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第五話

★1


 ……どうしてこうなった。


「さあ、早くこっちに来るんだ!」


「うう……言われなくても言う通りにするよ」


 恰幅のいい村の男が、俺を縛っている縄を乱暴に引っ張る。クソ、もう少し優しく扱えよな。


「これから俺らはどうなるんだ?」


「は?どうなるって?そんなもんお仕置に決まってるだろう」


 ペトラに向けて言った質問を、男が勘違いして答えた。あの、答えるのは別にいいけど、そのめっちゃニヤついた顔はやめろ。気持ち悪い。マジで顔に「これからぶち犯す」って書いてあるぞ!


「多分……殺されるか、犯されるか」


 ペトラは小声で答えた。はあ、やっぱりそうですよねぇ。ああ、こういう時ってあれ言っておいた方がいいのかな……。


「やめて!私に乱暴する気でしょ!エロ同人みたいに!!」


 ~二日前~


「今日も快晴。風が気持ちいい」


 目が覚めて、また人里を目指して空を飛んでいた。思えばこれが間違いだった。ファンタジーな世界なもんだから警戒を怠っていたと言っていい。俺の今の姿を人間が見たらなんて思うか。そう、翼の生えたこの姿を。


 しばらく飛んでいると村のような場所が見えてきた。中性ファンタジー風の村。かすかに見える人の顔も、日本人よりも彫が深く、外国人みたいだ。この世界で会う初めての人間に、心躍らせ、俺は意気揚々と村の広場に降り立ってしまったのだ。


 はい、最初の失敗です。上空から確認した時、辺鄙な村なのに教会のような立派な建物があることも、気にしておけばよかった。


 広場に12本の翼を携えて降り立った時、それはもうその場にいた人達は目を丸くした。そりゃそうだ。天使が降りてきたんだから、神からお告げでもされるのかって話だ。ま、堕天使てるんだけど。


 ばさりとかっこよく、漆黒の羽を舞い散らせながら降臨した俺を目の前に、一番最初に口を開いたのは村の長らしき爺だった。


「これは……これは、本当に……本当に天使様が降臨なされたぞ。ああ、なんと素晴らしいことだ。さあ、プリースト様に伝えてきなさい。やはり彼女の言うことは正しかった!」


 爺は近くにいた若者にそう言うと近づいてきた。


「天使様。我々はあなたを待っていました。ささ、どうぞこちらへ」


「え?ああ、ありがとうございます」


 天使様って、むふふ。そうか、天使か。むふふ。爺の態度は、俺を最大限に敬っていた。これに気をよくした俺は、爺に言われるがまま付いていった。


「村の皆あなた様を心待ちにしておりました。このように、貧しい村ですから、少しの不作で皆餓死してしまうのですよ」


 爺は俺を連れ歩きながら、聞いてもいない村の説明をしてきた。確かに、すれ違う人たちは全員、やせ細っている。身なりもみすぼらしい。だけど、俺の前を歩くこの爺はなんでか知らないけどすごく肥えてた。腹の肉がベルトに乗ってるよ。着てる服も立派だし、お前が金毟ってんじゃねえの?


 爺は教会のような建物へと俺を案内した。


「さ、どうぞ中へ」


 入ってみると、建物はやはり教会だった。あまりそういう宗教的な知識がない俺でも察しがつくような、中央正面に偶像が置かれ、その奥に十字架にさらに小さなXを加えたものがあった。


 建物内の装飾は、あまりお金がかけられなかったのか、寂しいものであったが、キャンドルや壁画など教会にありそうなものが並んでいる。


 壁画と、中央の偶像はどれも天使であった。4枚の翼を持つ天使。この村はこの天使を信仰してるのかな?神の使いを信仰するのってなんか違う気がするけど、ま、宗教なんだから自由だよね。


「ペトラ様。天使様が、天使様が降臨なされました。やはりあなたの言う通りでした。ありがとうございます」


 爺が、奥で祭壇で像に拝んでいる女性に話しかけた。


「え!?」


 女性が勢いよく振り返った。コスプレみたいな、丈の短い青のシスター服を着た女性。金髪碧眼の美女は、爺の発言と俺の存在にひどく驚いてるように見えた。が、すぐに調子を整え、さも聖職者らしい張り付いた信仰顔で、ありがたそうなことを言った。


