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四代目 くたびれすーつと軽い人



 個性とはなんだろうか。

 そんなことを思う今日このごろ。

 更に個性を消した仕上がり。これなら問題あるまい。

 短めに切りそろえた髪に、マッチョすぎない体。誠実感をよりアピールするために、スーツを着用している。初期から選べるものなので、幾分くたびれいてるものだが、ふんどしや短パン忍者よりは僕の誠実さがにじみ出るであろう。ふふん。


 そんな新しいキャラクターを作成し、町に降臨した僕は、即座に情報登録ができる場所を探した。

 今回の僕は、運がとても良かったのだろう。

 登録できる場所を、先日の繰り返しにならないようにできるだけ普通の人っぽい人に、距離を取りながらも聞いてみると、笑顔で教えてくれたのだ。


 信じないぞ! 笑顔なんて、僕は信じないからな!


 必死に言い聞かせていたが、特に何事もなかった。

 疑いすぎたかもしれない。ごめんなさい。

 案内された場所は人があまりいない。登録する人が少ないということだろうか?

 あとなんか埃っぽい。場末の酒場みたいな、そんな雰囲気だ。いったことないけど場末の酒場。

 まぁ、少なかろうが汚かろうが、僕には関係ない。

 案内してくれた人にお礼をいい、受付といわれた場所にいけば、せっまい場所に事務仕事はしそうにない強面のおっさんが一人。


 「すみません!! 登録したいのですが!!!!」


 「うるせぇ! 声がでけぇ!」


 怒られた。

 仕事中なのになんていう態度だ。

 これが、この国で認めれられていないという現実なのか。


 「手続きには……金六千かかるが、おめぇもってんのか」


 なん……だって……?

 金がかかるのか?

 お金を払わねば認められない社会、ファンタジーなのに世知辛いぞ!

 だいいち、流れ人という設定? なのに、というか、流れているからなのか、初期状態では『お前これまでどうやって生活してたんだよ』ってくらい持ち物を持っていない。もちろんお金も少ない。ゲーム的には多い方なのかもしれないけど、少ない。

 持っているのは小さなカバンだけである。

 中に入っているのは金一万、傷薬っぽいものだけである。財布はない。むき出しである。

 リアルさを出したいのか、出したくないのか、どっちなんだ。

 僕がプレイするまでこのキャラはどうやって生活してここまで大きく育ったというのか。故ウィンナーはふんどし一丁でどうやってここにたどり着いたというのか。


 それよりも、胡散臭いものを見るような目で見るなといいたい。

 じろじろ見やがって。お前金なんて持ってねぇだろうが、そう視線が語っている。

 舐めるなよ貴様。僕の財力を見るがいい。


 「……おう、確かにあるな」


 泣く泣く払う。財力ゲージがもう半分以下になってしまった。なんということだ。

 おっさんは何やら紙を取り出して、こちらに差し出した。差し出したというよりも投げつけたといったほうが正しい。はやく人間になりたい。

 紙には何か模様が刻まれており、書くところなどは見当たらない。


 「これに血をたらせ」


 まさかの記入等すっ飛ばしの血液要求である。

 ちくしょう。ちくしょう。妙なところでファンタジーをアピールしているとでも言うのか。

 ほいっと針を渡される。刺せってか。現実でわざわざ指に針を刺す機会なんてないんだからな! そうひょいひょうい指を針にブス―ってするやつがどれほどいるものかよ!

 だから、ちょっとためらっても仕方がない。これは別に、僕に勇気がないだとか、そういう問題ではない。絶対ない。きっとない。ないといい。ないといいなぁ、と思う。ないよね?

 

 「あーじれってぇ、ぶすっといけや、ぶすっとよぉ!」


 ちくしょう。ぶすぶすいうんじゃあない! 僕が女性だったら、その時点でその眉間に針を刺して『しかめすぎて皺になってたから治療してさし上げたのよ! 知ってらっしゃるかしら、鍼治療! トウヨーウノ神秘!』とでもいってやったというのに。

 他人事みたいにいいやがって。紛れもなく他人事だけども。

 意を決してぶすりと刺す。針が皮に刺さっていき、何かを通り抜けた感触。ずぶりずぶりと鈍く伝わるその触感。

 そんな五感再現はいらないんだ……!


 「……おう、ためらった割にやたら深く刺したな」


 なんで引いてんだてめぇ。


 もうおっさんのリアクションは無視することにして、紙にぽたぽたと血をたらす。たんとお食べよ。

 血をたらして数秒、模様が淡く光る。


 「おー、もういいぞ……いいっていってんだろうが! ぼったぼった垂らしてんじゃねぇ!」


 なんてわがままなんだ!

