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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
93/120

親心

*今回──も──、戦闘シーンはありません。

心理描写マシマシ(──のつもり)です!

 「つまり、君は無策にも町中を駆けずり回った挙げ句、そこの赤雷(ろくでなし)に助けられた、と」


 男の死体を始末し、作戦の段取りをした後、アルシュらは宿に集合していた。ミシェルは肩身の狭い思いをしているようで、椅子に座って俯いている。対面に腰掛けたアルシュを見ようともしない。

 赤雷はと言えば、不測の事態に備え、扉付近で見張り役だ。得物に手を当て、襲撃に備えていた。ただ、彼が罵倒されても黙りを決め込んでいるのは、下手な横槍は火に油だと心得ているからである。

 元より仏頂面である赤雷は兎も角として、アルシュの顔が一番険しい。気狂(きちが)いに映る言動もあるが、基本的には温厚な気質で怒ることは滅多にない。しかし、今では青筋を浮かべており、今にも怒鳴り散らさんばかりの迫力を伴っていた。


 「……で、でも、あたしは自分でも出来ることをしようと」


 「──その結果がこれ(・・)じゃ。師にも教わらなんだか? 『猪武者は早晩死ぬ』、とな」


 容赦のない追及に、強気なミシェルも閉口してしまう。彼女とアルシュの持つ圧力には、決定的な差違がある。強いて言うならば、場数の違いだろうか。

 端から見れば娘を叱る父にしては、少々やり過ぎに映るかも知れない。だが、追跡の後に彼女は疲労困憊(こんぱい)で動きが鈍っていた。そうであるなら、この結果も致し方ない。寧ろ、それで済んで幸運だとすら言える。なぜなら、直後は走ることが出来なかったらしく、赤雷からしてみても由々しき事態だと思われたからだ。


 赤雷としては、貢献しようとする彼女の心意気を素直に称賛していた。使命感は、即ち向上心の顕れであり、自衛能力の成長に直結するからだ。いつまでも目の届くところに居られないからでもある。

 失敗したことを責めるつもりは毛頭無いが、仮にその場で夜警と鉢合わせた場合、拘束されて慰みものになっていただろう。

 ──赤雷は、忌まわしい想像に歯噛みする。


 (年頃の娘を手篭めにするなど、許せるか……!)


 同時にアルシュへ物申したい気持ちが膨らむが、彼も自身と同じだろうと思うと何も言えなかった。

 つまるところそれは、彼はミシェルを本当に娘として愛しているからこそである。我が子が危険な目に遭うことを望むはずもない。赤雷としても、領主を仕留める際にはそれとなく支援をするつもりでいた。


 「本当に分かっておるのか、君はッ!?」


 アルシュがとうとうがなり(・・・)、見かねた赤雷が割って入る。


 「先生、もういいだろ。こんな時に仲間割れしてる場合でもねえんだぜ」


 「あぁ、そうじゃろうとも。然りとて、この問題を先送りにするわけにもいくまい。さもなくば、儂らの中から死人が出るぞ」


 彼の目は、突出した行動を取ったミシェルに向いている。ミシェルは一瞬、赤雷を驚愕の眼差しで見るや、再度下を向き、膝の上で握り拳を震わせ始めた。


 ──そう言うことか。

 赤雷は、彼の怒り。その源に心当たりがあった。アルシュは人を治しもするし、殺し(壊し)もする。稼業として命を救う一方、力及ばず死なせた患者も数多(あまた)だ。掃除屋としても働いているのだから、後者の方が圧倒的に多いだろう。


 何より、間近で人の死を見てきたのだ。中には気に掛けた患者が居たとも話していた。飄々(ひょうひょう)とした彼が時折寂しげな表情を見せるのは、そこから来ている可能性がある。


 「何よ、あたしを憐れむような顔して……! あんたのそう言うところ、ムカつくのよ!」


 「……っ。ミシェル君、君という奴ばらは!」


 アルシュがミシェルの胸倉を掴んで引き立たせる。彼女の食って掛かるような態度を、反省の色無しと見たのか、凄まじい形相だ。

 日頃、赤雷を()()ろす彼だが、仕事となれば別である。失敗すれば死が待ち受けることも相まってか、気が張っていたのだろう。彼の激情は、ますます燃え盛った。

 そんな時である。


 「──待て!」


 赤雷がアルシュの手を振りほどいた。彼は赤雷も同じ心境だと信じて疑わなかったのか、一転して驚愕した顔へと変じる。


 「しかし赤雷……」


 「いいんだ、俺が悪かった。ミシェル(こいつ)も役に立ちたかったんだろう。無意識に女だからと(ないがし)ろにしたことも、否定は出来んさ」


 ミシェルは円卓を見つめたまま無言を貫いている。


 「ほら見ろ。ミシェルはこんなに反省してる。身勝手な行動は()められたもんじゃねえけどよ、先生もそう怒ってやるな」


 今度はアルシュが沈黙する番だった。当初こそ、成長したミシェルにやれ片言だの異邦人だのと罵倒され、眉根を寄せていた男こそが赤雷だ。

 口より先に手が出るような無頼漢が、ぶっきらぼうながらに仲裁じみたことを始めたのだから無理もない。しかもミシェルが押し黙ったのは恐らく、(かば)われたことが屈辱的だからである。赤雷もそれを気付いた上で宣っているのだ。自身を悪に仕立て上げ、どうにか円満な解決へ持っていけないかと考えた末の言動であろう。アルシュは、そう確信した。


 「(あい)分かった。お主に免じて許そう。じゃが、努々(ゆめゆめ)忘れるなミシェル君。時には死んだ方が生ぬるいとさえ思える──そんな仕打ちがあると言う事を、な」


 優しげな微笑を取り戻したアルシュを確認し、赤雷は退出する。

 彼の気配が感じられなくなった頃、彼女の瞳から涙がこぼれた。


 「あいつ、あたしに『お前はもう何もするな』って言ったのに! 『役立たずは要らない』って、そうやって陰で馬鹿にしてた癖にっ!」


 泣いてすがるミシェルを(なだ)めながらも、アルシュは複雑な気持ちのままである。


 (お互い、根の深いことじゃて。否、赤雷はそうでもないようじゃが、この子の不満は如何ともし難い。きっと、これから先幾ら寄り添おうとも、和解など望めんじゃろうな……)


 反省はしているようだが、彼女が赤雷に対して向ける感情はまるで親の仇でも見るようなものだ。その日の晩、詮無いことと知りつつも、彼は同じような事態に陥ることを深く憂いてしまうのだった。

 ──人と人とが真に分かり合えることなぞ、そうそうない。

 彼は持論を(もっ)てして、そう締めくくった。

休憩時間中、叱責するシーンが明瞭にイメージ出来た上に筆もよく乗ったので連投(笑)

もう内偵シーンとか要らないんじゃないかなぁ。


……考え中ですけど(笑)

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