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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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決行

アサシンは朝死んだ(大事なことなので二回言いました)

 七日後、町には夜の帳が降りていた。領主の居城は、窓から漏れる(ぼう)とした頼りない光をこぼす。賑わい、(かがり)火が焚かれる城下とは対照的だ。宵闇に同化するような佇まいは、そこが抱える後ろ暗さを示唆(しさ)している感さえある。

 周囲は城壁に覆われており、目測でも高さ五間に及ぶと見られた。向かって南側に正門があり、正規の出入り口となるのはここだけだ。ただ、北側にも門はあった。


 過去形なのは、盗賊や暗殺者が侵入することを危惧し、改修工事が行われたからだ。よく見れば、北側の門が後から塞がれていることが分かるだろう。これだけ見れば、鉄壁だ。不埒(ふらち)な考えを起こしたとて詮無いことのように映る。だが、アルシュによれば庭での人員はまだ少ない方らしい。当然の結果として城の内部は多数が詰めているだろうが、恐らくは外部に比べれば油断している兵も少なくないと思われた。

 その為か、正門や東西に比べて守備が薄い。完全武装の兵が十余名、哨戒(しょうかい)に当たっている。正門側などはその三倍相当が警戒しているのだ。

 もっとも、こちらの数を最低限にする事で危機感を高めているのだろう。手透きの人間が出れば、それだけ緩みが生ずることを知っていると見えた。


 時を同じくして、北側の城壁に(うごめ)くものがあった。黒い薄手のローブを身に付け、軽快によじ登る。


 ((やぐら)が建っていなくて良かったわ……。さもなきゃいい的になってる所よ)


 ──ミシェルである。

 町を大きく迂回(うかい)し、北西に広がる森林地帯から侵入するというものだった。数日間潜入したアルシュの手引きにより、兵が展開しているのは町や城の周辺のみだと言うことは分かっていたのだ。

 とはいえ、全く警戒されていない訳ではない。松明(たいまつ)を明かり取りに、城壁の周りを兵士が二人一組で巡回している。彼女が登ることが出来るのは、彼らの注意を()らした為だ。なんのことはない、石ころで音を立て、そちらへと向かわせたのである。


 実に単純ではあるが、不審感を与えない点では非常に有効だ。投げナイフの場合、敵襲を予感させかねない。それが付け入る隙を減らすという懸念もあるからだ。敵を殺してしまってもいけない。

 遅かれ早かれ、侵入が露見する危険がある。地味な行動を取るより他に無い現状では、それが(かせ)となってしまう。アルシュや赤雷の暗躍にも多大な支障が出ることだろう。

 ──始末出来れば楽なのだけど。


 さすがにミシェルは、そう思わずにいられなかった。全て殺し尽くしてしまえれば問題ないが、実現することはない妄想である

。如何なる業物と言えど、血糊(ちのり)が付けば切れ味は落ちるし刃こぼれもする。見付かる可能性も零ではないからだ。

 荒唐無稽な発案に苦笑いが漏れる。



 「毎日平和な所為(せい)で呆けているのかしら。何にしても、少しはやり易いようね」


 ミシェルは敢えて強気な言葉を漏らした。自身への叱咤(しった)だ。

 間抜けな見張りを出し抜き、ミシェルは壁の登頂部に鍵縄を掛けて下の様子を(うかが)う。

 すると、丁度交替の時間なのか、中庭で簡単ながら引き継ぎが行われ、持ち場を離れる。彼らの視界に入り込まないよう隈無く観察した後、下がり──そして安全な高さと見るや、壁を蹴って急降下した。

 一瞬風を切り、大地を踏み締めた両足に衝撃が走る。(こずえ)に触れでもしないかと思っていたが、降り立った音こそが彼女の肝を冷した。夜と言うこともあり、響いたことも考えられる。不安ながら庭の茂みで息を殺すが、索敵をする気配はない。

 或いはミシェルの緊張が、過敏に取らせたのかも知れなかった。それと知らず、冷静で居られなかったのは疑いようもない。


 枝葉の隙間から、おそるおそる様子を窺ったが、索敵する様子は無かった。気付かれていないようである。鎧や武装の放つ鉄臭ささえもが漂う気がした。


 ──守りが手薄な内に先へ進んだ方が良さそうね。


 素早く移動しつつ、彼女は最善を尽くさんが為に感覚を研ぎ澄ませる。その目は(よど)んでこそいるが、覇気に満ちた獣もかくやの気概に溢れていた。

 失敗は許されない、その意識の表れだ。

 綱渡りの心境に膝を折らぬよう、彼女は己を奮い起たせる。影のように這う姿を捉える者は誰一人としてなかった。

私が後書きを書いたとて、それは単なる端書きにしか過ぎんよ。

故に、あらゆるものをガチャーン、てする(台無し感半端無い)

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