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麦わら帽子の青猫亭

 カイから貰った前金を懐にしまい込み、日が落ちかけて薄暗くなった路地を、こそこそと隠れるように宿を目指して歩く。

 流石に一日に二回巻き上げられるのは御免被りたい。

 言いそびれていたが、先程俺がバラバラ死体になっていた理由は金をたかられたからだ。

 この街、ガルサには長いこと住み着いているので、俺が不死者イモータルだというのはジジババから子供まで、街の全ての住民に知れ渡っている。

 同時に俺が物凄く弱い事もだ。

 なので街の不良少年クソガキ共やタチの悪い冒険者連中がしょっちゅう金をたかってくる。

 俺が死なない事をいいことに、ストレス発散も兼ねて痛めつけられるなんてザラ、下手すると再生に丸一日かかることもあったっけな。

 冒険者連中はともかく、ガキ共の倫理観や道徳性が少し心配になる。

 小遣いせびんのは構わねぇけど、人が簡単に死ぬという事を理解出来ているのだろうか。

 ついでに言うと、服代や宿代位は残しといて欲しい、等という甘いことが通じる連中じゃない。

 バラされた俺の身体の側にはすっからかんになった財布が投げ捨てられていた。

 正直なところ、素寒貧になった直後でカイに仕事を頼まれたのは渡りに船だった。


「……っと、やっと着いた…」


 五体満足とは言い難いが、無事に宿に帰り着いた事に安堵する。

 ドアの上では、青い猫が麦わら帽子を尻尾に引っ掛けている姿が書かれた看板が風に揺れている。

 『麦わら帽子の青猫亭』。

 俺がこの街に住み着いてからの定宿だ。

 帰り着いてしまえば、たかってくる連中は寄り付かない。


「……た、ただいま…」


「おかえ…」


 ドアを開ければすぐに食堂となっており、ウェイトレス姿の少女が振り向いて俺を見止め、固まった。

 緑の髪に紫の瞳をした可愛らしい女の子は、俺の姿を見た瞬間鬼になる。


「ビィィィィッッッット!!!!」


「いったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そして持っていたお盆で俺の頭を引っ叩いた。

 頭はやめろぉ!折角くっついた首がもげる!てゆーか首が100度位回った!


「れ、レイラちゃん!今は勘弁してくれ!」


「知らん!怪我したら裏口から入れって言ったでしょ!」


 ねじれた首を戻しながらレイラちゃんをたしなめると、反対方向に殴られる。

 今度は逆側に180度!


「ちょ、ストップ!マジでもげる!飯食ってる連中が居るんだからやめろって!」


「ぐ……うぅぅぅ~…!」


 俺の言葉を聞いたレイラちゃんは理性を取り戻して周囲を見回すと、他の客が苦笑を浮かべていた。

 このやりとりが日常茶飯事なのですっかり慣れたらしい。


「ごめんごめん、治りたての身体にかまけてて忘れてた」


「………次からは気をつけてよ」


 じろりと睨まれ、俺は苦笑しながら頭を掻いた。


「それじゃ俺は着替えてくるから、ジェイクにメシの用意頼んどいて」


「分かった」


 注文を聞いたレイラちゃんはトタトタと慌ただしく厨房に向かう。

 それを見届けた俺はいそいそと自分の部屋がある二階に上がっていった。





「………ふぅ。つっかれたぁ…」


 部屋についた直後、その場にへたり込んでため息をつき、血でべっとりと汚れた服を脱ぎ捨て、ゴミ箱に投げ入れた。あれだけズタボロじゃあもう着ることはない。

 適当な布で身体の汚れを拭き取り、ふと自分の両腕を見る。

 女のように細く白い両腕には、俺を現世に縛り付ける元凶そのものがあった。


「………」


 腕全体をびっしりと彫られた鎖を思わせる意匠の刺青。

 刺青は腕だけに留まらず、背中や胸、足にまで及んでいる。


「………不死者たる証、か」


 これは『聖痕スティグマ』。

 不死者おれが現世に留められる『呪い』だ。

 この証はどんなに優秀な魔導師にも、例え『神』ですら取り除く事は出来ない。

 何せ『神』そのものが俺に縫い付け、この世に押し留めたのだから。


「掛けた本人にも解呪出来ないって、タチの悪い冗談だろ」


 あの野郎かみは本当にいけ好かない。

 何が『選べ』だ、実質選択肢が殆ど存在しない問答だっただろうが。


『ビットぉ!さっさと降りて来なさい!』


「お、はいはーい!」


 考え事の最中、階下からレイラちゃんの声が掛かった。

 学生が母親に急かされる様な心境になりつつ、俺は適当な服に着替えて食堂に降りていった。





「遅い!」


「ごめんごめん」


 両手を腰に当ててお冠なレイラちゃんに詫びを入れながら、俺は席に着く。

 山と盛られたサラダ、ふかふかに焼かれた白パン、綺麗な琥珀色のコンソメスープ、主菜メインはチキンソテー。

 うん、美味そう。


「いっただっきまーす」


 フォークとナイフを手にとって料理を口に運ぶ。

 うん、美味い!


「美味い!相変わらずジェイクのメシは最高だねぇ」


「ありがと」


 そう言ってレイラちゃんは他の客の注文を取りに行く。

 天真爛漫、お転婆さんを絵に描いたようなレイラちゃんは、宿の主人ジェイクの実子にしてこの宿の看板娘だ。

 オヤジのジェイクは娘と違って無口で巌の様な無頼漢だが、料理の腕は一級品。

 因みに昔は冒険者として、魔物と切った張ったを繰り返す豪傑だった。

 それが今や一流料理人(シェフ)なのだから、人間どう転ぶか分からないもんだ。

 閑話休題それはともかく


「ごっそさん」


「お粗末さま」


 パンくず一つ残さず食いつくされた料理の皿をレイラちゃんが回収に来る。

 おっと、忘れねー内に渡しとくか。


「レイラちゃん、はいこれ宿代とメシ代」


「……え?」


 じゃらっと俺は金の入った袋をレイラちゃんに渡す。

 それを手に取ったレイラちゃんは、きょとんとして俺と袋を見比べた。ちょっと面白い。


「……お金、取られなかったの?」


「取られたよー。そりゃもう根こそぎ」


「じゃあなんで」


「仕事が入ったんだよ」


 娼館の前でカイに出くわし、前金を貰った経緯を話す。

 事情を聞いたレイラちゃんの顔が一気に険しくなった。


「……不潔」


「ははは~…これっきゃ稼ぎ方が無いもんでね~」


 赤い顔で軽蔑するレイラちゃんに肩を竦めてみせた。

 花も恥じらう16歳には刺激が強いよねぇ。


「ってな訳で、お仕事行って来ます。レイラちゃん、ジェイクにメシ美味かったって言っといて」


「…………分かった。行ってらっしゃい」


 レイラちゃんの見送りを背に、腹を擦りながら俺は宿を後にした。

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