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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
一章 遠い日の誓い
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戦闘巧者

戦闘描写入りまーす。

闖入者ちんにゅうしゃでも良かったんですが、安直ですかね?

なので、ちょっと変えてこのシーンは戦闘巧者としました。


後、今更ですが執筆って難しいです。

悲しさとか楽しさを出せれば良いのですが……。


  ──あぁ、疲れた。

 言葉にこそ出さないが、男は酷く憔悴しょうすいしていた。足取りは重く、歩を進めるというよりは引きっているといった方が適当だ。

 手に握る得物は短弓である。

  先の戦闘で標的の護衛要員を一人残らず無力化したは良いが、そこに至るまでが苦行であった。

  頭を失って浮き足立つかと思いきや、意外にも護衛は散開し迎撃の様相をみせた。この時、男の方にも敵が接近しつつあった。他も同じ様に接敵しつつある状況であったが為、これにはこちらの指揮も慌てて単騎集中攻撃の号令を下す。

  これは言葉だけを捉えてみれば、『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』ような指令であったが、あちらとは違い大わらわで迎撃姿勢をとったこちらにとってはかえって有利に働いた。

 つば迫り合いとなれば弓兵が援護し、弓兵が危機に陥れば剣士が割って入る、そうでなくとも弓兵が単騎に集中的に狙撃を行う等、互いを補い合う戦法に落ち着いた。

 結果、寡兵で多勢に敵う筈もなく、特に苦もなく被害も微小に留まり殲滅せんめつは完了した。

  これこそがソレイユの感じた戦闘が長引かなかった違和感の正体であった。

 しかし、男達は数では勝っていたが特に弓兵等は体力面で消耗が大きかった。

  狙撃、周囲への気配り、自身の安全確保等。実に多岐に渡る思考と判断を同時に判断し、行動に起こしていた。それでも常に命を脅かされていたのは、相手も死物狂いだったからこそだろう。事実、最も剣士の近くだった彼の頬を、一体何度剣が擦過していったことか。


 (まぁ、でもそれも済んだ事か……)


 今は助かったこの命に最大限の感謝をしよう。

  そこでふと、男は思い出す。この後に待つ饗宴きょうえんを。


 (そうだ、この後は待ちに待った“お楽しみ”だったんだ。 ふふふふふ……)


 男が黒い悦びに浸る。疲れなど何処かへと吹き飛んだ様だ。

 しかし、五十メートル程進んだ所で異様なモノを目撃する。


  「ん…………なっ!?」


  そこには地獄と呼ぶに相応しい、残虐の限りを尽くされた光景が広がっていた。

 ある者は桃色のはらわたをだらしなく垂らしながら事切れていた。

  またある者は手足や耳などが欠損。酷いものになると首から上が無いなど、見るに堪えないむたごらしい最期を迎えていた。

  その全てに共通するのは、一面に広がる鮮やかながらもなまめかしく、そして何よりも禍々しいあかの海。朱一色の塗料をぶちまけた様な、凶行の痕跡である。



 「おい、誰か!? 誰か居ないのか!?」


  声を掛けて駆け寄るも、既にその場の者達は物言わぬむくろと成り果てていた。


 「……う、ぅう…………」


  ──否、一人が息を吹き返す。

 顔立ちからするに別動中の者であるらしかった。

 上体を緩やかに起こし、声を掛ける。


 「おい、しっかりしろ!」


  息を吹き返しこそしたが、息も絶え絶えに男はゆっくりと口を開く。


 「ひ……ああ、あんたか……」


  その顔や装備はほぼ全て朱に染まり、てらてらといやらしく光沢を放つ。鎖骨付近に刀傷が走り、腹部にも長く鋭い切り口が広がっている。その様子だけで、襲撃が如何に苛烈を極めたものか容易に受け取れる。

 男から看る分には、創部の程度が大まかにしか判別できない。だが、致命的であろうことだけは理解できた。治療の施しようがないのだから、目の前の男の末路は一つしかないのである。

  頭が冷静さを取り戻してくる。吐き気はようやく堪えたが、周りが見えるにつれて思考もまとまってくる。


 「どうした、誰にやられた?」


 真っ先に浮かんだ考えを実行に移す。それは必要な情報を聞き出しにかかることだ。

 もしかすると騎士団にでも捕捉されたのかもしれない。仮にそうだとすると、もたついては居られない。

 だが、返ってきた答えは芳しくなかった。

 瀕死の男は詰まりながらも言葉を紡ぐ。


 「分から、ない。 俺たち、は……ここ、で連絡を受けて、移動する、ところだった。 ほぼ全員、捕縛して……男連中の始末を、終えたから、だ」


 つまり、ここで他の別動隊と合流したのだろう。だが、そうしている間に襲撃された、というのが事の顛末てんまつということだ。

 言われて見れば、見張りの顔ぶれが全員揃そろっている。その数にも不足はない。その数六人。間違いなく全員が、ここで何かしらの騒動に巻き込まれた事になる。

 しかし、腑に落ちない点が有る。

 血液はほぼ酸化しておらず、黒く変色していない様子である。つまり、それが示すこととはさほど時間が経過してはいない事だ。

 ここへ到達する前に戦闘音がしていたとするならば、耳に入る筈なのだ。それが剣戟であるならば尚更だ。それが聞こえもしないのは可笑おかしい。

 加えてもう一点有る。

 もし騎士団ならば──なぜ皆殺しにしたのかという点だ。

 そもそもここに居るのは別動中の人間の全てである。だというのに、誰一人として例外なくこの場に転がっていたのである。

 騎士で有るなら彼等を捕縛するだろうし、戦闘行動となっても生存者を確保するだろう。情報を聞き出す上で、それはほぼ必須な選択肢なのだから。


 (──つまり、何かしら殺す理由が有るのか? いや、それにしたってこれは……!?)


