トナカイの変身
「リリー、ちょっと困ったことになったのよー」
「どうしたのトナカ……誰!?」
「トナカイで合ってるのよー」
「トナカイにしては、見た目があまりにも違いすぎるけど……私の直感とか、第六感とか、虫の知らせがトナカイだって言ってる!」
「最後のんは、何となく違う気がするのよ? それより、何が起こったのか話すと長くなるんけど、聞いてほしいのよ!」
「わかった!」
「それじゃ、回想スタートなのよ!」
「今日もいい天気ねぇ……こんな日は何かいいことが起こる気がするのよぉ……おっ、あんなところに小瓶が落ちてるのよ!」
「……中に何か強い魔力が封じられている気がするのよー。試しに開けてみるのよ!」
「あっ……これ、あかんやつなのよっ! 明らかに邪悪そうなものが出てきたのよ!?」
「我の封印を解いたのは貴様か。喜べ! 貴様の体を乗っ取って使ってやろう!」
「それはちょっと、困るの、よぉぉ……」
「はい、回想おわりー」
「……」
「あれ、リリー? どしたーん?」
「トナカイ、不用意に落ちてるものを拾って開けたりしたら、だめなんだよ?」
「反省してるのよぉ……んで、小瓶から出てきたのんはやっつけといたんけど、半端に乗っ取られたせいで、体の形が変わっちゃったのよ!」
「邪悪そうなのは倒したんだ」
「うむ、そんなに強くはなかったのよー」
「うーん……見た感じ、元の姿より凛々しいよね」
「えっ……そうなん?」
「うん、元の姿は『ぽやーん』って感じで、今の姿は『キリッ』って感じ」
「んー……あんまりよく分からないのよ!」
「どうやったら伝わるんだろう……あ、そうだ!」
「どしたんリリー?」
「私が変身して見せたらいいんだ! ちょっと待ってね」
「わかったのよ!」
「んー、んんーーっ!」
「おおっ、リリーの体が光に包まれて……変わったのよ!」
「これが今のトナカイの姿だよ!」
「なるほど、確かに『キリッ』って感じなのよ!」
「そして、こっちがー」
「なんと! 一瞬で変身したのよ!」
「トナカイの姿は見慣れてるから」
「そうなのねぇ。確かに見た感じ『ぽやーん』ってしてるのよぉ……」
「私は元の姿のトナカイ、好きだよ?」
「むふー、そう言われると、ちょっと照れるのよ!」
「んー、それにしても、どうしたら元の姿に戻るんだろうね?」
「全く見当もつかないのよ!」
「そういえば……姿を変えられてしまった王子様に、お姫様がキスをすると、元の姿に戻ったっていう話を聞いたことがあるよ」
「そうなん?」
「うん、少し前に寄った町の広場で、大人が子供に教えてたの」
「姿を変えられてしまった時の対処を教えてたんかなぁ?」
「「……」」
「じゃ、じゃあ……いくよ?」
「う、うむ! よろしくお願いするのよ!」
「んーっ……」
「「……」」
「あの、リリー? トナカイに何の変化もなさそうなのよ?」
「うーん、戻ってないね。やっぱり、ほっぺじゃダメなのかな? じゃぁ、次は……」
「り、リリー? やっぱり別の方法を考えたほうが「んーっ……」!?」
「「……」」
「……元にもどってないね」
「う、うむ。しばらく様子を見るの「もしかして……もっとすごいことをしないと、元に戻らないんじゃ……」落ち付くのよリリー!?」
なんとかリリーをなだめたトナカイであった。
ちなみに、次の日には元の姿に戻っていた。