で紐が切れ、落ちるようになったという。