 男はその事実に行き当たり、薄ら寒さを感じる。

 つまり下手人は“何ら大きな騒ぎ一つも起こさずにこの惨状を作り出した”ということだからである。そして、恐らくはここにいる別働隊の人間か、彼ら全員を狙っているだろうことが感じられる。


 (……獣、か? いや、それにしては遺骸も損壊具合は低いし、騒ぎになるはず……!)


 騒ぎを起こすこともなく、この状況を作り出せる獣など聞いたこともない。

 ──人間だろう。

 男はそう仮定すると、移動しようとする。

 そこで、「待て」と止められる。

 怪訝けげんに首を傾げる男に、彼は静かに告げる。


 「気を付けろ、アレは恐らく人じゃ……ない」


 「おい、どういう事なんだ。 それはどういう意味なんだ? ……おい!?」


 とうとう男は目を剥いたまま事切れてしまった。申し訳程度の鎮魂を願い、目を閉じる。


 (なんて事だ、これは明らかな異常だぞ……。皆に知らせるべき──っ!!)


 そこで男は視線を感じ、戦闘体勢をとる。

 それもほんの一瞬で、それこそ気のせいだと思う程些細なものだ。

 もしかすると、この惨状を視たことで居もしない化生けしょうの存在を意識しているかも知れない。弓と短剣をしまい、そう結論付ける。


 (……気のせいか? 疲れてるのかもな……)


 しかし、気のせい等では断じてなかった。

 視線のぬしは、地上十メートル以上はあろうかという木の上から身を投げ出した所である。

 そして自ら身を投げ出して、そのまま抜き打ちの姿勢に入る。

 ところが対象の人物は移動の為に動き、不意討ちは彼自身の自滅で幕引きかと思われた。

 だが、その者は違った。

 風圧のみならず、腰の動きと全身の体動を駆使し、さながら稲妻の様に迫る。


 襲撃した男の唯一の誤算は、襲撃対象となる男の勘が存外に鋭かった事か。

 弓兵である男は、転瞬して短剣で護身を図る。


 「……くっ」


 しかし、拮抗と邂逅かいこうは一瞬。

 襲撃者との(つば)競り合いは、得物の破砕に因り終幕。

 だが、それだけでは済まなかった。

 鋭い呼気と共に蹴りを見舞われ、男は咄嗟(とっさ)の事に反応すら許されずに弾け飛ぶ。


 「っ……が」


 木の幹で背部を強打し、息が詰まるも辺りを見回す。

 既にそこに男の姿はなかった。


 (黒い外套がいとう姿の男だ……? あんな男は知らんぞ)


 男はコートらしき物を羽織り、加えて黒一色の外套姿である事がわかった。しかし、それだけだ。あの男との因縁など無いし、そもそもその姿形に心当たりすらなかった。


 「くそっ! 何だってこんな事に──ぐあ!?」


 悪態を吐くのも束の間、男の大腿部に激しい痛みが走る。それと同時に何かが凄まじい速度で黒い何かが横を通過。

 それが男であると判断するのに数秒を要した。


 男はその間も執拗しつように攻撃を繰り出し、迎撃する頃には風となって去る。

 ある時は男の下腹部を、ある時は脇腹、肩口、果ては背部まで狙い澄まし、一撃を加えて行く。

 それらの攻撃を繰り出しつつも、男に手出しすらさせずに切り裂いていく。

 何よりもその行動に遊びはなく、一手一手を潰しに来る冷静さと冷酷さを備えている様に思えた。現に、両腕の腱は断ち切られてしまっている。

 立つのもやっとの態勢で踏ん張るが、何処となく自身の行く末をそれとなく知る。


 「くそ、死にたかねぇんだよ、俺は!」


 やけっぱちな男が予備のナイフを構えて叫び、


 「残念だな、もう──斬った」


 冷徹なよく通る声がその耳に届く。

 男の視界がぐらりと傾ぎ、倒れ伏す。

 しかし、指一本すら動かせなかった。

 次いで、とてつもない喪失感を感じる。同時に浮遊した感触がある。

 そしてそれは下半身より発せられており、中空で目線を動かすと立ち尽くし、首から先がない自身の姿がそこに映る。

 男は既に背を向けて、一瞥いちべつすら寄越さなかった。


 「──あ」


 「……悪く思うな」


 無慈悲なその言葉を最後に男の意識は途絶え始める。

 ──黒い、雷。

 それが野盗の男の感覚が、完全に途絶える前に想起した言葉であった。

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