03.喰らう者
「悪いな、倉場。それと兵士さん、ここまでの案内、ありがとうございました」
俺はベッドから起き上がると二人に一礼した
「いやいや、こんなの国に仕えるものとしては当然だよ。それに国王から君たちには最大限の協力をしてやれって言われていたしね」
「あんた、いいやつだな。安心しろ、俺たちが魔王を倒して平和な国にしてやるからよ」
「...そうだね、君たちには期待しているよ。この国の国民として」
そういった後、兵士さんは「お大事に」といって部屋を出て行った。
「それにしても柳、お前本当に大丈夫か?」
「ああ、まだ本調子とはいかないけど、さっきと比べたらもう十分回復した」
「そうか、ならいい。完全によくなったらお前もさっさと来いよ。さっき王女様がこの後すぐ訓練だって言ってたからな」
「了解だ。だからお前はさっさといってこい!」
「おう」
そうして倉場も部屋を出ていく。
それにしても、王女様か。あいつはいったい何者なんだ。
あの時俺はあいつの顔を見た瞬間、仮面をかぶった悪魔に見えた。その目が俺に向いているようにも。
だが少なくともそれは同じ異世界人である奴らにはそう見えていない。
じゃあおかしいのは俺なのだろうか。
「《情報公開》」
俺は無意識のうちにステータス画面を開いていた。
もしかしたら何らかの状態異常のせいにしたかったのかもしれない。逆に俺が普通だと思いたかったのかもしれない。
だがそのステータスは俺の望みをことごとく壊していった。
名前:柳 真一
種族:人
年齢:15
LV:1
状態異常:
基本スキル:《剣士LV.1》
ユニークスキル:《情報確認》《情報公開》《錯覚才能》
エクストラスキル:《才能創造》
1ページ目/3ページ ▷
俺はこのステータスの違和感に気が付いた。
もちろん、状態異常がないことではない。
「なんで、3ページに。いや、何故3ページ目が存在する!?」
それはまるで自分が異常であるとステータス自身が語りかけてきているようだった。
俺は恐る恐る次のページへ切り替える。そこには間違いなく先ほどのステータスが存在した。
HP:100/100
MP:100/100
攻撃力:10
守備力:10
素早さ:10
魔法力:10
運:10
◁ 2ページ目/3ページ ▷
...おそらく次のページには俺が普通ならあり得ない何かが書かれているのだろう。
そう考えただけでも俺の手は次のページへ進めることを拒む。
どれ位経っただろうか。
不意に俺の耳元で誰かがささやく。
<怖いのですか?異常の世界を見るのが>
怖い?そうか、俺は今恐怖しているのか。
「ああ、怖い。これを開いてしまったら俺が正気でいられる自信がないし、クラスの奴らがこれを知ったらって思うと今すぐにでも見なかったことにしたい」
<今ならまだ無かったことにできます。それを望むというのなら一言『破棄』と言ってください>
「そうだな、でも俺にはきっとそれを見る責任があるんだと思う」
<分かりました。ではその手で次のページを、異常の者にしか見ることを許されない世界を御覧なさい>
その手は流れるように動いて、禁断の世界へのボタンを押す。
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死後の世界。
そんな言葉が当てはまりそうな空間に俺は立っていた。
否、そこに立っているのは俺の意識であってそこに肉体と呼ばれるものは存在しない。
耳がないから声も聞こえず、口がないからしゃべることもできず、鼻がなければ匂いもせず、体がなければすべてを感じず、目がなければ見ることも認められず、脳がなければかんがえることすらゆるさ考えることすら許されない。
なのにそこには何かがいる。何かがこちらに語り掛けてくる。
男とも女とも若人とも老人とも人とも怪物とも分からぬ何かがこちらを見ている。
<汝に問う、汝、幸せを望むか>
...ああ、望む。当然だ。
<たとえ何を犠牲にしてもか>
そうだ。俺の幸せを拒むものはすべて。
<それが汝を不幸たらしめるとしてもか>
構わない。俺は俺自身の望む結果を見つける。
<よかろう。ならば汝に力をやろう。汝が死を拒まぬその時まで>
<我が呪いを喰らうがいい>
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気づくと俺はベッドで横になっていた。
やはり先ほどのは夢で俺は二人が帰った後すぐ寝てしまったのだろうか。
それにしては頭が痛い。我慢できない程ではないが先ほどまで寝ていたというには無理がある。
「...そうだ、ステータス」
俺は「《情報確認》」とつぶやいてステータスを確認した。
そこには間違いなく3ページ目が存在していた。
「......っ、現実、かよ」
痛みはあるが今ここで3ページ目を確認しないわけにはいかないだろう。
俺はできるだけ慎重に2ページ目から次のページのボタンを押す。
【《喰らう者》
我喰らいし時、汝力を得る。
汝求めし時、我馳せ参じる。
汝、我失いし時、我汝を喰らう。】
◁ 3ページ目/3ページ
...読めない。いや読めるけど、意味が分からない。
俺はステータスを閉じて大人しく眠ることにした。
頭が痛いせいで眠れる気は全くしないけど。
<主、起きてください>
また誰かが呼んでいる。全く、今日は忙しいったらありゃしない。
「誰、というか何者だよ」
<口で返答する必要はありません。頭で思ってくれれば>
「その頭が痛くてできないときは?」
<声で返答してください>
ダメじゃん、それ。
<私は主が受け取った力の付属品だと思ってくれればそれで構いません>
「そうですか。それで?」
<今の主の頭の痛みは受け取った力と主が適合途中である証拠です>
「だから?じゃあお休み」
<今の主ならその頭の痛みぐらい消せると思うのですけど>
「...つまり?」
<主、痛覚遮断系の魔法を作ってください>
...今なんて?
<主、痛覚遮断系の魔法を作ってください>
「いやいやそうじゃなくて。なんで魔法作れるって知ってんの」
<見ました>
「は?だって今あれは隠蔽中で」
<見ました>
「いやだってそしたらスキル発動してないと>
<見ました>
「...ソウデスカ」
なんかもう見ましたから変わらないしさっさと鎮痛剤?作ってしまおう。
>非戦闘スキル>身体強化スキル>スキル名:触覚麻痺
【ユニークスキル《触覚麻痺》を入手しました。
細胞から触覚として伝わる情報の量を限定します。
情報の遮断量は任意で変更することが可能です。】
さっそく《触覚麻痺》を使用する。
遮断量は50%で試してみる。
すると先ほどまで結構な痛みだったはずの頭痛が打って変わって、我慢というのも恥ずかしいほどに頭痛が引いていった.
「このユニークスキル、かなりすごい。何が凄いって痛みがほとんどない」
<主、落ち着いてください。どーどー、どーどー>
まるで俺を興奮している動物みたいになだめる付属品さん。
でも周りからしてみればベッドの上で俺が一人ごとをつぶやいてるんだからどっちにしてもシュールだな。
俺が落ち着くと付属品さんは一呼吸置いた。
<主、お願いがあります>
「!?な、なに」
付属品さんの深刻そうな声に俺は驚きながらも大人しく耳を傾ける。
<今すぐここを出て行ってください>
「......は?」
俺はその言葉を理解することが出来なかった。