お嬢様は世間知らず。
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麦わら帽子の青猫亭、裏口にて。
「た、ただいま…」
「このスケコマシ!」
「ぶばっぷ!?」
アルカ嬢とジャコに肩を借りる俺を見た瞬間、鬼と化したレイラちゃんが俺の脳天をフライパンでぶっ叩いた。
泣きっ面に蜂!
唐突な出来事にアルカ嬢もジャコも俺を抱えたままぎょっとした。
「帰ってきて早々女の子二人侍らせて、しかもウチに連れてくるなんて何考えてるのよ!」
「ふ、不可抗力です…」
がっくりと項垂れながらレイラちゃんの罵倒を一身に受ける。
ホントに容赦無いなぁ…。
「あ、あの…」
「何!?」
アルカ嬢が怖ず怖ずと声をかけると、レイラちゃんはクワッと彼女を睨みつけた。
あまりの迫力にアルカ嬢は少し仰け反る。
「事情は後ほど説明しますから、まずは彼に食事を…」
「……………………」
ビビりながらもアルカ嬢は俺に目を向けつつ嘆願する。
アルカ嬢の言葉にレイラちゃんは一度汚物を見るような目で俺に視線を向け、ため息をついた。
「………わかったわよ」
「………ジェエエェェイク。……ミートスパとバーガーとコーヒー……超大盛りで…」
「…あいよ。また派手にやられたみたいだな」
うるせぇ。
アルカ嬢達は俺を席に着かせ、俺の向かい側に腰を下ろす。
「あんたらも何か頼みなよ。何頼んでも美味いから」
「じゃあ、彼と同じものを。量は普通で」
「私もアルカ様と同じでいいです」
「…あいよ」
俺達の注文を聞いてジェイクはそそくさと厨房に入る。
俺はテーブルに突っ伏したまま顔だけをアルカ嬢達に向けた。
「あー…ジャコって言ったっけ?さっきはああ言ったけど、正直助かった。ありがとう」
「……いえ、結局は怪我をさせてしまいましたから」
俺がジャコに礼を述べると、彼女は申し訳無さそうに頭を下げる。
気にする必要は無いんだがねぇ。実質被害ないし。
「んで、アルカ嬢」
「何かしら?」
俺がジャコからアルカ嬢に視線を移すと、彼女は小首を傾げた。
「あんたもジャコと『同じ』なのか?」
吸血種という言葉を濁して問う。
普通の人類と比べて吸血種の総数はまだまだ少ない。
その上彼ら特有の血晶魔法や、長い寿命など、常人と異なる生態の吸血種は人間から迫害対象と見られている。
それを回避するために吸血種は人間たちから自らの正体を悟られないようにするらしい。
「…気を使ってくれてありがとう。そう、私もジャコと同じよ」
俺の問いにアルカ嬢はコクリと頷いた。
「どういたしまして。……んで、あんたらはなんでこの街に?住み着いてる俺が言うのもアレだが、ここには別に珍しいモンはありゃしないぞ?」
「私に言わせればあんたが一番珍しいけどね」
「あだっ」
どこから出したのやら、レイラちゃんが俺の後頭部をハリセンですぱーんとはたいた。
振り向くと左手にハリセン、右手には料理の乗ったトレーが器用に乗っかっている。
「はい、ミートスパとバーガーとコーヒー。ビットは超大盛り、お連れは普通」
「お、ありがとさん」
かちゃかちゃと皿が俺達の目の前に置かれていく。
俺の前にはマグマの様にソースが掛けられたスパゲティ。まさしく火山。
顔ほどの大きさのバンズにレタスとトマトと分厚いパティが挟まれたハンバーガー。ボクの顔をお食べ。
二人の前にはそれよりも幾分か少なく盛られた同じものだ。
最後にコーヒーの注がれたカップを置いてレイラちゃんはそそくさと去っていった。
「で、だ。あんたらの目的を聞こうと思ったけど………先にメシにしよう。もう限界」
俺の言葉と同時に腹がぐごるるる、と自己主張。
それを見たジャコは呆れたように目を細め、アルカ嬢はクスクスと苦笑した。
「んじゃ。頂きます」
「頂きます」
「い、頂きます…」
3人同時にそう呟き、俺がハンバーガーに手を付ける。
対するアルカ嬢達はフォークを手にとってバーガーの中央に突き刺そうとした。
「ちょっと待った。バーガーはそうやって食うんじゃないよ」
「え?」
アルカ嬢はフォークでバーガーをつつきながら首を傾げる。
むむ、このお嬢様は世間知らずですね。
「こうやって手に持ってかぶりつく。コレがバーガーの一番美味い食い方。…………まぐ」
両手で持ったバーガーに大口を開けてかぶりつく。
柔らかいバンズの先にはシャキシャキのレタスとトマト、分厚いパティから肉汁が溢れ、ピクルスの酸味とブラックペッパーの辛味が全体の味を引き締める。
「…………んまい!」
「ふふっ。本当に美味しそうに食べるのね。じゃあ私も……はむ」
俺に倣ってアルカ嬢が小さな口を大きく開いてバーガーにかぶりつくと、ジャコは目を丸くして主を見た。
「アルカ様、お行儀が…」
「下町のメシに行儀も礼節もありゃしねーよ。いいからあんたも食ってみな」
もさもさとバーガーを食べながらジャコにバーガーを勧める。
「ですが…」
「………んん!おいふぃい!」
「えぇ!?」
礼儀と食欲の狭間に揺れ動くジャコの横でアルカ嬢が歓喜の悲鳴を上げる。
「………アルカ様…うぅ、はむ!」
芳醇な香りに負けたのか、意を決してジャコもバーガーにかぶりついた。
「…ごくん…美味しい」
「だろー?」
バーガーの味に感動するジャコに俺はニカリと笑った。
「………げっふぅ。あぁぁぁ、食ったぁ食ったぁ」
っと、ゲップは流石に失礼か。
腹を擦って満腹の余韻に浸る俺を見てアルカ嬢は三度クスクスと笑う。
よく笑う娘だな。
「さて、話を戻そう。アルカ嬢、あんたらは何のためにこの街に?」
「……そうねぇ。何のために、と訊かれれば、どう言えば良いのかしら?」
?
いまいち要領を得ない返答に俺は首を傾げる。
「実はね、私達は追われてるの」
「追われてる?誰に?」
俺が問うと、アルカ嬢は少し迷うような仕草を見せる。
………この場で言うのは憚られるって事か。
「……場所を移そう。俺の部屋なら聞き耳を立てる暇人は居ねぇ」
「………ありがとう」
俺達は席を立ち、二階の俺の部屋へと足を運んだ。
バーガーとミートスパは出るのが早くて腹にたまる。
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