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秋の少し遅めの依頼者。

 なぜこんなアルバイトを始めたのだろう。

「はぁ」

 今日何度目かわからないため息と共に思う。

 手は止めててはいないもののもとから会話が発生しないので、静かな部屋に私のため息は響いた。

 ため息が聞こえたのか見えない目をこちらに向けうさんくさそうな微笑みと共に言葉を発する。

「勤務態度最悪ですね」

「そーすっね」

 つい、適当な敬語で返事を返す。そうすると彼も私同様ため息をつく。

 高額なバイト料金だったために始めたものの、厄介な仕事しか持ち込まれない探偵家業とは。そのせいで何度面倒なことになったかと思う。

 夢探偵事務所ゆめたんていじむしょ。それがこの探偵事務所の名前だ。


 雇い主の水白(みずしろ)はいつも通りの細い目を向け、笑っているのか、はたまた私が中二病を煩っているのであれば黒い笑みと比喩するのかよくわからない表情をしている。

 きっと後者で、真面目にしないと減給すんぞ。そういいたいのだろう。別に目が悪い訳でもないのに水白の周りに黒いオーラ的な物が見える。明らかにいい事があって微笑んでる様には見えないし。

 真面目にやってるのにな。そう考えつつ目の前のパソコンの画面を見る。地味な、そして面白味のないホームページ。無論他者のものではなく自分のいるここ。夢探偵事務所のホームページである。

 先週そこにちょこちょこっと仕掛けをしたところアクセス数が増えた。そして水白からのお説教も増えたのである。

 現在はその仕掛けを直し、もとのホームページに直してる最中なのだ。


 仕掛けと言ってもとてもシンプルな物である。一カ所入力可能なところを置きなぞなぞを探して答えを入力してね。そう言った文をつけただけである。

 なぞなぞは白い文字で書いて反転しないと見れない様にし、答えがわかった人、または入力だけした人のページを新たに作り、答えがわかった人にはこの夢探偵の住所を張ったリンクにとぶ。わからなかった人にはヒントをかいた。

 先週から問題を毎日変えていたらさすがに水白にばれた。ホームページ更新は私の仕事の一つとして与えられていたがさすがに頻度が多すぎて気づかれたのである。


「今日も暇っすね」

「うーんそうだね。でも何で『も』を強調するのかな? 後、君にはやることがあるよね、手を止めないでよ」

「『いつも』っていってやらない気遣いもわからないんですか。あと手は止めてませんよ。キーボードを打つ音が聞こえるでしょ。もしかして耳悪くなっちゃいましたか?」

 私の言葉は正しい。手も止めてないし、いつも暇なのは事実だ。

 ここで働き始めてもうすぐ一年だが依頼者は八人くらいだ。いや、正確には三十人くらいいたが水白が依頼者と認めたのは八人だ。

 夢探偵事務所。その名の通り夢を専門に扱う事務所。夢で見た事無いところに行った、見た事無い人にあった。またあの夢を見た。そんな事が主な行動理由だ。そんなもん夢占い師と何が違うのかと考えるが違う物は違うのだ。

 夢占いは主になぜこんな夢を見たか、この夢は何を暗示しているか。夢探偵事務所は夢で見た物は何か、現実にあるのか、夢に出てきた人は誰なのか。そういた物を調べるのである。

 だが夢というのはあやふやだ。こうじゃありませんでしたかと問われればそうだったかもとなるし。数時間経てば忘れているのだから。

「本当なんでこの探偵事務所つぶれないんすか」

「……さぁ?」

 疑問を口にした物のその疑問にたいして答えるべき人物が首を傾げるという状況はこんなにもイライラする物なのか。


 少しの間言い合いを終えた後ちょうど私の作業も終わった。伸びをしていると水白が珍しく目を開いてるのを見た。

「なんで目を開いてるんすか」

「え、何で? 俺の目はいつも開いてるよ」

「訂正します。何でいつも目が細くなってるんすか」

「訂正しなくていいよ。すごくイラっときたし。後細いのはまぶしいから」

 そう言われて外を見る。まだ六時だというのに日が暮れて暗くなっていた。秋だからか。今度焼き芋でもこいつに買ってきてやろうかと考える。

「去年は働き初めてすぐだったからこんなに遅くまで働いてなかったもんね。それにまだ一応女子高生だもんね。暗くなる前に帰らせてたもん」

 俺がまぶしいの無理って知らなく無理無いよ。そういつもとは違う優しく言う。正直何か気持ち悪い。

「……あんたって目が開くと別人格でも目覚めるんですか」

「何そのよくわからない設定。無いよ」

「それと今気づいたんですけど何で夜になるにつれて口調が気さくになっていくんすか。キモいんすけど」

「酷いな。後それはしらないよ」

「後、女子高生だかなんだか知りませんけど気を使わなくて大丈夫すから。六時で遅いってどこの小学生すか。今時小学生でも七時までオッケーなところ多いっすよ」

 そう言うと何やら疑ってる顔をする。水白はどこか常識が抜けていると思う。それに女子高生などと私のことを言うがこの姿を見て女子高生とわかるのは早々いないだろう。


 水白と並ぶとつい忘れるが私の身長は百七十は下らない。頭一個分違う水白の浸透が百八十以上という高身長野郎というのは何かいらつく話だ。顔立ちも中世的で化粧をしないと性別を間違われたりするのはよくあることだ。髪も長くは無く、陸上部員だったころ邪魔で短くしていた。最近やっと耳が隠れるくらいに成ったというのに。

「あんたって目悪かったりします?」

「いや、いい方だよ。どっちかって言うと君の方が眼鏡してるし悪いんじゃ」

 皮肉だよと言いたいがそんなことを言ったところで何だというのだろう。

「パソコン用の眼鏡すよ」

「あぁ、ブルーライトカットだっけ」

「それっす」

 そんなくだらない会話をしつつ私は着実に帰る準備をする。そして全部鞄に詰め込んだところで水白に挨拶をする。

「じゃ、帰るんで」

「あぁ、じゃあまた明日」

 その会話の後扉を開けると何かにぶつかった。

「うわっと、え、ここもう終わりですか?」


 その声は高くかわいらしい物だ。見上げられた顔は少女らしい顔立ちの高い位置でポニーテイルにした女の子だった。ちょうど胸くらいなので百四十ちょいくらいだろうか。

「……まだやっております」

 ハスキーボイスが聞こえる。誰かの声でもない。私の声だ。あぁ私が男に間違われる原因の一つにあったじゃないか。男みたいな声。

「どうぞ中に」

 そう言って中に入れる。中には水白がこちらを見てどうしたんだとでも言いたげにしていた。

「水白さん依頼者だと思われる方です」

 その言葉を聞くと顔を輝かせる。そしてコホンと咳をわざとらしくして顔をまたあの細い目の何を考えてるのかよくわからない笑みにした。

「どうぞここへ」

 訪れたのは依頼者か、勘違い女か。

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