表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第三話

★5


 目覚めるとそこは闇の中。いや、森の中。光が届かなくて真っ暗だけど葉っぱや枝があふれてる崖の下。


 そして唸り声をあげる狼の群れ。いや、これ狼って言っていいのかな?なんだか目が三つあるように見えるんだけど気のせい?


 狼は俺を取り囲んでひたすらに威嚇している。縄張りを荒らす者への洗礼だ。その円の中心にいる銀髪美少女は、木の枝に引っかかって中吊りの状態。はい。不味いです。


「うわあ!やべえってこれ!こいつらに食い殺されるのだけは勘弁してくれ!どうせなら墜落の衝撃で即死が良かったーーー!!!」


 喚こうが泣こうが、助けは来ない。むしろ狼さんたちの唸り声に殺意が込められ始めている。


「ええっとええっと……こういう時は、えっと……そうだ!俺が転生者でチート能力持ちなら、何か魔法の一つくらい使えるでしょ!」


 とりあえず目の前の狼に手をかざしてみる。念じて念じて、ただ何かこいつらを吹っ飛ばすことだけを考えた。すると手のひらから何か黒い塊が狼へと飛んで行った。


 きゃお~んと悲しい断末魔が聞こえた。うそ!?やったか?


 しかし、フラグを立てたせいか狼は立ち上がり、俺に牙をむいた。一匹が襲うと、それを合図にほかの何匹化も向かってきた。四方八方からの猛攻。俺は腕で顔をふさいで何とかやり過ごそうとしたが――


 きゃん……


 また断末魔のような鳴き声が聞こえた。それも一匹だけでなく何匹も。腕をどけて辺りを見回すと狼の死体が転がっていた。


「……助かったのか?」


 何かにすりつぶされたかのような狼の死体。きっと映像化不可能だろうなと思いつつ、それを俺がやったのかと疑問にも思った。なんとなく心が痛かった。


 無意識でさっきの黒いのを飛ばしたのだろうか?にしたってここまで惨いころしなくても。


 何とか引っかかってた枝を折り地上に降りた。まあ、頭からだったけど。おかげでネグリジェがズタズタだ。


 降りた後、自分が殺してしまった狼たちを埋めてあげた。数は多かったけど意外と翼が丈夫で、地面を掘るのに仕えたので手間にはならなかった。翼っていろんな使い方があるんだね。


 さて、災難は去ったのだけれど未だに腹はなり続けている。空腹で倒れそうなんだが、案外体力は残ってるようでとりあえずは歩ける。当分はこの森を散策しながら木の実なんかを探そうと思う。


 しかし、さっきの火の弾は何だったのだろうか。いや、こういう世界だから魔法ってやつなのかね?だとしたらなんで俺に向かって撃ってきたんだろ?助けようとしただけなのに……。


★6


 この森は木々が生い茂りすぎてて空が見えない。殆ど光が入り込まない闇の森だ。だから天井が塞がってるから飛ぶことができない。それもあって、開けた場所を目指そうと見つけた木の実を齧りながら思った。


 この木の実。見た目はリンゴなんだけど味はパイナップルに似てるんだよね。不思議だ。やっぱりここが異世界なんだなって思う。


 はあ、なんだかつけ麺が食いたい。秋葉原にうまい店があっただよなぁ。そこのつけ麺が食いたい。安いし、600gまで無料だし。木の実を食べて腹は少し満たされた。だけど、文明社会の食生活になれた俺はワイルドな木の実食では満足できない体になっていたのだ。


 食品添加物が食べたい。うま味調味料を食いたい。そんなことを考えていると、またお腹が鳴った。


「とりあえず……どこか人里に行かないと」


 もっとも、この世界の文明レベルでは食品添加物なんていう科学的なサムシングは存在しなさそうだが……。目覚めた部屋には照明器具もコンセントもなかったし、俺に向けて火球を放ったあいつらはローブみたいな服を着て、いかにも魔術師ぽかった。


 まあ、それもこれも、とりあえずこの世界の住人と話さなければわかるまい。お、丁度開けた場所見っけ!早速行ってみよう♪


 闇雲に歩いて見つけた森のへそに、俺はダッシュした。遠足気分だったので周りを警戒することもせず。


「森のへそって、うわあ!?」


 森のへそで待ち受けていたのは先ほど遭遇した獣と同じ、三つ目の狼の群れであった。どどめ色のぼさぼさの毛並みがへそに吹く風に揺れている。群れの中心には巨大な狼が、こいつももちろん三つ目だが、その毛色は小さい奴らよりも白みがかっている。全く違う存在だが、もの〇け姫のモロのようだ。それかダクソの灰色の大狼シフ。まあ、なんとなくイメージが付くだろうか?


