序章 伍
はい。
とりあえずのところ、序章はこれにて終わりです。
シーンを意識して行くので、今後は中々話が進まないと思われることもあるでしょうが──進んでいますからね(笑)!?
before
第1部 老剣士推参
第2部 昼下がりの丘
after
第1部
第2部(1、2部総括して)昼下がりの丘 壱、弐
──と、このようにしたく思います(*`・ω・)ゞ
今後もし、ミスってたらすいません。
「ほれ、お前さんも飲め。林檎の果実水だ、楽になるぞ」
スブニールは水袋を取り出すと、自分のそれを啜りながらシガールに別のものを投げ渡した。
「……あ、ありがとうございます」
自覚せず、若干ぶっきらぼうな答えになってしまった。ひったくるように受け取ると渇きを癒すべく、冷えたそれを啜り始め──
「──負けん気の強いこったなあ。誰に似たんだ、お前。それは母ちゃん譲りか、それとも父ちゃんか?」
スブニールのしたり顔と、唐突な言葉に口の中の物を盛大にぶちまける。「うわ、きたねえ」という大仰な手振りが憎らしい。むせ込みながら、負けじと返す。
「……な、何のつもり?」
「おお、怖い。今こそ腰に差してある道具の使い時じゃねえのかあ? それより、随分と遠慮がなくなって来たな。それともこっちが素なのか──どうなんだ?」
「しつこい男は嫌われるっていう名言を知らないの?」
「おっと、悪いな。少しばかり図に乗ったようだ。不快だと言うのならば謝ろう。率直に言うが、俺はお前さんに俄然興味がわいた。何せ新参のほとんどは、逃げるか鴉の餌になるかしかなくてな、ほとほと困っていた。こっちとしちゃあ、腕の立つ新参はまさに願ったり叶ったりさ」
「才能なら他の男のがマシでしょうに」
「ふざけろ。精々一五そこらの餓鬼がここまでの剣を振るえる訳があるかよ。俺ぁな、他でもないお前さんの腕が欲しいってんだ」
「なんだか釈然としないけど、それならこっちも望むところです。そ、その……宜しく」
「気にすんなって。しかし、お前さんは難しく考えすぎだ。そこは『俺の方が利用してやる』くらいの気概を持ちな。そっちのが楽ンなるぜ?」
尚も言い淀むシガールの肩に手をやって、スブニールは柔らかく言った。
先の戦闘で見せた気迫はどこへやら、まるで父親のような口振りである。気が付けば、周りの男達も微笑ましい物を見るような視線に変わっている。
スブニールが追い払うような仕草で、「見せ物じゃねえぞお前ら」とたしなめる様に言うが、まるで効果がない。満更でも無さそうに舌打ちすると、シガールに向き直る。
「いいか、世の中ってモンはな、お互い利用し合うように出来ているものなんだ。社会見学のついでとでも思っておけ。なにも気を病むのが悪いとまでは言わねえが、もう少し楽に構えた方がいい。お前さん、緊張しっぱなしじゃねえか。疲れたろ、な? 休んでおけ。明後日は叙任の手続きもあるんでな」
分かりました、という言葉をシガールは途中で飲み込んだ。聞き慣れない単語が聞こえた為である。
「ちょっと待ってください……叙任!? ──えっ、傭兵が!?」
その指摘を受けると、スブニールは決まり悪げに後ろ頭をかきむしった。幾度となくシガールが食い下がり、渋々といった風に重い口を開き始める。
「周り近所に言いふらすなよ? 実は半年前に北の国境沿いで小競合いがあってな。その時に仲間の半数以上が死んじまったんだ。別に舐めてた訳じゃねえが、被害は甚大。負傷して生き残った連中も、内二〇人ばかりは頭が可笑しくなって除隊するしかなくなった。結局、三分の一すら残っちゃいない。これでは統率できても軍団としちゃあ、おしまいだ」
「じゃあ」と前置きして、シガールは言った。
「他の傭兵と手を組んだり、しないんですか?」
「は? それが出来りゃ苦労しねえって。お前なあ……金で動くのが傭兵だぜ? 昨日まで同じ陣営だった奴らと、半年後に敵味方に分かれて睨み合うなんてざらだぜ。しかも同業者だぞ。対立こそすれ、手を取り合う理由はない。競争相手が潰れてくれるならそれこそ万々歳、ってな」
──だからこそ、飯を喰うために騎士という道にすがるしかない。
最後に小さく呟かれた一言は、彼に失望と納得。そして虚無感とを覚えさせた。何故なら──
「所詮、俺らは剣を──槍を振るうしか取り柄のねえ“能無し”だ。まだ若けぇんだからよ、お前さんは。頼むから、俺らみたくなるんじゃねえ。闘いに明け暮れて、“それ”しか見えねえ奴になってくれるな」
「──ッ!?」
──感情というものが丸ごと欠如したような、スブニールの平坦な笑顔を目にしたからだった。
可笑しなことを言うみたいだがよ、と付け加えるその顔がもの悲しく感じられた。
そんな彼のことが気になってしまい、気が付けばシガールはそのまま朝を迎えるのだった。
気にするなという男たちやスブニールの言葉も耳に入らず、胡乱な思考で叙任を受けることになる。だが、当のシガールはと言えば内容を覚えていなかった。
頭の片隅で、「形式ばってて、大したことないな」ということだけが残るのみである。叙任の際の一言も、既に忘却の彼方でしかないのだ。
斯くして彼は、憧れであった──いっそ晴れ舞台とも言える──叙任式をついぞ意識することはなかったのである。
さあて、次回からはいよいよ修練パートから戦争パートですね。
もうそろ集団戦闘の兆しが出ると思います。
……装備はともかく、キャラの思惑の反映。集団戦闘における指揮、用兵。
テンポと術理、臨場感の演出……。
アッハッハ、私のSAN値が減っていくなりぃ(錯乱)!




