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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
一章 遠い日の誓い
23/120

終局

異端ノ魔剣士、エピローグですよっと(笑)

エピローグですね。




──ところが残念。

まだ終わりません(笑)

往生際の悪い作品ですね(笑)

 寝台の上に寝そべるシガール。そして、シガールに寄り添う形の赤雷は揃って身を縮こめていた。

 二人を威圧するように、よれよれの灰色がかった白衣を身に付けた男──アルシュ=クロワだ──が睥睨している。

 理知的で神経質そうな見た目に、不健康そうなくまを湛えている。そんな彼のこめかみには青筋が立っている。

 そんなアルシュの足元に、そばかすのある少女が寄り添っている。可哀相な程に震え上がりながらも、アルシュから離れそうもない。その様子が少しばかり間の抜けた雰囲気を出しているが、彼の顔の方が不気味で恐ろしく、それどころではなかった。

 優しく温和な笑顔でこそ有るが、その表情はえもいわれぬ畏怖を感じさせる圧力を放っていたからだ。

 ひとつだけ明確なのは、彼が立腹しているということだ。

 二日前、シガールが野盗の一人を殺害し、彼が倒れた時からアルシュはこんな様子だ。


 「赤雷、お主が何をしでかしたか自覚しておろうな?」


 アルシュが口を開く。重く、赤雷を叱責するような口調だ。シガールは、アルシュの凄まじい剣幕に何も言い出せずにいた。

 

 「……何の事だ?」

 

 「儂は止めたはずじゃ。 お主の、一時の感情に任せた馬鹿な行動をな?」


 「……それは」


 「『それは』、なんだ? 『治せ』と言われた、だから治療した。 だが、お主は完治すらしていない子供を危うく殺しかけた。 お主のその行動原理は親譲りか? だとしたら大した親を持ったものよな、赤雷」


 「そんな、赤雷さんは──」


 「君は黙っておれ。 君とて死にかけたんだ、何より自己管理をせねば早くに──死ぬぞ」


 有無を言わさぬ圧力にシガールは言い込められる。赤雷にはアルシュの言い分が痛いほど分かる。

 シガールが運ばれてきた当初、シガールを見るなりアルシュは「この糞馬鹿が!?」と一言罵ると、意識不明のシガールと共に薬や道具を手にして二刻以上も小部屋へ籠ったのだ。

 シガールは危篤状態で体液の消失が著しく、まさに死の危機に在ったとのことだ。

 医師として長い間やって来たアルシュを長いこと見てきた赤雷だ。だが、腕利きの彼があそこまで必死になって治療にあたるのは、滅多に見れたものではないことを知っている。危ないことは痛いほど分かっていた。

 正直に言って、シガールが息を吹き返したことこそ奇跡に等しかった。アルシュの力量をもってしても、シガールのような容態の人間の命を繋ぎ留めることは、至難の業だと赤雷は経験則から知っていた。

 ──しかし、しかしだ。


 「でも、この子には選ぶ権利が有ると思った。 ただ泣き寝入りするだけなんて、そんなの不憫だろう?」


 赤雷は主張した。子供の意思も大事なのだと。

 その主張をアルシュは鼻で笑って一蹴し、熱を帯びた言葉を返す。


 「おぉ、そうか。 それが元で死ねばお主はさぞ喜ぶだろうな、『子供は面倒』だと口にしていたものな? きっとお主の娘が死んだ時もそうだったのだろうな!?」


 赤雷は、その言葉に固まる。

 そこには哀切と悔恨が溢れている。言葉として何かを言いたくとも、言い出せずにいた。口を半開きにし唇を戦慄かせながらも、赤雷はそこから先の言葉をついぞ見付けられなかった。

 数瞬の後、アルシュがしまったとでも言いたげに口を開いた。


 「……すまぬ、熱くなりすぎたようだ」


 「いや、いいさ。 なに、本当のことだ。 先生は何も悪くない、悪いのは俺だ」


 「普段からそう素直なら、もう少し可愛げもあるんじゃがの。 まあ良い。 後で、外へ来い。 少し、話をするとしよう」

 

 「あぁ、良いともさ」


 「ではな、シガール君。 また後でな?」


 「……う、うん」


 アルシュは言葉を受けるなり、少女を伴って外へ出ていく。

 赤雷は、アルシュ達が去って行くのを見届けると、シガールへと向き直る。


 「さて、シガール。 お前、これからどうするつもりだ?」


 「どうって?」


 「俺と一緒に来たいか? それとも、剣を教えた後は……お前、孤児院に入るか?」

 