 群れは30匹前後ででかいの含めほとんどが寝ている。しかし、見張りのためか何匹かは起きていてそのうちの一匹と目が合った。


 あ、不味い。


 一匹は唸り声をあげている。他の見張りも俺気づいた。反応も同じ。……あの、なんでみんなそろいもそろって俺に敵意むき出しなの??


 しびれを切らしたのか一匹が遠吠えをした。おい!起きろって感じですかね。次々に狼たちが目を覚ましていく。もちろん、モロもだ。


「あ、あのぉ……俺、あんまり戦いとかって好きじゃないんだけど……」


 問題です!狼に人間の言葉は通じるでしょうか?シンキングタイムスタート!チチチチ……はぁーいストップ、そこまで!正解は——


「(冥府の王がこのような場所に何用か?)」


 通じるみたいですよ。と言っても、モロだけで他の小さい奴は黙ってみてるだけだけど。


「え?えっと、散歩?かな」


 食品添加物を探してますとは言えませんよね?


「(冥府の王よ。戯れに我が子たちを殺しなさんな。あなたの強さはこの魔界の誰でも知っている。今更力の誇示など蛇足であろう?まして我ら獣に向けてなぞ)」


 えっと……さっきの殺生を窘められてる?ま、そりゃ同胞を殺されたら何か言うよね。さすがに謝った方がいいよね。


「あ、あの……さっきの狼を殺したことは謝ります。ごめんなさい。でもあれは仕方なかったから、ああしないとこっちが殺されてた」


「(先に牙をむいたのは謝ろう。しかしだ、私は別に殺す必要などないと言っておるのだ。あなたなら尚更、いたずらに命を弄ぶことはしないと思っていたが、冥府の王よ)」


「あの、さっきから冥府の王って言ってますけど……それって何ですか?僕ってそんなに偉いんですか?」


 どうにもこのモロ(仮名)の言葉遣いは気になっていた。俺を一目置くような態度。冥府の王っていったいなんだ?


「(むむむ?まさか、冥王が転生したのか?ほほう。そうかそうか)」


「あの、なんだか一人で納得されてるみたいですけど、僕にも説明してくれませんか?」


「(おおっと、失礼。冥府の王よ。あなたは冥界を司る王。森羅万象全ての死に精通する神なのだよ)」


 森羅万象の死に精通する神ってなんてパワーワードなんだ。厨二過ぎるだろ!それからもモロ(仮名)からこの世界について根掘り葉掘り聞いた。仲間を殺した奴に対してはなかなか寛大なふるまいだった。


 要約すると、俺は冥府の王と呼ばれる死神らしい。個人名詞はルシフェル。そう、あの堕天使ルシフェル。12枚の翼を見た時に、どこか似てると思ったけど、正真正銘のルシフェルになったらしい。そして、俺は今まで封印されていた。というのも、俺の魂が入る前のルシフェルちゃんはメンヘラだったらしく、ひょんなことから世界を壊すという目的の元、たった一人で世界征服を始めたらしい。


 この世界は、天界と魔界と人間界の三つの世界で構成されてるらしい。で、ルシフェルちゃんがキングの冥界はその世界の反対側、影の世界らしい。


 今さっきまで俺が封印されてたあの場所は、魔界で最も冥界に近い場所なんだって。あ、そうそう。なんでルシフェルちゃんが封印されてたかというと、三つの世界にボッコボコにやられたから。死んでないのはそもそも死を司る神を殺す術を三つの世界の住人たちは持っていなかったのと、冥王がなくなれば世界のパワーバランスが崩れるかららしい。


 だから自分たちの目の届くところで封印するしかなかったんだって。


「(大体600年ほどかの。あなたが封印されて、あなたの封印を機に天界と魔界は争うことをやめ、世界は平和な時代になった)」


「なんだか、いい話みたいだけどそれってつまり、僕が目覚めたらその平和が崩れるってことですかね?」


「(そうだな)」


 わぁーお!そんなにゆるぎなく言わなくても。


「(まあ、争うのは魔族と天使たちだけだ。我ら獣には関係のないこと。さあ、冥府の王よ。わらわが知ってることはすべて話した。もう立ち去りなさい。あなたと関わっても災難しかない)」


「あ、最後に一つだけ!ここから一番近い“人”里ってどっちの方角ですかね?」


「(何?“人”里か?そうだな。ここから遥か東に人族の最果ての村があると聞く。そこへ向かうとよいぞ)」


 東かぁ……。とりあえず行ってみるかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