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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
一章 遠い日の誓い
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探索

すいません!

やっとこさ更新です!

男の言動、行動に関しては想定通りです。

もし変だと思ったら……先まで読んでみて下さい。

そこら辺も折り込み済みなので、この先書いていきます。


お待たせしました。

とうとう、シガールは追い詰められます。

それはこの物語を読んで御堪能下さいましね。

 「……んぁ、ぅう。 ──っ!?」


 シガールはまばゆい陽光によって意識を覚醒し、即座に跳ね起きる。薄い毛布が吹き飛ぶのも構わず、辺りを見回す。

 日は既に高く昇っており、夜が明けてからかなりの時間が経っていることが分かる。鍋とたき火の後が少し離れたところにあり、夜営の名残が見て取れる。

 そして、シガールは自分の隣に寄り添う二つの膨らみを確認する。念のために外套をめくると、そこには変わり果てた両親の姿があり、愕然とする。


 (夢じゃ……ないんだな。 いっそ夢ならどれだけよかっただろう)


 いつの間にか眠っていたようだ。

 しかし、改めて事実を認識する。

 それだけで、寂寥感せきりょうかんに苛まれ、自身を呪わずには居られなかった。


 「俺が……弱いばっかりに!!」


 そもそも両親ともども、シガールを庇おうとして命を落としていた。それが自身の弱さを如実に表すものでなくてなんだと言うのだろう。

 手近な立ち木を苛立たしげに殴りつけるも、かえってシガールの手が痛み、血がにじむ。

 すると近くの茂みが唐突に揺れ、シガールは身構える。


 「おぉ、目は覚めたかシガール。 お前、腹は空いてねぇのか?」


 「……いきなり名前で呼ぶのかよ」


 男が茂みから出てくるなりそう言った。

 確か赤雷とか言ったか。なんとも妙な名前である。

 シガールはすぐにそっぽを向き、だんまりを決め込むと赤雷から舌打ちが聞こえてくる。

 

 「……ったく、可愛げのねぇ。 待ってろ、朝飯にするぞ」


 言って赤雷はたき火の後へと移動し、弓と木版もくはん、棒を駆使してすぐに火をおこす。弓の弦を活用しており、その手つきは慣れたものにみえる。

 ふと、昨夜のことを思い出す。

 男が嫌いではあるが、作ってくれた料理を台無しにしてしまったことだ。口にすることなく、ひっくり返してしまったことが悔やまれる。

 母さんの料理を駄目にした時なども、こっぴどく叱られたことが思い出されたのだ。

 赤雷の方へ恐る恐る近づき、おずおずと口を開く。


 「その、昨日はせっかくの夕飯を駄目にしちゃって……。 その……ごめんなさい」

 

 「ふん。 …………餓鬼がそんな顔するな、気色の悪い」


 一瞬だけ複雑な顔をすると、すぐにもとの不機嫌そうな顔に戻り「そら、我ながら会心の出来だ。 喰えよ」と言って食器とさじを寄越す。

 鼻を鳴らすと、出会った時と同じような刺々しさが戻ったように見えた。

 シガールもまた若干複雑な表情を浮かべてスープを一口すする。


 「……。 これは!」


 「……旨いか?」


 シガールは思わず声に出していた。向かい側で赤雷が感想を求める。

 スープは絶品である。

 塩味は程よく、出汁がよく出ていた。野趣豊かな上に濃厚ではあるものの、それでいてくせの少ない味だ。作り手の技量が窺える塩梅である。

 野菜と肉も味が染み込んでおり、噛むほどに汁が染みだして食欲をそそった。

 まるで母の作った煮込み料理を食べているようだった。


 「美味しい。 とっても……おい、し……」

 

 「……」


 不意に、食事を掻き込むシガールの視界がにじむ。男、木々、そして景色の全てが歪んで見える。

 想起されるのは騒がしいながらも幸せな日々。

 隊商の皆と賑やかに過ごす時間。

 隊商の皆と飲み食いをする団らんの一時。

 それらの思い出は暖かく、心地のよいものだった。

 しかし、それらは既に二度とはよみがえることはない。

 思い出は何よりも優しく、何よりも残酷にシガールの心を引き裂いた。

 母の、父の笑顔が何度も何度も、思い起こされる。

 母の作った煮込み料理が懐かしい。

 父の人懐っこい笑顔が懐かしい。

 ──強くならなくては。


 「……おい、シガール。 冷めちまうぞ?」


 「うぅ……!」


 赤雷の言葉を聞かず、とうとうシガールは顔を鼻水と涙でぐちゃぐちゃにして泣き出す。


 「泣くなよ! ったく、これだから餓鬼は……」 


 しかし、ほどなくしてシガールは泣き止む。

 赤雷は不思議そうにしていたが、すぐに何事か支度を始めた。

 その後ろでシガールは、父の剣を固く握りしめる。

 