 垂らせと言ったり止めろと言ったり。これだからおっさんは困る。

 おっさんは僕に汚い布を投げつけると、紙をもって一度奥に引っ込んだ。そのまま引きこもってしまえ。

 渡された汚い布で血を拭っているうちに、すぐに戻ってくる。

 この布ほんと汚い。思わず吹いたけど本当に汚い。


 「よし、登録はこれで終わりだ」


 いいながら、カードのようなものを渡される。布は地面に捨てた。おっさんはそれをスルーした。

 カードを確かめてみる。硬い素材で出来ているようだ。柔軟性が足りない。まるでこのおっさんを表しているかのようだ。これポケットにいれて座ったらばきっと折れるか、おしりにダメージを受けるかの二択になるんじゃなかろうか。ポケットには入れないようにしよう。

 カードにはさっきの紙とはまた違った模様が刻まれているが、意味は全くわからない。

 どうやらあれで登録は終わったらしい。あれで僕に何がわかるというのか。血を垂らした、それだけで僕の素晴らしさは一割も伝わらないに決まっている。こんなカードに僕の全てを決められてたまるか、そんな気持ちが湧き上がる。このカード、目の前で折ってやろうか。

 

 「無くしたら、再発行に金三千かかるからな」


 「そうですか、超頑張ります」


 「何をそんなに頑張るかはしらねぇが……あぁ、仕事だから一応いっとく。

 お前はこれでこの国に滞在を許された。

 この国の法律を守ること、税として半年に一度金三万を収めることが義務付けられる。

 破れば即登録抹消。捕まってさようなら、だ。わかったな? 二度は説明しねぇ」


 説明というほど説明してねぇだろ!

 なんて、なんて適当なおっさんなんだ。誰だこんなを受付にしたやつは……左遷でもされたに違いない。

 質問は聞かないとばかりに手をふられる。まるで犬か何かを追い出しているかのようだ。

 ちくしょう。世界が僕に厳しい。


 仕方がなく、外に出る。スーツと黄昏た感じの相乗効果で、リストラされた人のようだ、今の僕は。

 結局、税金をどこで払えばいいのかもわからない。

 法も触りすら教えてもらっていない。文化の違いで『昼時から夕方まではスキップして移動してはいけません』、とかあったらどうすればいいんだ。恐怖を覚える。またアイリーンに毒殺されるのはごめんである。


 ああ、アイリーンに毒殺された理由の一つは、登録してなかったからかもしれない。

 おっさんは登録しても態度が変わらなかったので、実は登録は関係なく趣味だった可能性も否めないか?


 ※ システムメッセージ

 ※ 条件:『最初の町での登録』によりピースを手に入れました。


 「うおお」


 びっくりした。なんだいきなり。

 条件が登録だっていうんなら登録した時点ででろよ……なんで時間差だ。

 ピースってなんだろうか。ピース。

 いえええ! ピース! ピース!

 違う気がする。

 平和? 普通に考えれば欠片的な?

 この世界の設定が見れるとか?

 でも特にアイテムが増えた様子はない。アイテムボックスとか、そういう空間収納機能がついてる風でもないしなー。つければいいのに。つけてよ。鞄持ちっぱなしなんすけど。

 今の僕には理解できない。

 ということで考えない。


 さて、考えてもわからないことはさておき、次は何をしようか?

 このMMOの目的が全く持ってわからない。いや、冒険とかなんじゃないかとは思うけど、チュートリアル的なものがなさすぎて、ちょっと指針が立たない。やはり、情報は力だな。力を付けねばならぬ。

 せっかく五感がしっかりしているのだから、いろいろ食べたりはしゃいだりしたい。食べるためにはお金が必要である。お金を稼ぐためには? モンスターを倒せばいいのだろうか。

 いや、待て。ここの運営だぞ? 普通にモンスター倒して、ドロップが出たりするだろうか。

 ない。無い気がする。死体が普通に残る気がしてきた。どこを採取して、どこに売ればいいんだ。解体の仕方なんて知らないし。そんな道具もない。

 クエストとかないのか?

 もし、依頼を受けてもクエストとか表示されない気がする。というか、ウィンドウというか、視覚でそういうの見れるのがログアウトだけだ。むしろだからそのログアウトの存在だけ浮いてんだよ! なんだ、なんか本当にきっついな。

 冒険者ギルドとか、そういうのないのだろうか。依頼集めてますよ、チュートリアルしますよ、みたいな場所は。


 ふらふらと彷徨う。ぽくぽく歩く。ぽっくぽくぽくぽっくぽく!

