リリーと石
「ねぇ、トナカイ」
「どしたんリリー? 次は何を引っこ抜いたん?」
「ち、違うもん! 今回は引っこ抜いたんじゃないもん!」
「……その手に持ってるものは、何なのよ?」
「こ、これは……説明すると長くなるから、ね?」
「ね? って可愛く言ってもダメなのよ! 心配しなくても時間はたっぷりあるのよ!」
「わかった……さっきね、街中を歩いていたら急に話しかけれられて、可愛い君にはこれを差し上げようって」
「ふむー? その石キラキラして綺麗だけど、なんか怪しいのよ?」
「そうなの?」
「うむ、中に魔力が込められているのよー。 どれどれー?」
「……どう?」
「うむ、やっぱりこれはアカンやつなのよ。えーっとねー、色んな制限を持ち主に与える機能と、位置情報の発信機能がついてるのよ」
「色んな制限って?」
「思考、魔力、腕力、聴力、視力、発声……なんせいっぱい制限されるみたいなのよ」
「こわっ!? 犯罪な匂いしかしない!」
「うむ、ちなみに時限式みたいなのよー。丁度夜辺りに発動すると思うのよ。はい、返すのよー」
「いらない! そんな物騒な機能がついてる石、返されても困るよトナカイ!」
「確かにそうなのよ! 知らない人からものをもらうときは、気を付けないといけないのよー?」
「うん……気を付ける」
「ところでリリー?」
「どうしたの?」
「説明、すんごく短かったのよ!」
「……てへっ」
「可愛く言ってもこの場は切り抜けられないのよ! 世の中厳しいのよ!」
「ククッ……そろそろあの石が効果を発揮する頃だな、回収にいくとしよう。今回の獲物は高く売れそうだ」
「ん? 反応が町の外だな……野宿でもしているのか? 同行者が複数いる恐れがあるな。まぁいい、何とでもなる」
「……同行者は一人か。まずは邪魔者を消すとしよう」
「妙な見た目だったが、邪魔者は排除した。あとは獲物を回収するだけ……なんだ!? うわあぁぁ!!」
「このにいちゃん、問答無用でトナカイの頭にナイフを刺してきたのよ。びっくりしたのよ!」
「……」
「とりあえず眠らせておいたけど……ん? どしたんリリー?」
「……」
「あっ、そういえば囮作戦で、石をそのまま持たせていたのよ! 忘れてたのよ!」
「……」
「もうこの石は用済みなのよ。ほいっと!」
「……トナカイ、忘れるなんてひどいと思う」
「すまなかったのよ! うっかりしてたのよ!」
「もう……そ、それよりトナカイ、少し体が、おかしいん、だけど」
「そうなん? あっ、そういえば」
「嫌な予感しかしない」
「さっき壊した石、ちょっとイヤーンな気持ちになる機能も付いてたのよ」
「先に言ってよトナカイィィ!」
リリーに石を渡してきた人さらいは、手近な木にきつく縛り付けて放っておいた。