リリーと宝剣
「ねぇ、トナカイ?」
「どしたんリリー?」
「じ、実は……」
「……その手に持ってるのは、何なん」
「うん、まずは話を聞いてほしい」
「わかったのよー。それじゃ、回想スタートなのよ!」
「いや、回想を入れるほどじゃないんだけど……まぁいっか」
「ん? 何か落ちてる」
「綺麗な剣ね。キラキラしてる」
「……私はトナカイじゃないから、これをうっかり拾って厄介なことに巻き込まれるとか、そんな展開にはならないよ!」
「さっさとこの場から離れよう」
「そこのお嬢さん」
「ん? 私?」
「貴女しかいませんよ。落し物ですよ?」
「えっ!? こ、これ私のじゃ「それでは、私はこれで!」……行っちゃった」
「はい、回想おわりー」
「……ね?」
「うむ、今回は仕方がないと思うのよー」
「でね、この宝剣も例のごとく幽霊が憑いていて……」
「わかったのよ! とりあえず宝剣をへし折ったらええのん?」
「いや、そうじゃなくて、この幽霊のお願いを聞いてあげようかなって」
「ふむ? そうなん?」
「うん」
「わかったのよ! 早速準備するのよー!」
「えっ……トナカイ、この幽霊のお願いがわかったの?」
「そういえば聞いてなかったのよ! うっかりしてたのよー」
「もうっ、トナカイはトナカイなんだから……」
「この幽霊、生前は貴族のお嬢様で、ずっと外の世界に憧れてたんだって」
「そうなのねぇ。それじゃ、色んな所に行ってみるのよー」
「というわけで、ダンジョンに来たのよー」
「この幽霊、死んでるはずなのに生き生きとした目をしてるよ?」
「よっぽど嬉しいのねぇ、それじゃ、進むのよー!」
「おー!」
「早速魔物が出たのよー」
「せっかくだからこの宝剣を使って……えっ?『魔物と戦う用途で宝剣を使って欲しくない』って? ワガママ!」
「多分その剣、ただの飾りなのよー」
「まぁいいけど……持ちっぱなしで戦うの、やり辛いなぁ」
「リリーなら片手が封じられていても、余裕だとおもうのよ!」
「そりゃそうだけど……しょうがないなぁ。えいっ」
「さすがリリー、魔物が一瞬で消し飛んだのよ」
「えへへ、それほどでも……何? 『魔物が怖いからダンジョン探索はもういい』だって……」
「そうなん? それじゃ、さっさと帰るのよー」
「次は、割と大きめの街散策なのよー」
「この幽霊、屋敷から一歩も外に出たことがなかったんだって」
「そうなんねぇ。今日は色々見て回るのよー」
「まずは、食べ物かなぁ」
「うむ、街といえば、おいしい食べ物探しなのよー」
「トナカイ、この串おいしいよ!」
「そうなん? あーん、もぐもぐ……うむ、おいしいのよ! このおまんじゅうもおいしいのよ! はいリリーどうぞー」
「あーん、はむっ…… ほんとだ! えっ?『私も食べたい』だって。幽霊って、食事できるの?」
「できないと思うのよ」
「だって。残念だけど……ちょっと! 勝手に私の体に乗り移ろうとしないで……うまくいきましたっ!」
「!? リリーの様子がかわったのよ! とりあえず悪霊退散なのよー」
「いやぁぁ! 何この光、消えちゃう! 待ってくださいご飯を食べたらすぐ離れますからぁ!」
「しょうがないのよぉ……はい、どうぞー」
「さっきみたいにあーんは、してくれないんですね……いただきます。おぉっ、美味しいですっ!」
「よかったねぇ。それじゃリリーから離れてねー、よいしょっと」
「えっ? きゃぁぁ! 無理やり引きはがされ……もうっ! 次やったら宝剣ごと消し飛ばすからね?」
「リリーが元に戻ったのよ」
「トナカイありがとう。 ちょっと油断してた」
「うっかリリーなのよー」
「次は、山の上にきたのよー」
「まだ暗いね」
「夜明け前なのよー。ここから見える景色は、一度は見ておいたほうがいいのよ!」
「そうだね……あっ、夜が明ける」
「「……」」
「……いつみても、素晴らしい景色なのよぉ」
「……うん。あっ、幽霊が」
「満足して消えていったのねぇ」
「そうみたい。『素晴らしい体験ができました。二人ともありがとう』だって」
「よかったのよー。それじゃ、そろそろ出発するのよ!」
「うん!」
ある高い山の頂上に、一振りの宝剣が墓標のように突き立ててある、という噂が流れた。
その宝剣は不思議な力で守られ、抜くことも壊すこともできなかったそうな。




