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ほら、体力ゲージで相手を殴れるんだよ

 ぼくの彼女は字田さんという。ウダさんではない。アザタさんだ。

 とんでもなく可愛い。

 はっきり言って僕にはもったいない女性だと思う。

 丸顔で、丸鼻で、眼鏡で、たしかにひとつひとつの部分を見ていくと、世間で言うところの「美人」ではないといえるのかもしれない。

 でも、彼女の顔はとても愛嬌がある。いつもニコニコ笑顔というわけではないけれど、自分の感情にとても素直だ。怒っていたり、困っていたり、退屈だったり、恥ずかしかったり、そういう思いを率直に表情に表してくれる。

 ひるがえって、僕はといえば……。やめておこう。これ以上は、ぐちになってしまいそうだ。


 今日のデートでは、映画館まで『デッドプール』を見に行った。

 別にぼくがこの映画に興味があったわけじゃない。

 この間、二人で買い物に行ったとき、彼女がしばらくデッドプールのポスターを眺めていたのだ。

 そんな彼女が珍しかったので、きいてみた。


「字田さん、これ、観たい?」

「うん」


 にっこり笑って、彼女が振り向く。これで一緒に観に行こうと誘わない男がいるだろうか?


 デッドプールというのは、アメリカのマーベル社が発行するコミックに登場するキャラクターらしい。マーベルのコミックは、すべてがひとつの壮大なシリーズになっていて、デッドプールはそのうち多くの作品でトリックスターの役割を果たすキャラなんだとか。

 正直なところ、自分はマーベルについて「聞いたことがある」程度だったし、デッドプールなんてキャラクターは知らなかった。

 と、あらかじめ言うと、彼女が紹介してくれたのは、なぜかゲームのプレイ動画だった。


「私はプレイはしないけど、見るだけでも楽しいよ」


 日本のキャラクターとマーベルのキャラクター全50人が戦う、対戦格闘ゲームだった。

 言わずと知れたスパイダーマンや、スト4のリュウ、ヴァンパイアシリーズのモリガンなんていう、自分が知っているキャラクターもたくさんでてくる。割とカオスなゲームだ。

 たしかに、見ているだけで楽しい。

 しかし、ぼくはデッドプールについて知りたかっただけなのに……。彼女の話に付き合っていたら、知らない間にマーベルどころか日本のゲームのキャラクターまで紹介される羽目になっているぞ。


「デッドプールはね、挑発に判定があるの。あと、この3ゲージ技が……ほら、体力ゲージで相手を殴れるんだよ! すごいでしょ」


 彼女が喜々として説明してくれる。

 いや、それも十分おかしいけどさ。

 なんでか相手側には弁護士がいるぞ。これ、俺も知ってる有名なキャラだ。弁護士が格闘ゲームに出てるって、そっちのほうがもっとおかしいだろ?




 ――というような些細な混乱があって、結局僕は無事映画を鑑賞し終えた。


 さすがアメリカ、という感じはしたが、はっきり言ってチープだった。

 そしてそのチープさをネタにしているのがたしかに面白い。ぼくの見たことのない映画だった。


「うーん。でもさ、やっぱりわたし、もっと滅茶苦茶なのを期待してたんだけど……。第四の壁をもっとしつこいくらい破るのかと思ってた」

「あー、さっきも言ってたね。あのくらいでちょうどいいんじゃないかな? メタはほどほどに入れるくらいがさ」

「ほどほどにすべきところが、ほかにあったよね?」


 あ。すごく不満そう。

 指をぐるぐる回し、びしっ、びしっ、と虚空を指している。

 うーん、たしかに、あんまり自重してない作品だったけど……。タクシー運転手とか。タクシー運転手とか……。


「ほかにあったよね? ずっと『あの』シーンばっかり」


 ああ、なるほど。――って、そういうことか!

 彼女が言っているのは、ベッドシーンのことだ。

 どうしよう、思い出して、つい字田さんの胸を見てしまった。

 しかも、気が付かなかったけれど彼女の胸元は、汗でぐっしょりぬれていた。ただでさえ巨乳なのに、より目立ってしまっている!

 字田さんも気づいたのか、すごく恥ずかしそうに、コンビニに寄ると言い出した。

 ぼくがタオルを用意しておけばよかったのに、気がきかなかったせいだ。

 ……後悔。


 そのあと、字田さんは少し恥ずかしそうに「もー」とか言いながら購入したタオルで胸を拭いて(目のやり場に困った)、夕方のファミレスで二人でマーベルの話をした。彼女は声をはずませて今作の感想を言い(次回作のケーブルは本当に楽しみだけど、できれば「本編」にもデッドプールが出てほしいと熱弁した)、僕がケーブルのことを彼女に質問して(だって今回予習に使ったゲームには、そんなキャラは出てこなかったんだ)、彼女のスマホで『ケーブル』というキャラクターが出てくる別の作品の動画を見て――


 しばらくして気が付いたら、とっぷり日は暮れてしまっていた。

 名残惜しいけれど、彼女を家まで送っていくことにする。


「別に、いいのに」


 と、彼女は不満そうに言う。

 彼女は毎回、僕が送っていくよというと、不満そうな顔になる。

 単に、僕に面倒をかけるのを嫌がっているのか。それとも、過保護だと思われているのか。


「――りたくないなぁ」


 彼女が何かをぼそりと呟いたけれど、ちょうど来た電車の音にかき消されて、僕にははっきりと聞こえなかった。

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