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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
二章 異国之剣客
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陽動

 夕陽がデポトワールの街を朱に染める。この街の東側にアルメ=イディオの溜まり場がある。そこには、寂れた兵舎のような外観の住居が建立されている。元々騎士団の詰め所となる筈だったこの場所は、潮風による金属の劣化、立地上の問題などから打ち捨てられていたのだ。それをこの傭兵達は利用している。元より遠出することが多いのは傭兵の常だ。腐食するのが気に食わないなら、鍛治屋に出せば良いというのが指針らしかった。

 普段は詰め込んでいるほどたむろしている人員も、今では約半数の人間が稼ぎに他国へ出征中である。その上、赤雷を追い掛け回している為に数えるほどしか留守番が居ない。その二人が、広間で思い思いに過ごしていた。一人は神経質そうな風貌の華奢(きゃしゃ)な青年で、懐紙を用いて武器を磨いていた。もう一人は身の丈七尺近い大男で、退屈だと言わんばかりに両の足を投げ出し呆けたような阿呆面をさらしている。

 ふと、大男が口を開いた。


 「女、居ねえかなあ。そうだ、(さら)いに行こうぜ!」

 

 「お前ってやつは、本当に下半身でしか物事を見ないんだな。(とこ)での“コト”ばかり考えやがって……破滅するぞ。少しは自重ということを知れ」


 「いいや、拐うね!」


 ──馬鹿が……。

 神経質そうな男は、思わず得物の手入れをしていた手を止め内心毒づいた。この熊のような体格の男は、美しい女と見れば見境がない。盛りのついた獣を、そのまま人間に移し変えたような類の人種だった。

 しかもこの男、街の路地でコトに及ぼうとした挙げ句、未遂で騎士団に捕縛されている。それから一月も経たずにこのような世迷言をほざいている。反省という言葉の意味など、彼の頭には存在しないことは最早疑いようもない。なまじっか彼の方に一日之長がある以上、迂闊なことも言えず沈黙するより他になかった。


 (反省さえすれば、こいつの戦果はうなぎ登りなんだろうがね)


 元より変り種揃いとなるのが集団の常だ。この傭兵団も往々にして奇人変人が集ってくるから不思議なものである。これでも、戦闘とあらば獅子奮迅の活躍を見せるのだから、人というものは見掛けに依らないものだ。

 ──女について語り始めた男を尻目に、彼はしみじみとそう思った。

 誰だったか、『女を語るようになってはおしまいだ』と言っていたような気がする。不意にそんな言葉が思い起こされ、可笑しく思えた。それでは、この男は既に駄目人間であるということに他ならない。笑いを堪えようとしてもうまくいかないが、そこは何の問題もなかった。どうやら男は、堅物の彼が女談義に興味を示したと思っている様に見えるからだ。鈍感もここまで来ると感服ものである。

 どんな頓痴気な話になるか、彼が内心期待していると入り口に面した通路から轟音が響く。瞬間、二人は胸当てと手甲を大わらわで装着し、得物をひっ掴んで飛び出した。


 入り口付近は、熱風の為か焦げ付いて、壁に陶器の破片を散りばめたような様相を(てい)していた。とは言え、その状態は無惨の一言に尽きる。

 壁は瓦解寸前、燃えかたの激しい箇所から四方四間は石畳を(えぐ)り、状況が凄烈だったことの余韻を匂わせた。

 痩せぎすの彼が検分じみたことをしながら、誰にともなく呟く。


 「流石に、もう居ないか……」


 「火事場よろしく、現場に戻ってくるような馬鹿が居てたまるかよ」


 荒事の時ばかりは、さしもの大男も居ずまいを正している。

 表面上こそ軽口を叩いているが、視線は野次馬の中をそれと知られぬように探っていた。一人一人の動向すらも逐一観察している様ですらある。

 少ししてから、背中越しに大男が声を掛けた。


 「なあ、お前はどう思う?」


 「──さあね。少なくとも、恨みが投げ売りするほどあるってことだけは確かだ」


 「ンなこたぁ百も承知だろうが! こういうの得意だろ……ったく、茶化すな」


 「期待しないでくれよ? でも、きっとこれが本命(もくてき)ではないんだろうね」


 ──流れる沈黙。

 数瞬の後、青年が続けた。


 「悪戯にしては少々派手すぎる。仮にこれが殺傷目的であるなら、何故施設内に投げ込まない? どうにも、“わざと”目を引くようなことをした意図が見える……そんな気がするってだけさ」


