どうせ、キスして終わりなんでしょう? 知っているんだから
世の中の恋人って、どうやっていちゃいちゃしているんだろう。
唐沢くんは鈍感だ。
今日も結局、手をつないでいたのは短い時間だけ。人の少ない公園で、ためらいがちに。
唐沢くんは満足げにしてたけど、私は全然物足りないままだ。
あーあ。
唐沢くんはきっと童貞だと思う。私も経験なんてないけど。
「一度行ってみない? 天ぷらそばがおいしいんだよ。鳥のから揚げとキノコがのってておいしいんだ」
並んで歩く唐沢くんが、楽しそうに、知らない店の紹介をしてくれる。
行きたくない。わたしはキノコの天ぷらが苦手だ。
「うん。いいよ、今度行こう」
そう言うと、唐沢くんは嬉しそうにする。
くそ。
手をつないでほしければ、私から言えばいいだけ。きのこが嫌いなら、私から断ればいいだけ。
唐沢くんが悪くないのは分かってる。
なのに、私の胸の奥で、なにかがチリチリと、隣で歩く彼を許さない。
「あー、でも、やっぱりデートでそばって、おかしいかな?」
おかしいよ。
あまり言いたくはないが、今日のお昼はサイゼだった。
……私も好きだから、文句はないんだけどね。
「別におかしくないんじゃない? 私、そういうの気にしないし」
気にしないのは本当。
ファック。
私がこんな女だから、唐沢くんもきっと、唐沢くんのままなのだろう。
私が大人の女で、デートに慣れていて、彼をリードできてれば。
もちろん、帰宅の道を振り向いてみても、そんな「もしも」は、どこにもない。
私はつい最近まで年齢=恋人いない歴だった小娘で、好物は漫画と航空機と揚げたブリトーだ。
ふと、すれ違うタクシーを見て、今日のデッドプールのオープニングシーンが浮かんだ。
唐沢くんは、私のために従兄を誘拐するだろうか?
たぶんしないだろう。
それでも、彼はやさしい。歩くときは車道側を歩いてくれるし、ご飯のときは(サイゼだけど)きちんとエスコートしてくれるし、今日のデッドプールだって、きっかけは私がデッドプールを見たいと言ったからだし。
それにつきあって、大して好きでもないマーブルの話に、延々つきあってくれたし。
ゲームの話にもつきあってくれたし……。
「唐沢くんはやさしいね」
「え。急にど……、どうして?」
あーあ。
唐沢くんの家に行きたいなあ。
このあとは、わたしの家に送ってもらって、それで唐沢くんとキスをして、別れる。
それで終わり。いつもそう。
何考えてんだろ。
デッドプールの映画のせいだ。今日はずっと、頭からあれが離れない。
あの、しつこいくらい長い、ベッドシーン。
「ねえ、お願いがあるんだけどさ」
「え、うん」
「やっぱり帰るのやめる。唐沢くんの家行きたい」
どうしてもこんな言い方になってしまう。
でも、夏のせいで、暑くて、どうしようもなく、気持ちが抑えられない。
「今日もどうせ、キスして終わりなんでしょう? 知っているんだから」
ごめんね。
わたしって、こんな可愛いげのない、言い方しかできないのよ。
唐沢君を上目で見つめると、彼はごくりと唾をのんで、ゆっくりと私を抱きしめた。
そして一言。
「ごめん、その……コンビニ、寄ってもいい、かな」
「お、え?」
「コンドーム持ってない……」
いいよ、と私は返した。
唐沢くんは本当にもう、まぬけ。
なのに、胸でチリチリとうずいていたものが、彼を許しているのを感じた。
私の体の芯に熱を帯びたなにかがあって、それは道端の虫たちと同じような音域で、夏の夜空に向けて喜びの声をあげていた。