リリーと湖
「トナカイ、聞いてほしい」
「どしたんリリー? なんだか疲れた顔をしてるのよ?」
「うん、とーっても疲れた」
「お疲れなのねぇ。で、どしたん?」
「話すと長くなるんだけど」
「じゃあ、今度聞くのよ!」
「えっ……今は聞いてくれないの?」
「冗談なのよ! ゆっくり話すといいのよー」
「もうっ! 後でもふもふ一時間してもらうからねっ! ……さっきまで湖で魚獲りしてたんだけど」
「ふむ、そういえば近くに湖あったねぇ」
「途中までは順調に獲れてたんだけど、急に魚の気配がなくなってね」
「リリーに恐れをなしてみんな逃げちゃったのねぇ」
「違うもん! 魚獲りで気配を消すのは常識でしょ! もふもふもう一時間追加!」
「まぁまぁ、落ち着くのよー。それで?」
「うん……それでね、おかしいなーって思って、湖の中に潜ってみたら……」
「みたら……?」
「とっても大きい、タコが、いたの」
「湖に、タコがおったん?」
「うん、タコだった。さすがの私も、水の中で襲われたら危ないと思って、必死に泳いだんだけど……足を掴まれちゃって」
「それは危ないのよ!」
「水の中だと大した力も出せないし、タコの足がどんどん絡まってくるしで、大変だったの」
「そうなんねぇ、大変だったのねぇ」
「しかもそのタコ、私の服の中にまで足を伸ばそうとしてきたの」
「なんと! それはちょっと、恥ずかしいねぇ」
「うん。だから、私も必死で……」
「必死で?」
「つい元の姿に戻って、全力のブレスを……」
「……えっ?」
「だから、ドラゴンに戻って、全力のブレスを、吐いたの」
「「……」」
「リリーのドラゴン姿って、とっても大きいやん?」
「うん」
「んで、とっても強いと思うんよね」
「そ、そうかなぁ……えへへ」
「そんなリリーが、ドラゴン姿で、全力のブレスを、吐いたのよね?」
「私も必死だったから、つい……あっ、でもちゃんと角度は考えたよ!」
「……とりあえず、現場を見に行くのよ!」
「「……」」
「トナカイの知ってる湖って、たしかお水で満たされてたと思うのよ」
「湖って、そういうものだよね」
「お水、ないのよっ!? 完全にただ窪んでるだけの場所になってるのよ!」
「て、てへっ」
「ここはトナカイが一肌脱ぐしかないのよ!」
「トナカイがすごく頼もしい!」
「こんなときはー、これなのよ!」
「綺麗な石だね。ちょっと光ってる?」
「うむ、これは、お水を出す石なのよ!」
「おー、すごいね!」
「これにありったけの魔力をこめてー、湖だったところにぽいっ!」
「おー! すごい勢いで水が噴き出してる!」
「むふー、さすがトナカイ、素晴らしいアイデアだったのよ!」
「私が新たにあけちゃった穴も、もうすぐ水で満たされるね」
「うむ、けっこう深かったのに、もう一杯なのねぇ」
「「……」」
「と、トナカイ? この水って、湖がいっぱいになったら止まるんだよね?」
「そんな都合よく止まるわけないのよ! 魔力を込めた分だけお水が出るのよー」
「「……」」
「リリー、ブレス追加なのよ!」
「何やってるのトナカイぃぃ!!」
その日、すさまじい音と振動が、何度も周囲の町を襲った。
住民は魔王の再来ではないかと、戦慄したそうな。