 考え込むシガール。

 だが、彼の答えは決まっていた。

 もう誓っていたのだ。皆が死に、彼だけが永らえた時、既に答えは出ていた。今更ここで引くことなど、毛頭なかった。迷うことこそ有り得なかった。


 「俺は、赤雷さんに付いていくことにする。 ──痛っ!?」


 「おいおい、大丈夫か!?」


 腹部の縫合箇所が痛む。それを気概でねじ伏せると、シガールは改めて赤雷へ言葉をかける。


 「……大丈夫。 これから宜しくね、赤雷さん?」


 その言葉は素直に嬉しい物だった。

 だが、何故か。

 ──何故かその言葉が、赤雷の心をちくりと刺した。

 その痛みは気のせいだと赤雷は飲み込んで、シガールに返答する。


 「宜しく頼むぞ、シガール。 ……言っておくが、俺の修練は厳しいぞ?」


 うへえと舌を出すシガールは「勘弁してよ」と言う。それから赤雷と他愛のない話を二、三交わす。剣のことや、赤雷が行った試験のことだ。それらを話終わるが否や、シガールは唐突に力なく寝具の上に倒れ込んで身体を横たえる。


 「うん!? どうした、大丈夫か!?」


 赤雷はシガールを案じて揺するが、安らかな寝息を立てていることから状態を理解する。


 「……寝てやがる。 まったく、心配して損したぜ」


 悪態を吐き、シガールの頬を軽く引っ張る赤雷だが、その顔には僅かながらも笑みが浮かんでいた。それは作り笑いなどではなく、心からの温かい物だ。


 (悪かったな、シガール。 酷い目に合わせちまって。 直接謝りたかったが、仕方ない。 ……ゆっくり休めよ)


 シガールを見る目が、微かに変わる。穏やかで、優しく包み込むような顔立ちである。

 

 「おやすみ、シガール」


 シガールの髪を撫でると赤雷は身をひるがえして扉に手をかけ、半ば力ずくでそれを開くと外へ出ていく。

 赤雷が退出すると、シガールは小さく呻いた。







 「出てきたか、赤雷。 あの子はどうなった?」


 小屋から出てきた赤雷に、アルシュは声をかける。

 幾人かの村人がその様子を怪訝そうに眺めるが、気にも留めず赤雷は言った。


 「眠ったよ、よほど疲れていたんだろうな。 今は夢の中さ」


 アルシュ答えに頷き、納得したように頭を縦に振る。


 「それは良かった。 ……何ヵ所か妙なところから血が吹き出すわ、増血剤も足りぬわで焦ったが、それなら大丈夫じゃな」


 「おい、ちょっと待て。 小声で話すから聞こえないぞ。 聞こえるように言えよ、先生」


 「なに、何ヵ所か危ないところがあった。 それだけの話よ」


 その答えを受け取り「そうか」という赤雷に、アルシュは内心胸を撫で下ろした。

 それも束の間、アルシュはところでと切り出した。

 

 「あの子はどうするつもりだ、赤雷よ? やはり孤児院に入れるのか?」


 「そのことか。 あいつは、俺が引き取る事にした」


 赤雷の即答に対して、アルシュは鼻白んだ。ああまたかと、いやらしく歪んだ顔が、口調が物語る。


 「……正気か? 一体どんな風の吹きまわしじゃ。 今まで子供を助けこそしたが、今度の世迷言よまいごとは極め付きとき来た。 らしくないのぅ」


 「先生、あんたは俺が子供に固執する理由は……もう知ってるだろう? 俺は、自分の子供のことすらろくに知らなかった。 正真正銘の屑だ。 これが少しでも、あの子に対する罪滅ぼしになれば良いと思う」


 「──で、天涯孤独となったシガール君はお主の子供の代わりという訳じゃな」


 赤雷は、はっと息を飲んだ。

 その問いかけは、今の今まで赤雷自身が自問自答してきた内容そのものである。

 「同情してはいないか?」と、引き取ろうと思う度に浮上したことだ。

 同情は愛情ではないのだから。

 そもそも同情を感じた場合、相手と自身は対等な立場ではない。そこに発するのは優越感や、自己欺瞞じこぎまんである。それらはいずれ毒となりシガールを、ひいては赤雷を侵すことにならないかとアルシュは懸念を示しているのだ。