 「注目を集めて何がしたいんだろうか、な」


 「そこまでは分かりかねるな。何しろ、判断材料が少なすぎる。憶測が功を奏するかは(はなは)だ疑問だね」


 素っ気なく──そうかい、と応える大男は仲間達が走り寄ってきたことに気が付いた。ざっと見たところ一五人程度、人狩りに出掛けた人員の半数にも満たない。残りは支援、予備としての人員としている。人狩りにおける定石に(のっと)った編成のようだ。

 駆け付けた仲間に話を聞かされて、大男達は少しばかり困惑の色を見せる。

 概容はこうだ。

 先日より赤雷一派を見失い、彼らの行動の予測が現状では困難であるということ。そして、僅かな目撃情報を頼りにすればこの溜まり場で、いざ帰投してみれば爆発騒ぎが起きていたということらしい。


 実動部隊と、待機中の人員とで認識に齟齬(そご)が発生するのは最早仕方のないことではある。

 だが、青年が疑問に思ったのはそこではない。


 「じゃあ、何故“赤雷”の名前が出てくるというんだい?」


 「どうもこうもあるか! 連中を襲撃した時に爆弾を使ったんだ、ちょうどこんな感じのヤツをな!?」


 そこで二人も事態の重さを受け止める。

 話から察するに、かの一派は未だ存命している。しかも、爆発物を使用した襲撃からも逃げおおせた。それは即ち、相手に反撃の糸口を掴ませたということになる訳だ。

 目には目を、歯には歯を。最も単純ではあるが、意趣返しというものほど恐ろしいものはない。襲撃への恐怖、張り詰めた神経はいずれ衰弱し、僅かとは言え隙を晒すことにもなりかねないのだから。

 そう考えれば──成る程、この慌てようも自然なことだろう。

 

 「くそ、仕方ねぇな……俺らも出るぞ」


 「そうだね、何人か殺られているようだ。……ただでは済まさない」


 「よっしゃ、奴等を血祭りにあげてやろうぜ‼」


 得物を掲げ、(とき)の声をあげる。景気づけの意味合いを込め、覇気を示す。

 そんな瞬間を狙い澄ましたかのように、耳を(ろう)する爆発音。反応する間も無く、気が付いた時には回避不能な状態である。荒事の経験からか、数人が爆発と同時に跳躍していた。

 しかし、熱風と破片は、彼らが用意したものとは一線を画するものだった。何らかの改良を施されたことと、威力向上の気配とが感じられた。

 爆心地付近にいた者は、肉片と臓物の欠片を路上に散りばめ、石畳を赤く染め上げている。少し距離が空いていた人間さえも、熱風と破片の餌食となっていた。跳躍したもの達も、爆風の影響で全身打撲や複雑骨折など、戦闘不能の重症を負っている。その内、三人が首を折るなどして即死していた。

 野次馬も爆発の影響を受けたらしく、重軽傷の者が散見される。

 死屍累々の惨状の中、神経質そうな青年が血塗れとなった頭をあげた。


 「くそ……あれは()き餌か……」


 彼は死に(てい)となった今、赤雷らの意図を汲むことが出来た。

 恐らく、最初の爆発は騒ぎを起こし、人の目を引くことが目的だったのだろう。場所は傭兵達の詰め所である。そうなると当然、そこに傭兵は駆け寄る。後は、爆弾の爆発時間を数分後にずらすことで一網打尽とすればいいのだ。

 とどのつまり、赤雷達の思惑通りに事が運んだ訳である。

 急速に薄れ行く意識の片隅で、彼は遠くから聞こえる爆音を聞き付けた。


 ──騎士達の……詰め所付近、か?


 それを朧気に知覚した瞬間、彼は意識を手離した。

因みに、余談ですが、集団戦闘というもので興味深い事を知りました。

ある程度の人員が欠員や死亡で減少してしまうと、組織的な活動が不可能となる──というものです。


指揮、支援、情報収集・整理、戦闘。その他に糧食の準備などがあります。

大体三分の一程度が欠員になると、上記のものに支障が起きます。

戦闘行動の効率性は落ち、支援も不充分。結果、戦士者も増加……。


これで戦闘行動を行うなど、無謀の極みでしょう。


尚、自衛隊の人員不足の懸念も、割りと深刻化しているということがあります。

ここで取り上げますが、自衛隊が仮に戦う場合、“戦う前から全滅しています”。

定員割れしているので、既に集団戦闘における支障が起きています。

上記事項に適応すれば分かりますが、本当に人員不足らしく、一人一人の練度こそ高いですが、集団戦闘での分は悪いのです。

兵器もけして多くはないですし、国家間での戦闘となった場合は深刻でしょうね……。


失礼、長くなりましたが、以上です。

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