 「……さて、シガール。 飯の後で悪いが、早速移動するぞ?」


 「……移動って、どこへ?」


 赤雷の言葉にシガールは首を傾げる。

 移動先は教会だろうか。

 赤雷にしたって、「きちんとしたところで弔え」と言っていたから恐らくは教会だろうと思われた。

 但し、シガールの予想は赤雷の言葉で覆される。


 「──言ったろ、『俺は仕事で来た身だ』とな。 行くぞ、奴らは俺の標的なんだ」


 その言葉で、シガールは男の背を見つめて黙り込む。

 だが、何故であろうか。

 ──仇を討てる。

 そう感じているのに。分かっているのに。

 シガールはどうしてもその言葉に納得がいかなかった。

 その、言いようのない焦燥と不安に苛まれながら、シガールは男に付き従うのだった。







 「ふむ……こっちか」


 赤雷はしきりに地面を見ながら、行く先を決めて移動する。どうやら目印を設置したようでなにものか回収し、地図を眺めたりしながらも、こうして迷うことなく移動して来た。

 だが、大人の足はシガールの想定以上に速いもので、視線の先にようやく赤雷が視認できる程だ。子供の足では付いていく事がやっとであった。


 「ちょっと、こっちって……本当かよ?」


 シガールは肩で息をしながらひと睨みし、駆け寄る。

 見ると、赤雷は地面を注意深く観察してはあちらこちらへと移動する。

 傍に寄るなり、口を開く。


 「見ろ、この足跡。 向こうへ向かってる」


 指差して、何もない林を見やる。

 続いて足元を見ると、大人数とみえる足跡が確認出来た。

 けれども、シガールにはその足跡が何処から来てどちらへ向かったのかすら見当もつかなかった。

 ただ映るのは無数の足跡。それだけだ。


 「ま、分からんだろうな。 だが、こんなのは追跡の初歩だ。 連中が使ったのは、熊なんかがよく使う手段さ。 “戻り足”ってんだがな」


 赤雷によると、“戻り足”とは自らがたどって来た足跡をなぞり、その足跡そくせきをくらます目的で使うものだという。

 特に頭の回る動物に限らず、人間もこのように手段として用いているらしい。言われて見れば、よく見ないと分からない程度で足跡がいびつな形をしているような気もするが、やはりあくまでも気がする程度である。何がどうなっているかは分かりかねた。

 シガールが再び足跡を眺めて首を傾げていると、赤雷は静かにしろと合図をして、小声で話す。


 「そろそろ静かにしろよ。 恐らくは連中、斥候せっこうを放っているだろうからな」


 「根拠は……?」


 「戦い慣れている。 そうなると、元騎士か元傭兵だろうからな。 斥候を放つ程度の頭は有るとみるべきだ。 斥候は何人か斬ったが……要心に越したことはねえだろう」


 騎士や傭兵は基本的に稼ぎが良い。

 ──が、担い手も多い分、離職する人間もまた多い。

 ましてや常に死と隣合わせの環境である。

 妻子あるものとなれば尚のこと、養わねばならない重責がある。そのような人間程に、離職する者は枚挙に暇がない。

 楽をして稼ぐのであれば、隊商や商人を襲う方が理にかなっており、野盗に身を落とすこともままあるのが現状だ。

 こと辺境の騎士などに至っては、出世の望みも薄く、野盗や近隣諸国との小競り合い等で犠牲者も多い。

 無論、不平不満も渦巻く。

 よくて野盗に身を落とすか、下手をすれば他国への亡命である。

 そして、それら元戦闘職の人間は得てして戦い慣れしている為、撃退に難儀する上、場合によっては策なども弄することもあり、商人などの立場としては非常に危険な敵となるのである。

 赤雷の口振りからするに、連中は高確率で元戦闘職の人間だろうことが予想される。

 だが、目の前の男はそんな男達を斬り伏せたというのだ。それも複数人である。

 シガールの疲れた顔に不思議と柔らかい笑みが、薄く浮かんだ。


 「赤雷さん……は、強いんだな」


 「ふん。 ……何が強いものか」 


 赤雷は鼻白んでなにごとかを呟いたかと思うと、それきり黙ってしまった。

 しかし、暫く歩を進めると、


 「ん? 誰か倒れてるぞ!?」


 そう言って倒れてた人に駆け寄る。

 シガールはその人物に見覚えが有った。


 「そん……な、まさか……」


 十代前半とおぼしいその少女の髪は亜麻色で、見た目麗しい姿を、今では地に四肢を投げ出して倒れていた。

 しかし、もはや少女の格好は視るに堪えないものだった。

 服と思われる布切れはずだ袋のように引きちぎられた痕跡が見受けられ、そのうえ上半身は裸に近い。

 その姿は、あるものには痛々しさを、またあるものには情欲をそそる何かを伝えるだろう。

 

 「マジー姉ちゃん……?」


 憔悴しょうすいしきったシガールの声が、こずえの揺れる音に掻き消された。

 

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