三代目 ひびきあいたい
ステータスが見れない。
繰り返す。ステータスが見れない。
というか、メニューもない。ログアウトしかない。
「ああー、それは運が良かったね。NPCに聞いてたらそれだけでまたキャラ作成するはめになってたと思うよ」
三代目を作成し、今度はすぐに移動。噴水から少し移動したのだ。学べる男である、僕は。しばらく整備されたタイルっぽい地面だったのにいきなり整備されているとはいえ土ってどういう基準なんだろうか? 街並みが超ちぐはぐである。
露天で串焼きを買っていた鎧を来た男に話しかけた所、親切に対応してくれている。優しい、世間の荒波に負けないで!
ありがたい。ありがたい話だが、聞いただけで死ぬってどういうことだ。
「聞いたら死ぬんですか」
「死ぬねー。いや、最初の方はそうでもなかったらしいんだけどさ」
串焼きを一本くれた。嬉しい。優しさが身にしみる。
布をずらして、なんの肉なのかはよくわからないが、食べる。
そこそこ硬い肉だが、噛んだ瞬間にじわりと肉汁があふれる。噛めば噛むほどに味が深まる感覚は、素直においしいと思えた。
味覚は正確に再現されているどころか、増幅されているかのようにすら感じる。
いや、よく考えると、現実の僕が味覚狂っているだけかもしれない。
「あ、普通に食べるんだね……ああ、聞いたら死ぬって話だけど、直接聞いた人に殺されるってわけじゃなくて、病院に入れられるんだ。警備兵に」
また警備兵か!
あと、貰えば普通に食べる。親切にしてもらっているのに、そのまま捨てたり、持ったままというのもどうかと思うし。何故、そこを疑問に思ったのかが謎だ。
「最初の頃に、やっぱり一般のゲームとして捉えてるからか、ステータスが確認できるのが当たり前だと思って聞きまくる人が多発したらしんだよね。俺はちょっと時期がずれてるからそのへんは聞いた話だけど」
「はぁ……それが原因になるんですか?」
「うん。この『レッツゴー異世界』って、名前もふざけてるし、かなり仕様がプレイヤー側としてはアレだけど、NPCに積まれているAIってめちゃくちゃ高度AIみたいなんだよねぇ。ありえないレベルだよ、正直な話」
オフゲーでもそこそこの性能のAIが積まれている時代ではあるが、それでもやはりまだ人間並みの柔軟な思考はできない。というのが通説だったはずだ。
ここではそれが違うという話なのだろうか?
だとすれば、信じられないというのも理解できる。
どれだけの金がかかっているというのか。
「詳しくはわからないよ?
でも、ここのNPC……住人が、人間と考えても違和感なく会話ができて、行動ができている。
モンスターもね、テンプレのように同じ行動すれば倒せるってわけでもない。それは最近じゃオフゲーでも見るところであるけど」
確かに、RPG系のゲームで見かけるようなモンスターのAIも進化しているから、普通のゲームでも難易度をあげたり、もともと難易度が高いゲームだったりすると、楽には倒せないのが当たり前になってきている。
「ゴブリン、ここにもいるけども、こいつ一つとっても、場所によって行動が違う。
武器が違う。知能すら違う。
生まれた年数も関わっているという話もある。
そりゃ、種族としての強弱は存在する。どんなに強いゴブリンでも、一匹じゃどんだけ弱いドラゴンにも勝てない。
でも、強いゴブリンが固まれば、弱いドラゴンには勝てるだろう。
まぁ、そこまで強くて賢いゴブリンが固まったって話はきかないけど、それでもそこそこでも頭がいいゴブリンは普通に戦術的に動いてくるからね。バカを相手にしているつもりで戦ったら、あっさり死ぬ。
そうかといって、全部がそうかっていうと、無手で突進してくるしか脳のないやつも珍しくない。
独自の文化があるかと思えば、腰布一枚でうごうごいっているやつもいる。
上下に差がやたら出てるんだよ」
それは凄い。
というか、そこまでAIに気を使うなら、プレイヤー周りにも気を使って欲しい。
バランスも考えて欲しいところではあるが……場所が違うってだけで差がそれだけでるってゲーム的におかしくね? と僕は思うわけで。
最後の肉を、口の中に入れる。口元に布を戻す。
「戻すんだ……ああ、ステータスの話だけど、だから、ここの住人はあまりに問いかけられすぎて『ステータスと連呼して聞いてくる奴は頭がおかしいやつだ』と判断したんだね。
まぁ、現実で連呼している奴がいたら俺もそう思うけど……問いかけ方の問題もあったんだろうね。
少なくともここの町では、そうした対応をするようにって推奨すらされている。
手続き省略、話も聞かず病院にすぐに入れられたりするあたりはファンタジーだから、ゲームだから、みたいな感じなんだろうかねぇ……リアルよりなのかゲームよりなのか、はっきりしてくれとは思わなくもないけど」
なんということだ。
しかし、話を総合すれば一般的なゲームのように、いつでも数値的に見ることはできないということなのか?
