07.初戦闘
その森は俺が思っていた以上に広く、深かった。
だから薬草集めだけに来ていた俺は森に浅すぎず深すぎずのところで薬草取りに奮闘していた。
もともとは浅いところで集めるはずだったのだが、取りつくされていたのか薬草を見つけることが出来なかったのだ。
そのため俺は今日中に寝ることを諦めて薬草をたくさん集めることにした。
「でも思ったより薬草があってよかった。これなら2、3日は持ちそうだ」
<そうですね。これなら——主、敵襲です>
「敵襲?誰かが俺たちを襲いに来たのか?」
<いえ、相手は魔物の様です。場所は115度左>
「...あれか。見た目は完全に子熊だな。《情報視認》」
名前:ハンターベア
種族:野獣種
年齢:49
LV:21
状態異常:
基本スキル:《爪術LV.4》
ユニークスキル:《威圧》
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HP:861/861
MP:298/298
攻撃力:146
守備力:53
素早さ:84
魔法力:16
運:23
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「無理、子供じゃない上にレベル差とか戦闘力とかひっくるめても勝ち目がゼロなんだけど」
<主、残念ですが《威圧》は相手を使用者の半径50メートル以内から逃走を不可能にします。そしてこの熊は自身の住処であるここから移動することは無いでしょう>
「つまり俺は死ぬと。最悪だな」
<いえ、攻撃を受けずに1時間で仕留められるのなら《喰らう者》で攻撃力と素早さを強化するのがいいかと>
正直その通りだと思う。
今のままでは攻撃は通らないし早さでも負ける。
だが一気にHPを削ってしまうことを考えると思い切ったHPの消費ができなかった。
<では主、攻撃力に30、素早さに10消費することをお勧めします>
「...分かった、それで行こう」
俺は初めに攻撃力にHPを30消費する。
一気にHPが減ったのと同時に胸が締め付けられるように苦しくなり、思わず片膝をついてしまう。
それが合図かのようにハンターベアが突っ込んでくる。
俺は一瞬で素早さを強化し、地面を蹴って横に移動してハンターベアの突進を避けた。
ハンターベアは勢いを殺しきることが出来ずにそのまま木に突っ込んでいった。
「あっぶねー。さすがに今のはヒヤッとした」
<幸運でしたね、相手が突っ込んできて>
「本当だな。もしかして運とは関係がないのかもな」
<魔物にも意思がありますので知能の問題でしょう>
ハンターベアがこちらに体を向けなおす。
だが俺ももう力の反動は薄い。十分に体制を立て直していた。
ハンターベアがまたこちらに突っ込んでくる。
俺が避けようとするとハンターベアは途中で突っ込むのをやめて右の爪を振りかぶってきた。
こいつの学習機能に感心しつつ俺は姿勢を低くしてそのまま避けずにハンターベアに向かって飛ぶ。
ハンターベアの爪は俺の頭ぎりぎりを通り過ぎていき、対して俺の拳はハンターベアの腹に直撃した。
ハンターベアは拳の勢いそのままに飛んでいき背後の木にぶつかった。
<主、現在のハンターベアのHPは457。3発あれば倒すことが出来ます>
「何、付属品さんはなんでも出来るの」
<いいえ、可能なのは主のスキルの使用のみです>
「それで十分だ」
ハンターベアのもとへ一気に走る。
それに気づいたハンターベアは体制を立て直そうとするが急激なHPの減少でまだ立てずにいた。
爪を振りかぶるハンターベアの必死の抵抗もむなしく、俺はこいつの腹と顔面を1発ずつ殴り、もう1発顔面に入れようとしたところで《喰らう者》の効果が切れる。
慌てて防御しようとしたが、付属品さんの言葉でハンターベアが死んだことを理解した。
「こいつ、持ち帰った方がいいかな」
<はい、ハンターベアならギルドで十分な額がもらえるかと>
「でも生物の死体《異次元空間》に入るのか?」
<死体であれば可能です>
「そうか、じゃあこいつの死体はって重量的、容量的に無理だな」
<レベルアップで攻撃力と魔法力が上がっていますので可能です>
俺はステータスを確認した。
HP:50/1100
MP:56/1100
攻撃力:110
守備力:110
素早さ:110
魔法力:110
運:110
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「なんかハンターベアと同じ、いやそれ以上に強くなってるんだけど」
<ちなみに主のレベルは11です>
「明らかにそれ以上だよ。レベル21のハンターベアよりステータスが高いって」
<主の七不思議ですね>
「俺は学校か何かか。とりあえずさっさと引き上げるぞ。流石に夜が明けてからは寝たくない」
俺はハンターベアの死体を《異次元空間》にしまってギルドに歩いて行った。
俺がギルドに戻ると最初に話しかけてくれた男は30杯目のジョッキに手を付けていた。いったい何杯飲む気だろう。
「おう兄ちゃん、薬草集めは終わったのかい」
「ええ、十分に集めてきましたよ」
「そうか、だったらさっさと受付済ませてこい!」
俺は男の言った通りに受付に向かう。
そこにはやはり先ほどの女性が俺に鋭い視線を向けていた。
だが俺はそれにひるむことなく話しかける。
「すみません、依頼の薬草の納品をお願いします」
「はい、では薬草をここに」
俺は言われたとおりに薬草を《異次元空間》からカウンターに置いた。
その数はだいたい10枚。
<12枚です>
女性はそれを受け取ると枚数を数え、一枚につき銅貨2枚を支払った。
「それと依頼じゃないんですけど魔物の納品もお願いします」
「ではそちらもここに」
「あ、納品したい魔物がちょっと大きくてカウンターじゃ乗らないんですけど」
「ならそこにお願いします」
俺はハンターベアを取り出して足元に置いた。小ぶりであるため回りに迷惑をかけることはない。
先ほどまでここで飲んでいた人たちは驚いたようにハンターベアを見た。
受付の女性もそれを少し見た後、こちらに目を向ける。
「これはいったいどこで?」
「街のすぐ近くの森で薬草を集めている途中で襲われたので」
「...すみませんが薬草をどこで集めるか知っていますか?」
「それって森の中じゃないんですか」
「違います。薬草は森と反対側の草原で取ってくるのが普通です。あの森は『魔物の森』と言って中級冒険者向けの場所です」
それってマジですか。でも付属品さんはそんなこと言ってなかったけど。
<そうなのですか>
付属品さんも知らなかったんですね。ギルドについては詳しく教えてくれたのに。
<私が知っているのは《喰らう者》、主のスキル、1度訪れた街についてのみです>
そうですか。
「そうだったんですか。それでハンターベアは買い取っていただけるんでしょうか」
「...可能ですが、お金についてはすぐには用意できません。ハンターベアの状態などで額が変わってきますので」
「分かりました。ではまた後でここに来ます」
薬草の代金だけ受け取って俺は冒険者ギルドを出た。
空を見ると先ほどより少し明るくなってきている気がする。早めに宿で寝てしまおう。
宿屋に来た俺は宿のマスターに一泊分の銅貨10枚を渡してさっさと寝た。