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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
二章 異国之剣客
42/120

黒幕

さっぱりした味にしてあります(ファッ!?)。

 「どうやら、盛大に爆発したようだな」 


 街の南に位置する廃墟の群れ──もとい郊外。そこに赤雷達の姿があった。それぞれが一反(いったん)の布を顔や身体に巻き付け、変装を施してある。

 人目に付かないことを確認するなり、全員がそれを剥ぎ取りアルシュは言った。


 「まったく、いい気味じゃわい。いっそ全滅でもせんかのう……」


 「そりゃあ、あんた……それは高望みってもんだ。大体、目的が違うだろ」


 「とんだ骨折り損じゃ……やっておれんわ。まったく」


 「まあまあ、先生落ち着いて」


 「先生、シガールの布が半分ずれてるじゃねえか!? これでちゃんと巻いたのかよっ!?」


 知らん。

 それだけ言うと、彼は薬品の名前を呟くように列挙していく。赤雷やシガールでも、効能や名称が分かる薬品が幾つかあるが、殆どは名前すら知らないようなものばかりであった。どうやら、外科手術やその他の処置に必要らしい。

 時には阿片窟(あへんくつ)でお馴染みの怪しい代物まで、その数実に三〇種以上。これでも必要量の半数にも満たないというのだから驚きである。

 シガールの布を、やや乱暴に剥ぎ取りながら、途中で赤雷が青い顔をした。


 「おい……先生何とか言えよ」


 だが、アルシュの視線は赤雷を捉える。

 そしておもむろに口を開いた。


 「損害の補償は頼むぞ、赤雷よ」


 やっぱりか、畜生──そういって赤雷が頭を抱える。

 アルシュの主張によれば、この襲撃は元より赤雷を標的にしたものであるということ。金銭的な負担は赤雷が負うべきであるとのことだ。

 そもそもアルシュを標的にするのは、大抵流れ者である。赤雷は異邦人であり、裏稼業の人間だ。いつ何処で恨みを買ったのか分かったものではない。

 この件に異邦人が絡んでいるらしいことからも、アルシュは標的が赤雷ではないかとあたりを付けているのだ。

 

 「待てよ、俺が居なけりゃ今頃は皆死んで──」


 そこまで(まく)し立てたところで、彼は赤雷の耳元で何事か(ささや)く。すると、嘘のように赤雷は黙りこんだ。心なしか愕然としているようにも見える。

 怪訝そうに首を傾げるシガール、そこですかさずミシェルが耳打ちした。


  (あの人、先生の治療費支払い要求を何度か踏み倒してるのよ。記憶が正しければ八回だったかしら? それを引き合いに出されたのよ、きっと)


 成る程、とシガールは思った。

 赤雷の生活は悪くない。寧ろ、割りと快適である。だが、あくまでもそれはこの街で食うに困らない程度だ。それは彼の浪費癖(ろうひへき)によるところが大きい。

 シガールは一度聞いた事があるが、理由は賭博(とばく)と酒らしい。一晩で金貨一〇枚をスッてしまうというのもざらである。それを知っている身としては、納得せざるを得ないのは詮方(せんかた)なきことだ。


 「……赤雷さん、それは流石に仕方ないよ」


 「うるせえ、黙ってろ。ケツの青い餓鬼に何が分かるってんだよ……あぁ?」


 シガールはそれに対して何も応じない──否、応じることが出来ない。

 応じれば、堪えることが出来ないだろうからだ。無言を貫くのはそれが理由である。僅かに稚拙さの残る罵詈雑言(ばりぞうごん)ならまだしも、赤雷の影響で多少なりとはいえ、皮肉を知ったことが問題だ。

 相手を激昂させる言葉ならいくつも知っている。口にしたが最後、ここで仲違いするのは明白だ。下手に動けば隙を晒しかねない現状、それだけは何としても避けねばならない行為である。

 アルシュとミシェルが、どうやって二人の間に割って入るかを思案していると──


 「仲間割れか、やはり何処まで行っても破落戸(ごろつき)は破落戸よな。まったく、実に下らぬ」


 ──乾いた足音と、呆れたような調子の声が耳に飛び込んでくる。

 シガールと赤雷が抜剣。アルシュは小刀(メス)、ミシェルは短剣を携えて砂塵(さじん)の向こうを凝らすように見つめる。

 程なくして山吹色の着物を身に付け、濃紺の(はかま)を着用した男が現れる。華美でなくとも風情ある服装とは違い、外観は(いわお)のように角ばっていて(たくま)しい。太めの眉が意思の強さを物語るような、そんな男だ。剛の者然とした風貌(ふうぼう)からか、剣豪と言った方が似合うだろう。腰に差した一振りと脇差(わきざ)しが、心得を有した者であることを物語っている。

 (しゃ)に構えたような態度は不遜(ふそん)な印象を抱かせるが、そこに一分の隙もない。

 一見軽薄そうな立ち振舞いこそが自信の裏返しでもある。難敵となろうことをアルシュは感じる──同時に、自身では敵わないだろうとも。


 「……何じゃ貴様、儂らに一体何の用があってここに居る」


 「さてな。でも、お前さん方もおよその見当くらいは付いてるんだろう?」


 「おい、赤雷。こやつを知って……」


 そこまで言い掛けて、アルシュは口をつぐんだ。

 抜き身を手にしたまま、彼が震えていた為である。問い掛けの言葉は生唾と共に飲み込まれ、霧散してしまう。


 「(あららぎ)……竜胆(りんどう)……」


 (かす)れて呼気しか聞こえないように思われたが、蘭と呼ばれた男は耳聡(みみざと)く聞きつけていた。


 「おうとも。一時(いっとき)とは言え兄弟子(あにでし)であった俺のことを覚えて()るとは……感慨深いものよ。それにしても、お前は目上に対する口の利き方を知らんと見える」


 (いや)らしく笑みを浮かべ、蘭は着物の(えり)に手を入れ、隠し持っているだろうものを取り出した。腰に差した一振りとは別物らしい。

 それは、赤雷の持つものと同じ“刀”である。

 シガールにはかなり年季の入ったものだろうと推察した。

 (さや)装丁(そうてい)は一部剥がれている。(つか)に巻き付けた(ひも)も擦りきれた状態なのだろうかと思った。

 だが、そんなものよりも目を引く特徴がある。

 漆塗りの鞘には、如何な黒にも似つかぬ赤みがかった黒を上塗りされていたのだ。シガールはそれを知っているのではないかと、何処か直感で思い──無意識に、吐き気を(もよお)す。

 アルシュと、その補佐を務めることもあるミシェルにも覚えがあるような気がしていた。

 震える声で、赤雷が蘭を問い詰める。


 「答えろ。それは、あの人の愛刀《千鳥(ちどり)》……何故、貴様がそれを持っている!? それにその刀の血は──貴様、俺の父上をどうした!?」


 ひとしきり赤雷が喚き立てても蘭は笑顔を崩さない。それどころか、口角がいやにゆっくりと吊り上がっていく。

 赤雷は、彼の口がこれ以上動くことを忌避(きひ)していた。きっとこれは予感に等しいものなのだ、と。そして、それは悪い時に限って的中するのだということを、否応(いやおう)なしに思い知らされる羽目になるだろう。

 不安の(つの)る中で、彼だけが誇らしげに──朗々と語った。


 「お前の父親──爪紅蘭月(つまべにらんげつ)──の首を()ねたのが、この俺だからさ」

さあさあ、盛り上がって参りました(笑)‼

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