「…………はい、神はいつでも救いの手を差し伸べています。それに気付けるか、その手を握れるか、それは信仰によって決まるのです」


「まったく、その通りでございますな。一度あなたを疑って申し訳なかった。しかし、これで儀式が執り行えますな。ほっほっほ」


「ええ、まったくその通りですわ。おほほほほ」


「あ、あの……」


「おおっと失礼した。天使様。こちらがあなたを召喚したプリースト・ペトラでございます。と言っても、彼女の声に呼ばれてきたのですから、わざわざ言う必要もないでしょうが」


「はい、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 ペトラと呼ばれたシスターは妙に顔を引きつらせている。どうしたんだ?


「では、私はここで、天使様が参られたので、儀式の準備をしなければなりませんからな。ペトラ殿、あとでお願いしますよ」


「はい」


 爺が去り、教会内には俺とペトラだけが残された。さてさて、じゃあ、俺はごはんでも食べに行こうかな。俺が、爺に続き、教会を出ようとした時、ペトラが引き留めた。


「待って。あなた、何者?」


 先ほどと雰囲気が違う、重く先の尖った声。爺の前と偉く態度が違うな。


「天使ですが」


 堕天してますが。


「嘘おっしゃい。あのバカ鹿爺は騙せても、私の目は欺けないわよ。あいつの宝は絶対に渡さない」


 おっとおっと、どうしたどうした?騙す?宝?何の話だい。


「あの……何を言ってるのかさっぱり」


「とぼけても無駄よ。どんな魔法を使ったのか知らないけれど、私の計画を邪魔させないわ」


「いえ、本当になんのことだか。あの、私本当に天使なんですよ」


 ばさりと、翼を広げる。黒い羽が舞う。


「え、嘘……本当に?」


「はい」


 にっこり。


「本当の本当に天使なの?」


「はい、本当の本当に天使です」


 嘘です。堕天使です。


「う、う、うわあああああああああああ!?いやああああ、そんなああ、殺さないでええ」   


「いやいやいや、別に殺したりわしないですよ!!?」


「嘘だ!!!村人を騙して、『いやあ、天使召喚の為に必要なんですよ~』って不正に金を毟ってたからその罰を与えに来たんでしょ!!ああああ、いやだいやだいやだ。死にたくない死にたくない」


 シスターはそのまま発狂して、建物内を駆け回った。飾られてた花瓶やらキャンドルやらを散らかすほどに乱れて暴れまわった。そして、もはや暴れることも疲れたのか、祭壇の前で立ち止まり、へたり込み、えんえんと泣きだしてしまった。


「あ、あのお……別に私、そういうわけじゃなくて、偶々空飛んでたら、この村見つけて降りただけなんで」


 ぴくんと、肩が震え、嗚咽が止まるシスター。ゆっくりとこちらに首を傾ける。


「……本当に?」


「はい」


「本当の本当の本当に???!」


 うぜえな。さっきもこんなくだりやっただろ。


「本当の本当の本当です」


「よっしゃああああ!!!はいセーフ。私やっぱり持ってるぅ!!よしよし……まって、待って待って、やだやだ、やっぱり私って天才じゃない?ねえ、そう思うでしょ?ふふふ」


 ……誰に向かって言ってるんだ?このアマ。


「ねえ、あなた、あなた名前は?」


「え?名前ですか?えっと……」


 どう名乗ったものか。裕太って名前だとおかしいよな?女の姿なのに、でもルシフェルって名前もインパクトありすぎて控えた方がいい。少なくともその名前を聞いたらこの女、さっき以上に発狂する可能性あるぞ。てことはそうだな。今のこの姿に見合った、女らしい名前……るし、るしふぁ、る、る……


「る、ルーシーです。よろしくお願いします」


「ルーシーね。よろしく!私はペトラ。改めて自己紹介するわ。ねえ、あなた、私に協力しない?」


 ペトラは悪だくみの笑顔を浮かべながら、俺に提案してきた。

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