金髪令嬢と南瓜女中
前の二話を統合しました。
ようやくヒロイン登場です。
ある日のこと、俺は宿から程近い公園に訪れていた。
「…………ぶふぉぉぁ」
煙草の煙を多量に吸い込み、一気に吐き出すと一瞬で視界が薄白く染まっていく。
煙のカーテンの向こうでは母親に連れられる子供、散歩に精を出すジィさん(俺よか年下だが)、昼間っから酒を飲むオッサンども、ベンチでイチャコラするアベック等など、多種多様な人間模様が垣間見える。
「………眠ぃ」
公園のベンチにだらしなく座って欠伸を一つ。
昨夜はギンに呼ばれて娼館に顔を出し、一仕事終えて惰眠を貪っていたのだが、部屋の掃除をするから出てけとレイラちゃんに追い出された。
仕事明けのレイラちゃんは容赦がない。
思春期街道爆走中なあのお転婆さんは純情なので、仕方ないといえば仕方ないのだが、もう少し年寄りを労ってくれんだろうか。
腰が痛いんだ、腰が。
「どーやって時間潰すかねぇ………………あん?」
ベンチの背もたれに仰け反ってダラダラと無駄な時間を過ごしていると、逆さまの視界に珍しいものが映った。
「………見ない顔だな。余所モンか?」
その『少女』を見た俺は表面的には平静そのものだったが、その美しさに心は動いた。
流れる金沙を思わせる長い髪。
理知と意志の強さを如実に表す金の瞳。
精巧に創られた人形のように整った顔立ち。
均整の取れた身体を包む白銀の板金鎧が、彼女の力強さを象徴しているようでよく似合っている。
「どこぞの貴族のお嬢ちゃんが、冒険者に憧れでもしたのか?」
それにしては武器らしきものは見当たらない。
しかし防具に関しては遠目に見ただけでも、先日のバカ共の三流装備より遥かに上級の鎧だ。
「襲って下さいって言ってるようなもんだなありゃ」
あんなもんで裏町の方を歩いたら身ぐるみ引っ剥がされること請け合いだ。
表向きは平和で活気のあるガルサの街だが、いいところばかりではない。
表があれば裏もある。
夜になれば物騒な事を考える連中も少なくないのだ。
「ま、俺にゃ関係ねーけど」
あの娘に何かあったところで俺に出来る事はありゃしない。
というか俺に女の子一人助ける度胸を求めること自体間違っている。
ぼーっと見つめていると、その娘は町並みの中へと消えていった。
「………ん?」
そのまましばらくぼーっとしていると、再び見覚えない人物が目に止まった。
先程の騎士然とした少女よりも幾らか小柄で、本格的な縫製のメイド服を着た少女。
しかしその少女は明らかにおかしい点が見て取れた。
「………カボチャ?」
頭にカボチャを載せていたのだ。
正確にはオレンジ色のカボチャで出来たフルフェイスのマスク。カボチャの上にヘッドドレス。
目に丸、鼻に三角、口はギザギザの穴が空いている。
口元は辛うじて見えているが、鼻と目の部分は穴が深いのか、少女の視線がどこを捉えているのか窺い知ることは出来ない。
しかしどうやら困っているらしい事はわかった。
少女は先程から焦った様子でオロオロと周囲を見回している。
「誰かとはぐれたとかか?人攫いに遭わなきゃいいけど」
さっきの金髪令嬢もだが、すこし心配だ。
え、そう思うなら何かしろ?
無理無理、こうやって人目につきやすい所に居ないと俺が売り飛ばされる。
「………」
それにしても、どうにも気になる。
見てくれが奇異なのもそうだが、先程みかけた金髪令嬢さんと繋がりがあるように思えてならない。
主人と従者か何かだろうか。
ま、関係ねーのかも知れないし、俺にゃ関係ねーがね。
「…………腹減った」
そろそろ掃除も終わってるだろうし、帰るか。
よっこらせ、と年寄り臭くベンチから立ち上がる。
見かけない人物二人の存在に後ろ髪を引かれながら、俺は宿への帰路に着く。
…………この時俺は、あの金髪令嬢達と程なくして直接顔を合わせる事になるとは、思っていなかった。
彼女はヒロイン。名前はまだない。
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