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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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暗躍

現代アクションもののタイトルは……そうだな。

仮に、"銃火の遠雷"とでもしておくか。

しかし、現代アメリカに近い設定でいくなら、タイトルは英語表記が望ま……(割愛)



 ミシェルが城の北側から侵入した頃、赤雷は時間をずらして到着する。薪の爆ぜる音が不規則に鳴っていた。正面の入り口はアルシュの手引きにより、門番らが引いている。

 とはいえ、流石に警戒していない訳でもないらしい。遠目ではあるが、城壁に(しつら)えた窓や、屋根の上などで数人の弓兵が睨みを利かせている。ご丁寧にも、彼らの周りには明々と火が灯され、(たか)の目を活かす工夫が凝らしてあった。

 だが(ごみ)溜めでの毎日は、けして無駄ではない。


 見晴らしが良い場所ということは、おのずと限定されるということでもあるからだ。それ即ち射線が通るような位置取りであり、裏を返せば死角に入れば捕捉すらされないということになる。

 訓練を受けた兵士と言えど、駆け回る獲物を仕留めるのは至難の業だ。赤雷に言わせれば、この国のそれなどは所詮的当て。急所を捉える事はまずないだろうと考えていた。真に恐るべきは、卓越した腕前の人間である。能ある鷹は爪を隠す。彼の脳裏にはそんな言葉が浮かんだ。

 一方で、アルシュの手腕は高く評価すべきものだ、とも思ってもいた。


 一介の隊長が兵の配置を変えるなど、そうそう出来るものではない。たとえ口先八丁で誤魔化(ごまか)したとしても、いずれは露見する。そうなってしまえば、怪しまれるからだ。

 持論とそれに伴う推測を織り交ぜ、巧妙に策の穴を隠したのだろう。そもそも、状況とは流動的なもの。場合によっては、咄嗟(とっさ)の機転こそが命運をも左右するのだ。冷静な判断と手腕に、彼は内心舌を巻いていた。


 「いい仕事ぶりじゃねえか。流石は小隊長殿(・・・・)、年季が違うぜ」


 小声で呟くが、彼はすぐに口をつぐんだ。そう遠くない場所で足音が聞こえたのである。全ての兵がアルシュによって動かされている訳ではない。失念してこそいなかったが、彼は急がざるを得なかった。いつ平時と同じように巡回を開始するかは、状態による。更に言えば、不審に思われた時点で退却はおろか、殺害の実行すらままならなくなることも否定出来ないからだ。


 息を殺して覗けば、二人一組で回っている兵士が赤雷に背を向ける格好で歩いていた。薄暗がりの中ではあるものの、当然のように完全武装である。一人は片手にランタンを提げていた。そこまで観察したところで、彼は肝を冷やしながら即座に物陰へと潜り込んだ。


 ──危ねぇ。俺とした事が、とんだ醜態を晒すところだったぜ。


 それこそ赤雷は、発見されてしまったのではないかと思った。束の間、呼吸が乱れてしまうほどだ。

 そも、人間と言えど動物である。無防備なままの背を向けるなど、自殺行為に等しい。だからこそ、なのだろうか。こと戦闘における技術を高い水準で会得(えとく)した者ほど、背後からの視線には(さと)い。それも不思議なことに、後頭部付近を凝視していると大抵の者が振り向くのだ。

 父──もとい、師の言葉がよぎる。彼はそれを痛感していた。


 何故なら、二人の内の一人の鼻先がゆっくりと横を向いたからだ。動きが自然であった為、赤雷も慌てて隠れたのである。勿論、ただ何となくこちらに顔を向けるつもりだったのかも知れない。

 だが、立ち居振舞いは手練れのそれである。体幹のずれは無い上に、利き腕は剣帯から離してすらいない。剣気の類を感じ取り、無意識の内に振り向いた可能性は高いだろう。


 (……恐ろしい奴らだ)


 此処(ここ)に詰めている連中の中に、自分以上の(つか)い手が居ないとも限らない。分からないのは、凄腕(すごうで)で仕官の話がありそうな奴でも平然と狼藉(ろうぜき)を働くことがままあることだ。

 隻腕となった今でも鍛練は欠かさず行っているが、かつて大立ち回りをした頃に立ち返れるかは分からない。刀とは、基本的に諸手(もろて)で扱うものだ。実戦ともなると、(はら)()わり次第では格下にも付け入る隙を与えかねない。


 ──赤雷は(かぶり)を振った。


 「……その時はその時で、捨て駒らしく足掻(あが)くとするか。あれの件も伝えた。何も問題はない」


 ──元より一度は死に損なった身。なればせめて、アルシュらの為ならん。

 命を(なげう)つ心算は毛頭無かったが、彼の意思は強固だ。それは、死に場所を決めるということではなく、帰還の意を(あらわ)にするものだったのである。

 赤雷は、遮蔽(しゃへい)の向こうを彷徨(うろつ)く男たちをやり過ごすべく、思索に(ふけ)った。

剣術とは試斬ではない。

斬ることに拘泥するならば、術理からは外れてしまう。

小手などと侮るなかれ。

努忘れるな。小手に一太刀でも貰えば、勝負の行く末など見えたも同然と心得ることよ。

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