トナカイにお小遣いをあげたら
冒険者となって世界を旅するドラゴン娘リリーと、森の精霊トナカイ。
面白いものや新たな発見を求めて、今日も旅を続けるのであった。
「リリー、今日はいっぱいお魚がとれたから、お昼はお魚料理なのよ!」
「おー凄いね。でも、この近くに川とか海なんてないよね? どこでとってきたの?」
「あそこなのよ!」
「あ、あれは……!?」
『鮮魚店くじら』
「「……」」
「トナカイ、あれって……」
「なんと……お金を渡すだけで、いっぱいお魚がいる場所に連れて行ってくれるのよ! しかも、お金をいっぱい渡したら、その分いっぱいお魚をとってもいいのよ!」
「……もしかして、そのお魚って、氷の上で寝てなかった?」
「さすがリリー、物知りなのよ! 普通お魚って、川とか海の中を泳いでるのに、そこのお魚は氷の上で寝てたのよ!」
「なんでこんな平地に一件だけ鮮魚店が……ちなみに、どのくらいのお金を渡したの?」
「トナカイのお小遣い全部よ!」
「ぜん……ぶ? トナカイのお小遣いって、この前冒険者ギルドからもらった、魔物討伐報酬の一割くらい渡したやつだよね?」
「そうなのよ!」
「あれ、結構な額だったけど、全部渡しちゃったの?」
「うむ!」
「……トナカイ、私ちょっと用事を思い出したから、料理を作りながら待っててね。買っ……とってきたお魚って、その籠に入っている分で全部だよね?」
「そうなのよー。これだけあれば色んなお料理が作れるのよ!」
「そ、そうだね。私、道中でもお魚食べたいから、出来るだけ保存がきくものも作ってほしいな」
「わかったのよ! トナカイの腕の見せ所なのよ! おいしくて腐りにくい料理を頑張って作るのよ!」
「……はぁ、なんとか払い過ぎた分のお金を取り戻せた。トナカイに渡すお小遣い、少し減らそうかな」
「リリー、お帰りなのよ。お魚料理、いっぱいできたのよ!」
「ただいま。さすがトナカイ、どれもおいしそうね」
「こっちがおさしみでー、こっちが煮つけでー、こっちが燻製でー、こっちが創作料理なのよー」
「当分お魚には困らないね……この創作料理、なんだか動いてない?」
「むふふ……動くだけじゃないのよ!」
「我を食したくば、汝の力を示すが良い」
「……この創作料理、なぜか偉そうことを言ってるんだけど」
「味は保証するのよ!」
「いや、味じゃなくて……」
「リリー? この世は弱肉強食だって、じいちゃんも言っていたのよ?」
「弱肉強食って、そういう意味じゃ「来ないのであれば、こちらからゆくぞ!」あぁぁもう! 食べ物は黙ってて!」
「ちなみに、おいしさに比例して強くなっているのよ!」
「くっ!? 料理のくせに意外と強い! ……トナカイ、もしかしなくても創造の力で作ったのね! 厄介なものを……」
「心配しなくても、料理の味に関しては力を使ってないのよ! 無事に食べることができたら、いつもより長くもふもふしてあげるのよー」
「!? ……本気を出さざるを得ない! けしとべぇぇい!」
「ふっ……考えが浅いな。我を消しとばしては、食すことなどできぬぞ!」
「ぐっ……トナカイ、この料理なんか癪に触る!」
「性格は多分、食材のものなのよー。トナカイ、ノータッチなのよー」
「もぉぉ! もふもふをいつもの二倍要求してやるー!」
ちなみにこの後、無事に料理を倒し食べることができたリリーは、一日中トナカイをもふもふした。