トナカイと封印
「トナカイ、何してるの?」
「リリー、いいところに来たのよ! ちょっと手伝ってほしいのよ!」
「うん? いいけど、どうしたの?」
「じつはねー、今トナカイが支えてる木なんけど、色々あって封印が解けちゃったのよー」
「なんで木を抱きしめてるのかと思ったら……トナカイ、何でもかんでも解いちゃ、だめなんだよ?」
「違うのよ! 今回はトナカイが原因じゃないのよ!」
「そうなの?」
「うむ。少し長くなるけど、ここまでの出来事を聞いてほしいのよー」
「わかった」
「それじゃ、回想スタートなのよ!」
「今日もいい天気なのよー。こんな日は木陰でのんびり過ごすといいのよー」
「あ、あんな所にぽつーんと一本、大きな木が生えてるねぇ。 あの下でのんびり過ごすのよー」
「……この木、すごい魔力を帯びているのよ! これは何となく、触ったらアカンことになる気がするのよ!」
「トナカイはうっかりさんってリリーによく言われるけど、日々成長してるのよ! 今日はしっかりさんトナカイなのよ!」
「少し離れた所に寝転がったら、間違っても触っちゃうことはないのよー。よいしょっと……いい感じの木陰なのよ」
「今日もいいことありそうなのよぉ……!? 何かとんできたのよ!」
「これは……矢なのよ。 どこから飛んできたんかなぁ?」
「それにしても綺麗に刺さってるのよー。このままだと木がちょっと可哀想だから、抜いておいてあげるのよー。よいしょっと! ……あっ」
「はい、回想おわりー」
「その矢って、もしかしてそこに転がってるやつ?」
「うむ、刺さってたときの角度からすると、多分あっちの方向から飛んできたのよー」
「ごめんトナカイ、それ多分私が撃ったやつ」
「……えっ?」
「「……」」
「あの、ね? 離れた所に置いてあるリンゴを射抜いたら金貨一枚っていうのに挑戦したんだけど、矢の勢いが強すぎて、リンゴどころか裏に立ててあった鉄板まで貫いて飛んで行っちゃって……」
「リリー、危ないから何でも全力でやっちゃ、だめなのよ?」
「うん、反省してる」
「血とかは付いてないから、不幸な人はいなかったと思うのよ。良かったねぇ」
「うん、犠牲者が一人も出なくて良かった」
「いや、ここに矢の犠牲者がいるのよ! 矢を引っこ抜くときにうっかり木を触っちゃって、例のごとく封印が解けちゃったのよ!」
「それ、私の矢というより、トナカイのうっかりな気がするけど……」
「「……」」
「さて、リリーに手伝ってもらいたいのは、この木の封印を元に戻すことなのよ!」
「さらっと流したね」
「トナカイがこの木に封印されてたアカンやつを今抑えてるから、ちゃちゃっとやっちゃってほしいのよ!」
「えっ……? やっちゃったらいいの?」
「うむ、やっちゃっていいのよ!」
「わかった!」
「それじゃお願いするのよー」
「その封印されてるのって、トナカイが抱きしめてる辺りにいるの?」
「うむ? そうなのよ!」
「せいっ!」
「ちょっ! リリー? 何で消しとばしたん!?」
「えっ、トナカイがやっちゃってーって言ったから……」
「最初に封印を元に戻すって言ったのよぉぉ!」
「だって……その後すぐに、やっちゃってーって言うから、私もおかしいなーって思って確認したのに……」
「あのやっちゃうって、消し飛ばすって意味で言ってたのねぇ……言葉で伝えるって、難しいのよぉ」
「うん、難しいね」
「アカンやつは、さっきの一撃で綺麗に消し飛んだみたいなのよ」
「結果オーライってやつだね」
その日、無残な姿になった大木から、光が天に昇っていく光景が多数目撃された。
自ら大木となり、邪神を封印した勇者が役目を終えて、天に還っていったのだと、一時期噂になった。