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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
一章 遠い日の誓い
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憤怒の赤雷

一番やらかしていたシーンを改善しました。

黒歴史が増えるよ、やったね如月‼手直し増えるね!?


さて、冗談はさておき。

このシーンは短いです。というか、私が書く物語は一話が短いです。


 赤雷は幼少より、剣を握って来た。それこそ物心付いた頃から。初めて剣ダコが出来たのは……さて、いつだったろうか。赤雷には分からない。


 (妙なこった……ったく)


 シガールの痕跡を猛追する赤雷は、木の根やぬかるみに留意しながらも益体のない思案にふける。


 ──他人に情けをかけるな。それは相手がわしだろうと変わらんことを知れ。まずは型から入る……。さあ、構えい‼


 師匠が初めて剣を握った幼い弟子──即ち赤雷──に掛ける言葉がそれだった。

 まげを結った、精悍せいかんながらも強面の剣士で、名の有る剣士ですら裸足で逃げ出す貫禄かんろくと剣気を放つ男だった。無論そんな男であっても、幼子に持たせるものは木剣であったのだが。

 それでも有り体に言って、冷たい人間だと赤雷は思う。幼心に厳格で、容赦のない気性なのだと感じ取ったことが懐かしい。

 

 だが、それは剣士として──戦場でしのぎを削る人間として──当然の心構えとして教えたまでのこと。事実、修行に次ぐ修行で生傷は絶えず、青あざを幾つも作っていたものだ。骨を折りかけたことも、一体幾度有ったことか。

 その上、真剣を使用した稽古けいこは特に熾烈しれつを極めた。

 手心を加えられてこそ居たのだろうが、そこは真剣。薄皮を斬るだけならまだしも、一度脇腹を少しだけえぐられたことがあった。幾度も身を切られる痛みにもだえもした。

 そんな時ですら、


 ──……ふん。型稽古が足りぬ上にたるんでおる証拠じゃの。はよう傷をいやせ。いええればまた型稽古(かたげいこ)じゃ、よいな!?


 そう言い放って、父は立ち去ったのでだ。彼が幼い時は震えながらも「はい」というのが精一杯なものだった。母はすぐに他界したと聞いていた。


 だから、弱音を吐き出せる相手は居なかったし、吐こうとも思わなかった。そもそもが母親の顔すら分からない始末だったのだ。そのことに関して悲しいと、赤雷は思わなかった。父の存在だけで満足していたのかも知れない。

 ──血筋、か。

 そうして自己嫌悪した回数は少なくなかった。


 時が経ち、日に日に殺気のこもる重い攻撃、その上に型は工夫や改良を加えた技巧の剣と来ており、稽古は至難で命を落とすと思った。

 そんな思いとは裏腹に、日毎に受け方を指摘される所為せいも有ってか、多少は父の剣を受けられる程度になり、徐々にではあるが成長していった。

 そして、師の剣をようやく受け流せるようになったかと思えば、今度は毎日違う箇所を斬り付けられてはうめくことが、いつしか日課のようになっていた。

 だが、何時からか、


 ──多少は打ち合えるようになったかと思えば……。いや、次もりずに精進することだ。薬をつけておけ、よいな?

 

 投げ掛けられる言葉の温度が、変わった。

 ある種の反面教師とするべき人間の変化に、赤雷は戸惑った。

 「自分が師となったなら、必ずこうはなるまい」と強固に思っていただけに、赤雷にとってそれは晴天の霹靂へきれきであった。

 そして、少しずつではあるが、師──もとい父親──に対する憧憬どうけいが芽生えていったのだ。


 (あの餓鬼……シガールか。 きっとあいつの父親に対する憧れは並みじゃねぇ……。 確か『白銀の騎士』と言ったか、あの御伽草子おとぎぞうしは……)


 この大陸には御伽噺おとぎばなしなるものがあると聞いていた。

 娯楽と言えば、遊廓ゆうかくないしは娼館しょうかんでの一夜と、酒場での賭け事が鉄板である。

 だが、子供たちにとってみれば『御伽噺』や『英雄譚えいゆうたん』こそが数少ない娯楽である。ことに好奇心の塊かつ、好きなことには一途な子供なら尚更である。

 そして、シガールの父親は隊商を護衛する人物。


 豪胆で闘いは強い。息子にしてみればさぞや自慢の父親であったことであろう。最期の瞬間までを見るに人格者だったのだろうと、そんな予想がついた。

 そんな憧れの人物の突然死。それも病などではなく、略奪という他人の身勝手な意図の絡んだ事件で、だ。加えて息を引き取るのも目の前と来た。

 その衝撃は想像するにかたくない。

 

 (……ちっ。 薬なんざ使わなきゃ良かったかもな。 しかし、両親や……マジーとか言った雌餓鬼めすがきが死んでるのを見た時もそうだ。 見てられねぇような顔してたっけな……)


 ──俺とは違って皆、幸せな普通の家庭だっただろうに。

 

 知らず独りごちていた。跳躍ちょうやくはずみで舌を噛みそうになる。

 思えばシガールの父親は、剣に銘を入れているのところをみる限りでは見かけ倒し。……かと思いきや、息子や妻の安否を気遣っていた。

 赤雷の描く理想の父親として、最期まで在り続けた。

 その在りように心打たれたというのに、やってることは破落戸(ごろつき)そのものだ。父親とは程遠い。


 ──どうしたってんだろうな。まあ、考えたとてらちのあかん事もある、か。


 思考が一段落したところで開けたところに着く。


 「……む、着いたか」


 ふと見回すと野営の寝所ビバークが目に入る。それの近くに小鍋が置いてあり、赤雷は状況を把握する。

 盗族連中の野営地に到着したのだ。

 

 「──っ!?」


 事態を把握し、絶句する。

 シガールの身体は地に伏して、指先一つ動かなかった。

 更に、うつ伏せとなったシガールに触れる地面に染み込む赤色──血液だ。

 ひきつったような首をなんとか回し、辺りを再度観察。

 野盗一人の得物が紅く染まっていることが分かる。


 (そんな、シガール……お前死んだのかよ?)