 そういえば、依頼も金も関係ないが、町を歩いていて気がついた。

 字、読めねぇ。

 言葉は通じているのに、文字が全く読めない。なんだこの言語。町にある文字全てが読めない。近い文字を考えると……記号? 記号とアルファベットの筆記体が混じったような、見ているとなんとなく酔うような……


 もしかして、文字も覚えろとか、そういう?


 やめてよね! ゲーム内で現実でするような勉強なんてしたくないんだからね!

 や、優しく二人っきりで教えてくれるんなら……その、少しくらいなら、いいけど……


 脳内で似非ツンデレってみても、別に状況は改善してくれない。なんて時代だ。なんて世界だ。


 どうしようかどうしようかと考えていると、初期の噴水まで戻ってきてしまった。久しぶり噴水。もう浴びたりなんてしないよ。

 縁に座ってみる。

 たそがれる。

 まるで家族に嘘をついて家を出たものの、実はリストラされていて行き場のないサラリーマンのようだ。切ない。


 「おー、そこのニイサン、何たそがれてんの?」


 いきなり聞こえた声に顔をあげてみれば、動きやすさを重視しつつも急所などはカバーしている様子のホストみたいな男がいた。一応ファンタジーなのにホストみたいというのも表現として正しいのだろうか。それはわからないが、僕がホストみたいといったらホストみたいなのだ。異論は認める。イケメンは認めない。アバターだけど。

 それにしても、女の子の出会いとかは望めないらしい。よくある小説なんだかだと、ここは美人とかかわいい系の女の子が話しかけてくれるとか、そういう展開なんじゃないだろうか。

 でも、現実はホストである。別にいいけどさぁ……


 「何をすればいいのか考えていました。何しても死にそうで」


 そう、問題はそこなのである。うかつに行動したら死にそうなのが問題なのだ。作りなおすのがさすがに面倒になってきたとも言う。


 「あぁ。わかるわかる。わかるわー、それ」


 凄い賛同を頂いた。印象がやたら軽いし安っぽいけど。

 やはり、なりがちな状況なのだろうか。

 ホストっぽい……ホストマンと名付けよう。

 ホストマンはまるで指名を受けたホストのように、自然な動作で僕の隣に滑るように座った。やり手である。イケメン死すべし。


 「チュートリアルもないもんね、このゲーム。登録はした?」


 ちょっと店によってかない? というように軽い様子で自然にケツをスライドさせてよってきた。やめろ、僕はノーマルだ。

 それに、また殺されるのはごめんだ。

 とか思っていたのがスキだったのかもしれない。ええい! こいつ……私の肩に手をまわすかっ……! 冗談ではないっ……!


 「もちろんしましたよ。一度殺されましたし」


 牽制の意味も込めてそういうと、ホストマンは朗らかに笑う。笑い事じゃあ無いんだが。それに、あの、僕ノーマルなんで離れてくれませんかね。いや、そういうつもりでもない感じだけど、なれなれしいことには違いあるまい!


 「あるある。俺もやられたよ、それ。で、次のキャラで登録するときやたら値段高くてびっくりするっていう」


 「ああ、びっくりしました。半分以上取られるなんて……」


 「ああやっぱり。

 ちなみに、それ、ボッタクリです」


 「なん……じゃと……?」


 あのおっさんから騙されたというのだろうか。

 確かに真面目に仕事はしていなかったが、そこまで最悪なおっさんだったのか?

 本当ですかホストマンさん。嘘だっていってください。嘘って言ってよ。


 「通常は金三千だよ。五千以上も取られたの?」


 「六千……」


 つぶやくと、うわぁという顔をされる。距離も少し離れた。不幸中の幸いという言葉の意味がよく理解できた。やったね!

 大体、うわぁといいたいのは僕の方だ。NPCから詐欺られるってどういうこったよ。しかも、最初の町だぞここ。

 三千って。金三千って。それ再発行の値段じゃん。

 別のやつが窓口に立つ可能性もある以上、そこは嘘をついていないと思いたい。ホストマンが本当のことをいっているとは限らないから、本当のことをいっているとして、そこまでおっさんがアレだとは思うまい。むしろ、自分が着服できないんだから嘘をついてないと思う。


 倍。倍である。いいカモだったんだろうな、僕は。

 そんなことを思い、顔で笑って心で泣いた。

主人公がまともになりました!

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