 赤雷は引くにも引けず、かといって諦める訳にも行かず、どっち付かずの心境に追い込まれた。

 アルシュの言葉にも一理有ると理解し、迷いに迷った。彼の心配はもっともだからだ。


 「違う、俺は──いや、わかんねえ。 あるいは、そうかも知れねえ」


 「そうであろう? なればこそ孤児院に預ける方が良いと思う訳じゃよ。 儂は、な。 悪いことは言わん、治療が済んだら孤児院に入れることよ。 相互幸福を思えばおかしくなかろう」


 孤児院に預けるという話が出たときから、赤雷は思案していた。孤児院に入ったらどうなるか、話の最中もそればかり考えている。

 大抵、孤児院と教会は併設されていることが多い。

 それは伝統とも言えたが、孤児院での生活はお世辞にも裕福とは言えないものだ。

 なにせ敬虔けいけんな信者や、懐に余裕のある人間でも居ない限り、寄進は滅多にない。無論、金銭など有ってないようなもので、栽培して余った穀物を売ること。もしくは、神父や尼が副業として医療行為などに従事する以外に収入源はない。

 その上、けして少なくない人数孤児たちをも養わねばならない。

 王都の聖堂からの給付金は勿論あるが、生活に必要とされる最低限度の金銭である。そして、聖職者とは質素倹約な生活を求められる。華美な生活は、信仰上好ましくないという理由があるからだ。

 そうなってくると食事はほぼ実のない、穀物の実が三つ四つ浮いただけのスープに、大人でもかじりつくのがやっとの硬いライ麦のパンが供される。よくて、猟師たちが狩った獲物の肉にありつける事が、月に二度三度あるかないかといったところか。

 今まで何度も見たそれらの光景は、赤雷の判断に待ったをかけた。

 幾度も助けた子供は例外なく孤児院に入り、ひもじい思いをしながら虚ろな目をして日々を過ごしていた。

 そんなのが、幸せなのかよと赤雷は思う。


 今、自分の子供がそんな境遇にあれば、騎士を敵に回しても暴れ狂ったことだろうと思うと、赤雷はふっと苦笑した。

 我ながららしくないと考えると、おかしくて堪らなかった。


 「先生、俺はやっぱりシガールを引き取るぜ」


 「なっ!? お主はこの期に及んでまだそんな──」


 「先生も気になっているんだろ、シガールのこと。 何、課程はどうあれ人の為に剣を取るのも、そう悪い話じゃないさ」


 苦笑しながらそんなことを言ってのける赤雷に、アルシュは出鼻を挫かれたような顔をしてからこう言った。


 「この馬鹿者めが。 儂はお主を思わねばこのような世話なぞ焼かんのだぞ?」


 「そう怒るなよ先生。 俺はあんたのことは信頼してるんだぜ」


 「お主というやつはまったく……まあよいわ。 しかしな、お主にひとつ忠告をしておくぞ? シガール君のことじゃ。 よいか、心して聞け」


 前触れもなしに、アルシュは真顔になる。

 普段は飄々としているアルシュだが、その表情から赤雷は彼が本気であることを理解する。


 「あの子は、心から苦しんでおる。 優しすぎるんじゃよ。 しかし、それ以上に危険じゃ。 あの目は、子供がして良いようなものではない──断じてな。 くれぐれも肝に銘じておけ。 そして精々(せいぜい)教えることじゃな、復讐は何も生み出さぬと。 人を斬り、斬られる界隈に身をおくことは愚の骨頂だとな。 今度こんな馬鹿なことをしてみろ、今後一切の治療行為は請け負わぬぞ──よいな!?」


 この時赤雷は、杞憂だと考えた。

 アルシュの言葉は、治療に専念した疲れから来るものだろうと思うことにした。

 だが、表だってそれを言えば嫌味と罵倒をこれでもかと味わうことになるのは知っている。だからこそ、追求も疑念の言葉も投げない。

 赤雷は気遣わせまいとして、そしてさも分かっていると言った風を装ってそれに答えた。


 「あぁ、分かってるよ。 あいつのことは任せておけ」


実はこのあと、所謂没シーンというか何と言うか、そんな感じの話を予定しています。

この話、エピローグと銘打ってますが、怪しいものです(笑)

暫くは閑話(無駄話)が続くかと思います。


そうなってくると、一部の完結はまだ先ですね。

本当に往生際の悪い作品です(汗)


因みに、このあとの話ですが、大体の構想はしてますがいまひとつ作風に合ってない(そのシーン自体が元々妄想だけだったので)ので、ちょっとお時間頂きます。

作風が、当初の予定から百八十度変わっちゃいましたから、調整やら何やら色々有るのですorz


あ、長くなりましたねorz

読了ありがとうございました‼


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