現実でもある程度の情報なら、お値段はともかく機械で自己診断結果を表示できる時代だというのに。まぁ、それをステータスと表現はされていないからなぁ。
「病院に入れられるのはわかりました。でも、なんでそれで?」
病院に入れられても、抜け出したりできないほど厳重でも、死にはしないと思うんだが。
死ぬまで出られないという意味なのだろうか?
アイリーンのように、毒を盛るやつでもいるのか。
「ああ、病院って言っても、そこ怪しさ満点の闇病院だから」
「そこまでAI育ってんなら普通の病院にしてくれよ!」
妙なファンタジーはいらない。そんな幻想はいらない。
「ある意味で、AI育ってるからじゃないかね?
ちなみに、俺は試してみた。
ログみたら『臓器(主要臓器各種)を抜かれて死亡』だったね」
エグい。
商品になったんですね、わかりたくありません。
毒を盛られるのも嫌だが、金銭が関わっていると思うとこちらはこちらで生々しい。
「ああ、ちなみにだけど、運営に文句いっても無駄だよ。
規約にも『仕様については仕様としか返しませんし、意見で変えたりしません。嫌ならやめてもいいんじゃよ?』的なこと書いてあるからな」
「あぁ、ありましたね、そういう感じの文……凄い意訳ですけど。
ちなみに、苦情を出したことはあるんですか?」
「俺はないね。
リスクがありそうだし、大体今はほら、金出してるからそれだけで顧客が強いって時代でもないし。
そうだったら文句の一つくらいはいってたかもしれないけどね。
知り合いが出していたのを見ていた限りでは、
『きやくをよんでくださいね』
とか
『返金はしますが、貴方は二ヶ月目ですね。文句言いながらでも一ヶ月分はやってるんですからその分は返金出来ませんよ、常識的に考えて。常識という文字をノートいっぱいに書いてみましょう』
とか、そういうもんだったな。あぁ返金はすぐされていたよ。そいつは二度とこっちに入れないけど」
今の時代珍しくはないものの、強気な運営だ。
嫌味な返答だったという表現なのかもしれないが、凄い意訳だ。実は性格悪いのか、それとも返答にそれだけ苛立ったということなのか。
それでも返金対応はすぐするのか。
しかし、その場合はアカウント作れなくなるということかな?
「まぁ、そういう仕様部分はともかく、他のクオリティは高いし、ありがちなバグとかもないんだよね。
だから、『規約にも書いているし、文句いいたいならその時点で手を出すべきではない。いつでもやめる権利もそちらにある以上は、文句言うのは筋違い』
という近年ではよくあるけど、その中でも強めの運営スタンス」
「なるほど……話は戻りますけど、結局ステータス的な情報は見れないってことになるんですかね?」
「ん? いや、そうでもない。
現実でも機械使えば見れるだろ? ある程度の情報は。
だから、こっちでもアイテムなり、魔法なり使えば見れる。
ただし、金はかかる。魔法なら技術もいる。
しかも、これはサービスで教えておくけど、そこまでしてみても大した情報はない」
魔法はファンタジーらしくあるのか。ここの仕様だから、期待しすぎはもうできないが。
やはり、プレイヤーに優しくない。優しさが欲しい。僕は褒められて伸びるタイプだ。
「ありがとうございました。説明してもらって」
長々と説明してもらった。ありがたいことだ。
やはり、優しさは必要なのだ。
それにしても、ベテランプレイヤーだったのんだな。やたらと知っている気がする。それとも、これが普通のラインなのだろうか?
お礼に対して、男の人は謙遜するように苦笑した。
「ああ、あと一つ、アドバイスというか、早めに知っとかないと意外と、というか、思わぬ苦労をする可能性のある情報がある」
「なんでしょう?」
「君、住民登録してないだろ?」
住民登録……だと……? なんだそのシステムは。
別にここに住む気はないのだが。すぐに次の町に行く場合も必要なんだろうか。旅をさせにくくすることが運営では流行っているのか。
しかし、ここでわざわざ教えてくれるということは、して置かなければまずいということか。
疑問に思ったのが伝わったのだろう、苦笑が深まった。
「俺達の設定は、流れ人。ここの国に初めて来た、という状況。この国……大陸に来たら、情報を登録しなければならない。
なぜならば、そうしなければ住民として認められないからだ。
この国の。
登録自体はすぐできるし、すぐ終わるものなんだけどね?