 今更ながらに思い知る。

 彼がしたかったことは、とんだ自己満足だったのだと。

 結局のところ、感謝されたかったのだ。

 傲慢ごうまんで、身勝手。独り善がり。


 『僕や父さん達を、助けてくれて有り難う!!』 


 そうやって感謝の言葉を投げ掛けられる、あろうことかそんな夢を望んだのだ。偽善も良いところのくず野郎、それが自分の正体だと、赤雷は思った。


 過去の贖罪しょくざいをしたい──それは裏を返せば自身だけのための願いである。赤雷はこんな些細なことに気が付かなかったのかと思うと、かわいた笑みが漏れる。

 そうしてまた一人、子が死んだ。

 何の罪もなく、幸せを享受きょうじゅすべき子供を一人──また一人死なせた。

 ──俺が、殺した。

 甘さ、弱さ、無知。言い訳なら山ほど出るくせに、いざ言葉にしようとすれば、ずいぶん前に凍らせたはずの気持ちはくすぶり、言葉に出来ない。

 自分と、目の前で哄笑する連中に怒りが抑えきれない想いだ。


 「あぁ……くそ。 まったく、いやになるぜ……」


 小さく呟いたつもりだった。

 

 「……てめえ、いつからそこにいた!?」


 「手っ取り早く斬っちまおうぜ?」


 それでも野盗達にはしっかり聞き取れている様子だ。

 戦士としての技量は決して低くはないと分かる。

 小狡こずるくて、戦闘技能は高く、周りに気も配れる。そのくせ、すぐ感情的になる。

 ──よく似ている。俺に。


 「……どいつもこいつも反吐へどが出る」


 赤雷は言うが早いか、地を蹴った。


 一番実力の低い人間を標的に定め、強襲し間合いを制す。それは(たか)が獲物を襲うようであり、迅雷の如く鋭い。

 逆袈裟、横薙ぎ、上段から打ち下ろし、最後は返す刀で切り上げた。

 男は必死に応戦、四合程打ち合ったところで隙ができる。度重なる連撃にたたらを踏んだのだ。仕上げに頭部めがけて一閃を見舞い、即座に命を断ち切る。

 殺生の余韻よいんに浸る間も無く、二人目が襲来。

 横薙(よこなぎ)ぎの一閃を紙一重でかわし、返す刀で頚部けいぶを断斬。男は自らの血におぼれゆく。

 この間実に数秒。迅速な立ち回りと剣捌(けんさば)きで、野盗はほぼ壊滅状態となる。

 更に三人目が不意を突いて飛び掛かる。半ば自棄やけっぱちで、奇声を挙げて突撃を敢行(かんこう)

 しかし、赤雷にすればあまりに未熟な奇襲である。

 自暴自棄気味にしては威勢がよいが、男は自らの不利を増大させたのだ。


 「……へっ!?」


 すれ違い様、男の足に自らの足を引っ掛けると、巨体が面白いほど簡単に転がり、赤雷へ腹を向ける。そのまま心の臓をめがけて一突き。致命的部位を貫かれ、びくびくと痙攣けいれんする男の胸部に、更に震脚しんきゃくの要領で追撃。

 胸骨を踏み抜く感触が伝播でんぱ。威力を物語る様に、男の下から大地へと亀裂が走る。その刹那には、仰向けのまま男は二度と動かなくなる。


 「……嘘だろ」


 隊長格の男がもはやかすれた声でつぶやく。


 「……」


 彼に掛ける言葉は持ち合せがないし、掛ける義理もない。

 沈黙を貫き、近寄る。それだけでも充分、危険は何一つない。

 お山の大将を気取ってふんぞり返る人間は、得てして肝が小さいのだから。

 

 「頼む、金ならやる。 へ、へへ、たんまり有るんだ。 だからどうか命だけは、命だけは……や、やめ、やめろぉおおお‼」


 ──黙れ。

 それだけささやき、漆塗りの鞘で頭を強打してやる。

 鈍い音が周囲を包み、糸の切れた人形のように男は倒れる。


 「お前みたいなのでも捕まえると飯の種くらいにはなるんだ。 まあ、これも定めと思って諦めろ……三下」


 毒を吐き、男を念入りに縛るとシガールへと歩み寄る。

 掛ける言葉は──見付からない。


 (野盗こいつも俺も根本は何も変わらん。 ……とどのつまり、同じ穴のむじなさ)


 苦々しい思いを抱えつつも、「これも何かの縁、せめてとむらってやるか」と赤雷は重い足取りでシガール達を引きずる。

 そしてふと、体勢を変える折、シガールの首筋に手が触れた。


 「……ん? おぉ……!?」


 ──弱々しくも確かに脈が有った。

 小さく、やや不規則ながらも脈動が感じられたのだ。

 僅かの間恐慌におちいるも、近隣に連れてきていた連れ合いのことを思い浮かべる。

 なるべく動かさないよう配慮しつつも、シガールの手を背に回して背負う様に抱え上げると、小走りで移動する。今までと違ったことといえば、足取りが軽やかだったことだ。


 「待ってろよ、シガール‼」


 

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