戦端 弐
今手抜きと思った人……夜道にはお気を付けて(にっこり)
シエル王国騎士が騎士に追い立てられる中、鬨の声をあげながらスブニールを先頭にアバンツァータの側面を目掛けて突撃して行く。
先駆けはシガールを含めた元傭兵集団であり、新兵はやや遅れて追従していた。
シエル王国側はスブニール、レミーにジルベールなど、馬術に長けた者が騎乗しているのみだ。スブニールらが突出するも、後方の足並みに乱れはない。
絶対の優位を疑わなかったのだろうか、アバンツァータに動揺が走った。
「て、敵襲ーっ!」
「はっ! 何言ってるか分からねえってんだよ!」
シエル王国側は、味方の登場によりアバンツァータを迎撃すべく動き出した。持ちこたえるぞ、という檄は士気が上がったことの証左である。
──そして、スブニールの蛮刀が敵兵を捉え、撫で斬りにした。
「来やがれ侵略者ども! ここを通りたけりゃ、俺らを皆殺しにしてみろってんだ」
大気を揺るがす程の大喝一声。
凄まじい形相でスブニールが吼え、哄笑する。
ともすれば粗暴とも取れる振る舞いだが、そこは元傭兵の頭の面目躍如だ。覇気の篭った、味方を鼓舞する力に満ちていた。
何よりもスブニールと共に戦う、レミーやジルベール。彼らの勇猛さに当てられてか、逃げていた者にも敵を押し返そうという気魄が生まれていた。
新参はその威容に気圧されながらも、迫る敵と怒号で我に返り突撃する。
ところが乱戦の渦中に在って、シガールと騎士との立ち回りには相違があった。スブニールら傭兵の幾人かは、身の丈程もある大剣を持つものの、長剣や槍を得物としている者が殆どだ。
正面から切り結ぶ騎士と、攻撃をいなし押し込まれまいとするシガール。そして、堅実ながらも荒々しさの目立つ傭兵の戦い方。
罪悪感を覚えつつも敵を斬り倒す最中、彼はこの違いというものに戸惑っていた。
それはスブニール相手に、模擬戦で敗北したということも少なからずあるだろう。何より、多数を相手取って後れをとらないことに舌を巻いていた。
──これは、俺が求める力。そのひとつなのかも知れない。
刃で心の臓を穿つ感触を覚えながら、彼は着実に騎兵を倒す。
『騎兵は馬が最大の弱点。戦場に卑怯も何もない』
──これは赤雷がかつて話したことだった
シガールは馬上からの一撃を鎬で受け流し、横薙ぎで馬の首を裂く。
更に悲鳴をあげて落馬した騎手の胸を踏み抜き、臓腑を破砕する。
──戦場に善も悪もない。分かっていた、はずなのに……。
返り血を浴びながら、シガールの胸は痛んでいた。
事切れていく兵士達を横目に、俺は結局一人のままなのかも知れない。そう考えていた。
動揺が人を殺すことを知っていた彼は束の間、危機感を覚える。心の波を沈めるべく、無想する。それすなわち、無我の境地への到達である。ただ刃を振るい、人を殺めることに徹する術を知っていたからだ。
以後の剣筋は鋭く、閃きに曇りなし。
喜ぶべきことのはずだが、彼は何故か素直に喜べなかった。
意外にこの描写とテンポと心情を描くのが難しい。
なに、簡単……だと……?
屋上へ行こうぜ、久しぶりにキレちまったよ。