一度すれば、この国ならどこでも通用する証明書が貰えるんだよ?
もしそれをなくしても、調べてもらえばすぐに登録しているという事自体はわかる」
痛みが走ったと思えば、僕の胸にナイフが生えていた。
自然な動作であり、早業だ。
痛い。どうして僕は刺されたんだ。いきなりすぎるだろう。どこの修羅だよ。
見れば、苦笑が、笑顔になってやがる。
「ここでも、殺人すれば違法だよ。しかも、町中だ。普通ならすぐに捕まってしまう。
でも、君が住民を殺すのは違法でも、今の君は住民じゃあないので、殺しても違法にならないんだ。
あぁ、不思議かい? 大丈夫、説明してあげるよ。
ここの住人にとって、それは常識だから、君が登録していないとわかった時点でなんとも思われないんだ。凄い常識だよね。全く違う他国って、まだ俺はみたことないけど、あるとしたら他国で登録なんてシステムがあっても認めてないってことになるからね。
場合によっては『拘束してごめんなさい、一応仕事なので』と謝られてしまうくらいだ。
今の君は、ここでは正しくは人間と認められないのさ。命の価値が高い安いどころの話じゃない、無料みたいなもんだ。価値をつける価値がない? みたいなね?
だから、次のキャラではまっさきに住民情報を登録することをおすすめするよ。
それと、してない時はそれを悟られないこと。慣れれば登録しなくても案外いける、ばれなければね」
口で言えば伝わるわ!
刺さないで教えろよ!
楽しそうにべらべらとペラを回しやがって!
そういいたくとも、口から溢れるのは言葉ではなく。
ああ、ちくしょう。さっきのは苦笑じゃあ無くて、笑いをこらえてやがったんだな!
今更それに気がついたところで、もうどうしようもない。
もう一度刺され、今度は捻じり抜かれる。
感じたことのない、痛み。それでも、どこか冷静さがあるのは仕様なんだろうか。装束から、短いズボンまでを朱が染めていくのがわかる。わかりたくないけどわかる。
唐突過ぎて、痛みだけしか感じられないだけなのだろうか。それとも痛み以外の感情を取り乱しすぎないように制御でもされているのか? そんなわけはないか、さすがに。痛いのに少しだけそんなことを考える自分に苦笑しそうになる。
視界が歪んでいく。きっと、終わりが近いのだろう。
「じゃないと、遊びとかでこうして殺されちゃうからねー愉快犯とかにね」
うっさいわ。
そう思ったのを最後に、もう何も考えられなくなった。
※ 貴方はプレイヤーにナイフで刺されて死亡しました。
※ プレイヤーメッセージ『勉強になったね! やったね! あと、なんで下は短パンなのに上が忍者装束だったの……?』
そして、またここに舞い戻ってきた。
るらぎったな!僕のぎぼちをるらぎったなぁ!
優しい人と思ったら大ファンブルだよ!
一日で何回殺すつもりなんだ、このRPGは。君と殺し合うRPGとでも言いたいのか。一方的だぞ。むしろ僕が強制的に生まれ変わるRPGか。
RPG? ロールプレイングゲームなのか大体。
ゲームと僕もあの野郎も表現した、その根底には、今も世に増え続けているVRMMORPGというものが基盤になっているといっていいだろう。
しかしもって、運営はRPGやら、RPGとは一度も明言していない。むしろ、何故かゲームという単語すら使わない。ゲームだろうがよ、意地はるなよぉ。
あくまで運営は『シミュレーション』としか言わない。
あれか、RPGなりそういうゲームじゃないから、そういうゲーム的な要素があったとして、その表現に文句があっても知らねぇよってことなのか……屁理屈じゃないでしょうか。屁理屈ですよ。おかしいですよ! 運営さん!
そういや、情報が限りなく少ない公式を覗いても、MMOとは銘打っても、MMORPGとは銘打たれては居ない。
MMOといえば、今の時代もMMORPG的なものをテンプレで思い浮かべるから、僕自身そう思っていたしほかもそう考える人が多い世の中ということ自体が運営の思う壺だったとうことか。
MMOってマッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインだから、その辺、そういうRPGというか、既存のゲームと似たようなもんだろとか勘違いした僕達が悪いとでもいいたいのだろうか。
いいそうな気がする、ここの運営。
ロールプレイはどういったってロールプレイ、ゲームはゲームだと思うんだがなぁ……理不尽なだけで他とその辺かわんないじゃんと思う。しかしもはや、運営に良心を期待していない僕がいる。さっき、ちょっと意見を送ってみたら即座に返信がきたし。『仕様でーす』って。仕様の犠牲になってしまった。
どうせ文句いっても変わらないんだろうから、これ以上いちいち苦情を出す気はない。出す気力がないともいう。
シミュレーションだから、しっかりもう一つの現実として、もう一人の自分と思ってやりなさいよ、ってことなのだろうか。だったらんなゲーム要素つけるなよ!
いちいちMMORPGやRPG自体の定義云々をいう気はないとはいえ、はっきり言って性格悪いだろう。
だいたい、世界の一員です的サムシングだというのであれば、じゃあ消滅させんなよって話なんだけど。
一員だから死んだらやっぱり終わりですっていいたいのか。
でもそれじゃあ早すぎるので、新しい自分としてもう一度頑張ってくださーいってことなのか。
普通の人間は外見だけ変えて復活なんてできねーよ!
想像通りでもそうでなくても、やっぱりむちゃくちゃだろ運営。
絶対あれだよ、『頑張ってくださーい』の時に表情がつくとしたら嘲笑フェイスだと思うよ。
客を無くすことを恐れないスタイル。恐ろしい。
どうしてそれで運営できるんだ。もっと大事にしてください。運営さん、どうして街中で血が流れるんだ。
ここまでほとんど僕の想像に過ぎないのだけども。間違っていたらごめんよ運営。でもやっぱりこれMMORPG的としかいえない感じだと思う。
憤慨の踊りも疲れた。
そういえば、プレイヤーに殺された場合は名前がでないのか?
増えて三つになったお墓も一応確認しよう。
『死ねば、人生は終わりである。
オムライス ここに眠る。
☓☓☓☓年☓月☓日 町中にて、プレイヤー(隠蔽)に刺されて死亡』
あ、こっちには隠蔽って書いてある。
隠蔽されているのか。そういう方法もあるっていうことだな。名前を知らなかったから、という可能性もあるか?
殺されたのは憤慨に値するが、情報だけは役に立っている。嘘はついていないだろう、多分。
ゴブリンとかもいるようだ。戦うまでもなく死亡している辺、救いようがない。こっちのゴブリンが僕の想像するゴブリンフェイス、ゴブリンボディなのかすらわからない。
せっかく、溶けこむために、個性を消して忍者にしたというのに……ごめんよ、オムライス。顔を隠したナイスガイ、君のことは、きっとすぐ忘れる。
そういえば、始めて長く痛みを感じて死亡したな。
思ったほどに影響は無い。ただちに影響は無いと思えるレベル。
どういう技術を使っているんだろうか?
思い出すと、今でもぞっとする痛みや感覚、感触だったのに。
痛みさえも制限されていないと思える。プレイヤーは全員マゾなんだろうか。それとも、制限方法があるのか?
このリアルさが、技術が進歩した結果か。
前なら、これでショック死したり後遺症が出てもおかしくなかったんだろうな。
危険度の体験ということで、昔やらされたVR体験の時とは大きく違う。
その時は、痛みの再現だったが、仮想で傷つけられた腕が数カ月近く痛んだものだ。実際にはもちろん傷つけられていないはずなのに、何故か仮想で傷つけられたところに赤い傷跡のような線が走っていたしな。確か。そんな感じだったはず。
今、仮想で殺された僕にその痛みなど無い。あるのは記憶だけだ。
これが当たり前の時代になれば、もっと楽しくゲームができるようになるだろうか。
そうなるまで生きていたいものである。
そんなに長い時間はプレイしていないはずなのに、無性に疲れた。
ファンタジー世界を、いつになったらしっかり体験できるのだろうか。
今のところ、明らかにキャラクター作成時間のほうが多い。
今日はここまでにして、また明日やることにしよう。上履きに詰めるノリも用意しなければならないことだし。
お腹が空いた。
晩御飯は、あらびきウィンナー入りのオムライスにしよう。そうしよう。
初めてだからって調子に乗って初日だけ更新してエタるパティーンに突入している気がする……! 感じる……! エターナルの波動的なそれを……!
基本書くの遅い、怠けたうさぎにすらどう頑張っても勝てない亀のはずなのに、今日はちょっと調子が出ただけの話なのだけど。
書けたけど内容はおさっしという状態なのがいたたまれない。